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元カノに会いたいワケは

男が久しぶりに元カノに会いたいと思うのはどんな時だろう。

普通に友達に戻りたくてなのか、そうでなければ復縁のためか、ただ寂しさを埋める為か。はたまた、セックスをする為なのか。

しかしそんなのは、男が「元カノ」をいつまでも自分のことを好きでいてくれる存在だと勘違いしているが故に起きるものだ。俺に当てはまるものじゃない。

別の記事でも少し触れたが、元カノとは酷い別れ方をした。もうこれ以上修復できないことを何度も互いに確かめ合って、傷だらけになりながらようやく別れたのだ。彼女は私と付き合ったことを相当に後悔しているだろうし、実際付き合ったことなどなかったことにしたいと別れた後に言っていた。更には、「今後の人生では二度と関わりたくない」とまで。

それが悪いことだとは、全然思っていない。僕らの交際は、それくらい盲目的で。振り返ってみれば、忘れてしまった方が防衛機制としてはむしろ正しいくらいのものだった。僕もかなりの記憶を失っているし、自分の都合の悪いことなんかは特にそうだろう。まあ、それもきっとお互い様だ。

まあそれはともかく、僕と彼女が再会する、否、今後の人生で関わることなどないと思っていた。彼女の望みは叶えるべきものだ。それくらいのこと僕はしたのだから。

正直僕だって会いたくはなかった。交際の終盤は、色々と怯えていた。今でも彼女を思い出すと、不機嫌な顔や泣いた顔、怒った顔ばかり浮かぶ始末だ。自分の事を嫌いな人間には、誰だってすすんで会いたくないものだ。

それこそ別れた直後は言いたいことも色々あったが、別れてからもう2年半も経った。今更言いたいことなんて殆どないのである。だから、もう会うことはないと、ずっとそう思っていた。

しかし先日、高校の同級生からDMが届いた。

「今度、運常で集まらない?」

運常とは簡単に言えば「体育大会・球技大会実行委員会」的なものだ。僕が高2から2年所属していた委員会であり、そして元カノと仲良くなったきっかけでもある委員会だ。

その当時のメンバーで久しぶりに集まろうという誘いだった。まさかの誘いに俺は今年一番驚いた。もちろんその集まりには元カノも来るわけで。元カノも自分が来ることをどうやら了承している(?)というのだ。

あんなに関わりたくないって言ってたのに。2年も経てばそんなものか……と時間の作用に感慨を抱いた。

私は返事に迷った。

そもそも飲み会などあまり好きじゃないし、なんなら委員会のメンバーとはいえ話したことのない人も多い。あんまりお金も使いたくないし、普通に元カノがいるというだけでかなり気まずい。

同窓会みたいに何百人も集まるのならともかく、今回は来ても十数人だ。どうやったって全員で輪になって話すタイミングは出てくる。俺はその時どんな顔すればいいんだ。っていうか当時の話を笑い話にして話せるほど、いい思い出をお互い覚えていないだろうし、いい思い出以外を話すにはメンバーが親しくなさすぎる。どのみち会話が盛り上がるシミュレーションができない。元カノは俺が来た場合どうするつもりだったんだろう。付き合ってたことなどなかったかのように全く触れないつもりだったのだろうか。それはそれで気まずいだろ。

と、断る理由は山ほどあったのに、なぜかうだうだと返事を濁していた。

単純に元カノ以外に会いたい人間がいたのもあるし、この委員会の集まりは卒業後初めてで貴重な機会ということもある。しかし、多分迷っていたのはそんなことではない。

なぜか心の片隅にほんの微量だけ、元カノに会いたいという気持ちがあったのだ。

もちろん今は好きじゃないし、相手がそうであることも知っているし、なんなら全然会いたくすらない。ただ、なぜか、「話したい」と思っている自分がいた。

断る理由を探しているのか、会う言い訳を探しているのか、もはやどっちなのか分からないほど悩んでいた。しかし、この「話したい」という気持ちの矛先が元カノではないことに気付いて、俺は断りの連絡を入れた。

          *

恋愛に限らず、人と関わるということは、自分の欠片を少しずつ預けるということだと僕は思う。

よく「自立をするということは誰にも依存しないことではない。多くの人に少しずつ依存することだ」みたいな話を聞くけど、それと同じで、誰にも自分を預けず生きていくことなんて人はできなくて。みんな家族なり友達なり恋人なりに、少しずつ自分を預けて生きている。

ただ、僕は生きるのがヘタクソで、配分を間違えて、いつも恋人に預けすぎてしまう。そういった「恋愛依存」の話は、また別の記事で話そうかと思うけど。

つまり元カノは、当時自分の欠片を死ぬほど預けていた存在なのであり、別れた瞬間から僕は一部の僕を喪って生きてきた。

しかし僕は、たとえそれが防衛機制に反するものだろうと、過去のことを忘れたくない人間だ。自分が傷ついたことも、傷つけたことも、できるだけなら覚えたまま大人になっていたい。それはもはや大人ではないのかもしれないけど。

だから、忘却に抗う為に日記を書き、歌を作り、こうしてnoteを書いている。

そんな欲求を持つ僕だから、僕は元カノに会いたいなんて思ったのだ。

しかし実際「話したい」と欲望した相手は、元カノなんかではなく、彼女の中にある僕の欠片。そう、僕は過去の自分に会いたかっただけなのだ。

だから、会わなくて正解だ。

ただ元カノ自身に一つだけ言いたいことがあるとすれば、それは謝罪だ。まさかこの記事を見ることは百億%ないだろうけども、まあ億が一見ていたら、ごめんなさい。それだけは2年以上経った今も伝えたいと思っています。

僕はいまでも、きっといつまでも、こうやって過去の自分に会いたいと恋焦がれながら、生きていくのだろうな。

僕にとっての「未練」とは、そういう意味なのだろう。


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