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人が人工知能技術の発展で得られたものは、自動化と膨大な量のデータを処理してくれる便利な道具、だけではなかった。 半導体の小型化や計算速度と能力を各国が競う。 当然、突出した技術はそのまま軍の力にも見て取れるため、主義が異なる国にとっては脅威以外の何物でもないからだ。 また、プライドが高い民族は一度世界の頂点に立つと、その座を必死に守ろうとするだろう。 そのため、他者からの干渉を異常に嫌う。 国が、ひいては党が認める"優秀な"人物たちの指導の下、人命よりも
奥さんの実家に住めるという男性はどのくらいいるだろうか。 農業が中心の貧しい社会から発展を遂げ、一人一人が会社に属することで生活ができるようになった。 国には、給料という実に明確な所得を得る人が多くなればなるほど税金を取り逃すことが無くなるというメリットがある。 また、農産物で高い所得を得ることはそう簡単なことではない。高度な工業や商業を産業として持つことで、全体の所得向上につながるわけだ。 所得が向上すると、割合で決まる税金も当然増える。 そうして、こ
新人として駐在所勤務が日常だったが国会が決めた、いわゆる安楽死制度が始まって以来、この制度の窓口へ異動になった。 国民の安心安全を守る仕事、父親の背中を追いかけるようにして自分も同じ職に就いたはずだが、気づいたらまるで最期の番人のようだ。 当時は若かったこともあって何も考えていなかったが、しばらく携わってみてとんでもない場所へ来てしまったと気づいたことを覚えている。 なので、思うところが無いと言えば嘘になるだろう。 制度開始時は、簡単に国民が自ら命を手放すよ
この制度が始まった当初、設置が可能な警察署の地下を法の要件を満たすように改装する形で、比較的大きな都市を管轄する建物から随時施設の設置が進められた。 全国の中でも人口密度が高い東京都は、地方に比べると財政に余裕があり、景気もあまりよくなかった背景もあって、ひとつの公共事業として積極的に設置が進んだ。 法の猶予期間中は各区に1か所2か所あれば要件を満たすくらいに設置を急がれたものではなかったが、成人はおろか高校生にも満たない者の線路への飛び込みやビルからの投身が相次ぎ
「わあ、こんなところがあるんだ。」 日常の雑踏から逃げるように、少しばかりローカル線で内陸に向かうと同じ空の下とは思えないほどの自然が広がっていて、ようやく厳しい寒さから息を吹き返したかのように、木々も、そして生き物たちも試練を乗り越えた喜びを分かち合っているようである。 噂には聞いていたが、山間にある有名な神社を囲むように広がる桜はそれは見事で、地元の人も、また観光の人も見わけが付かないくらいに、それぞれが鮮やかな春の景色を楽しんでいる。 陽が落ちればまだ寒い時
本人がどう思っていようと周囲や社会は歩を進め続ける。 「価値観を押し付けるな」という価値観を誰かに押し付け続ける限り、周囲はあなたに手を差し伸べることは無いだろう。 人間なら他にも掃いて捨てるほどいるからだ。 貴族という世襲を含む特権階級支配社会では、後継ぎの無能に無条件で権力が引き継がれる愚かさが顕現したようなどうしようもないものだったが、それから遥かに進歩した現代社会でも、まだ不完全で改良の余地はある。 そこに、地中深くからわざわざ掘り出してきて、自らが
信用は、より実績に伴う。 価値観と発言力への信用は人間性と実績次第だろう。 かつて世界は危うく核戦争へ突入し、人類は滅亡の一歩手前までいったが、将校の一人が承認を拒否したことで回避されたという。 キューバ危機の最中、核を搭載した潜水艦が周囲の爆撃から逃れるために海中深く潜航、電波が届かないため外部からの情報から断絶された。 状況からすでに開戦したのではと判断。 核攻撃を艦長と将校2人の合計3人で決め、実行しようとしていた。 しかし、1人が承認を拒否し、核攻撃
