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坂本龍一×高谷史郎「TIME」

友人が紹介していて、東京公演最終日に間に合った「TIME」。新国立劇場の中ホールには水の流れる音や風鈴のような音がかすかに聴こえていた。

ひとときの暗転ののち、無からいま生まれたように田中泯さんがそろりと動きはじめた。宮田まゆみさんの笙の音が響く。

舞台上に作られた水面と水際に配置されたいくつかの道具、後ろに映し出されるスクリーンの高谷史郎さんの映像が舞台を構成する。

夏目漱石「夢十夜」と「邯鄲」「胡蝶の夢」をクロスさせて紡がれるその世界は、彼岸のようでも、夢のようでもある。

能や舞台やお祭りは、人の内側に抱えたままやって行くしかない、憎しみや悲しみを受け止める代償的な装置だったのかも知れない。行き場のない感情や負のエネルギーを放出させることで、集団を存続させるための。

舞台上で語られる物語を重石とするように、私も内側に深く深く潜り込み、自分だけのイメージに身をゆだねた。


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