「いいかもね。ちょっと考えていい?」 急いではいないようですが、返事は出来るだけ早く欲しいそうです。 由美さんから聞いたままを伝える。 由美さんの活動を応援する人は少なからずいるが、その人たちの中に後継ぎがいないので事業を引き継いでくれる人はいないかという話をしている人がいた。 長らく自治体のごみ収集事業を請け負ってきたが、自身が高齢になるにつれて誰かに譲れたらと考えてきたそうだ。 いち従業員としての立場をあくまで出ない社員に譲るわけにもいかない。要は、混乱な
「母の姿はとてもきれいだったんだ。」 なぜ、ちゃんと最期を看取らせてくれなかったのか。 そう母の遺体の傍で、そして心の中で、何度も責めた。 そうしているうちに、きっと言わなかっただけで相当苦しかったんだろうなという思いが込み上げてきた。 痛みは本人にしかわからないから。 そう由美さんは、これまで溜め込んでいた大きなものを一つ一つ苦しみながら吐き出すように話す。 「安置所でさ、眠っているようだった。 一目見てわかったよ、やっと解放されたんだなって。」 由美
由美さんのお母さんは、肝臓がんだったという。 貧血のような、めまいのような、まあ寝ていればそのうちよくなると言い、一日横になっている日も少なくなかったが、ある日たまたま行った血液検査を皮切りに見つかった。 ただ、その時にはすでに遅かったらしい。 転移している可能性もあって、医師はさらに精密な検査を勧めたが、真実さんは痛み止めの薬を希望するだけでそれ以上は望まなかったという。 由美さんが二十歳を過ぎたあたりだった。 真実さんは50代の半ば、旦那さんのおじい
「多くの人は、自分の人生に意味があったと思いたいと思うよきっと。」 二人そろって、おじいさんの声が聞こえた気がしたあの後も、 少しだけのつもりでお酒を飲みつつ、話を続けている。 最近の情報交換と言えば聞こえはいいが、また先輩の話に戻ってきた。言っちゃ悪いが、厄介な人の話はどうしても盛り上がってしまう。 その流れで由美さんがそんなことを言う。 「だってさ、自分の生き方に満足している人なんて世界にどれだけいるんだろうって思わない?」 そうだなあ。 「気づいた
由美さんに先輩の話をしている。 あまり、愚痴や人の事を話題にしたくないし、することもないのだが、例の事件の話の流れからつい、そんな話になったのだ。 つい、というより、それも人間関係なので仕方が無い。 この際だから、思いっきり聴いてもらう事にしよう。 こうして、クセの強い人間の噂というものは本人の知らない所で、様々な人の話のネタにされて広がっていく。 コミュニティの外だ、万に一つも本人と交わることが無いだろうと散々言っていると、どういうわけか巡り巡って本人に伝
「あの人は何なんですかね。」 あの人とはと尋ねると、どうやらあの先輩の事らしい。 温厚な、ひと回りは年上の藤沢さんが少しイラつきを見せる。 珍しいな。 あの日、わたしは由美さんにお呼ばれしていたので、さっさと帰ったが、あの後にどうやら何かあったようだ。 なんとなく、そうなるんじゃないかという気はしていた。 ああ、ようやくわかってくれる人が身近に現れてくれたか。 井上さんに言わせると、別に悪気があるわけ無いんじゃないなんて簡単に言うもんだから、あてにならな
「オレ先輩だからさあー、いくらでもアドバイスできるよ」 懐かしの新人時代、研修で通った相変わらずの場所に、相変わらずの先輩がここにいる。 いつもなら、ため息をつくところだが今日は藤沢さんを連れてきているので一味違う。 「なにー?久しぶりに見たかと思えばずいぶん偉くなったじゃん」 偉くなったつもりなんか、もちろんない。 あれからほぼ一人でいられる空間で、業務というよりは作業を淡々とこなして、井上さんの依頼どおり、新人さんに引継ぎまで可能かもしれないというく