日本人の労働意識~とある日の上司との会話

 こんにちは、柚人です。
 突然ですが、先日中国人の上司と話してて、上司がびっくりしつつも納得して頭をうならせた話をしたいと思います。
 外資ならでは、というか文化が異なると、こういった部分の認識も異なっていて面白いな、と思ったので。

話の発端

 話の発端は、とある障害の調査が非常に時間がかかってしまい、顧客からも相当の不満を受け、最終的にレポートする際にどのランクでチケットをクローズするか、という話をしている中で、チームメンバーが自分が止めたにも関わらず閉じてしまったことにマネージャーへの連絡でした。

自分たちのチームとは

 顧客向けサービスデスクとして、一次窓口と切り分け、できる場合は自分たちで問い合わせを解決するチームになります。
 メンバーは上司とメンバー1名を除いて全員日本人。正社員もいれば契約社員もいるし、派遣社員も居ます。全部で35人ぐらいで詳しくはこちらで↓

なぜチケットが長引いたのか

 チケットが長引いた理由はL2といわれる各専門分野のテクニカル部門が、お互い「うちじゃない」「うちじゃない」と自分たちが普段やっていることだけをやって自分たちの正当性を主張し、それが収集がつかない点にありました。
 原因は複数チームにまたがって実施する作業の中で、作業漏れがあった、っていうことなんですけどね。
ただ、ネットワークの接続問題だったので様々な要因が含まれます。

サービスデスクでやるべき範囲

 その際、サービスデスクという自分たちのチームがやるべきことは、とにかく対象の問題が起きている端末・ネットワーク機器に関連する情報を集めることにあります。
 サーバー間のネットワーク問題だったので、そういった場合以下はサービスデスクとユーザー間で行うのが常です。

・ipconfig /allコマンドをたたく
・tracertコマンドで通信が確立できているか確認
・対象のサーバーのIPアドレスや名称、MACアドレスを特定する(端末情報収集ソフトから確認できる)
・影響範囲がそのサーバー、端末だけか、部署か、建物か、拠点か
・対象のサーバー、端末がADに登録されているか
・物理的な破損(LANポートのLEDの点滅状況の確認、ケーブル抜け)がないか

 この程度は何回かネットワークトラブルに直面すれば切り分け方法もわかり、確認できる問題ではあると個人的に思っていますが、なぜかサービス開始から3か月、いまだにできるメンバーがあまり多くはありません。
 上司からはマニュアルの作成を急がされてはいますが、可能性を一からつぶしていく作業になるので、ケースが非常に多いのがネットワークトラブルのマニュアル化の厄介なところです。

上司の素朴な疑問

 ここで上司がいくつかの疑問を質問してきました。
 彼は中国人で、今のサービスが始まるまでは中国で仕事をしていたので、日本人の部下を大人数抱えて働くのは初めてなので、実際に日本人の労働者の考え方や労働環境といったところはほとんど知りません。
 なので、よく自分から日本人の文化を教えたりしています。
 彼がしてきた質問は以下のようなものでした。

・なぜ止めたのにクローズしてしまうのか
・自分たちがやるべきことがわかっていないの?
・PMも書き込んでるのに、プロジェクトの偉い人達を知らないの?
・マニュアル作るのは大変だけど、それまでに経験から疑問があれば勉強しないの?
・疑問に思ったらいったん手を止めて調べるのが日本人の勤勉さだと思っていた
・危機感やキャリアプランってないの?

 ええ、その疑問はごもっともです。
 そんな疑問達に自分は以下のように回答しています。

なぜ止められてもやるのか、自分たちがやることがわかっていないのか

 止められてもやった点に関しては、もうその人個人の問題(いかにアラートが出ていようが、自分のしようとしていることを押し通して実行する)なのでどうしようもありませんでした・・。
 が、自分たちがやること、という点に関しては問題が根深いのです。
 日々、例えばSMEやリーダーなどがメンバーからの質問に対して「それは間違ってる」「これはこういう問題だから、ここのチームに投げて」「これだと情報不足だからユーザーに聞いて」と回答する文化がチーム内にあります。リモートが8割がたなので、基本的にTeamsでチケット別のスレッドを立ててその中でやりとりします。
 つまり、ナレッジは自然とTeams内に、そして整理されたものはチケット内に残るようにしているわけです。
 同じような問合せであれば、基本的に経験からどんな情報が必要か、どんなことをすれば解決の糸口が見えるか、というのが「学ぶ」ということですし、(経歴上)経験者採用であれば、このあたりはできるもの、と思うのが一般的でしょう。
 ですが、自分もびっくりしたのはメンターからメンティー(メンバー)へ回答した(口語的な表現の)文章をそのまま貼り付けたり、ユーザーからの質問をそのままコピペしたり、テクニカルチームに回す時も「ユーザーがこう言っているから解消してくれ」と直訳してなんの情報も付与せず対応する人達がほとんどだった、ということです。
(サービス開始前に、ケース想定のミーティングをやった際、最初の問い合わせからどのように対応するか、という話で、自分だけが複数のケースを想定し「これらの可能性が高いからまずはこのケースを調べるために、ここをやってみましょう」というアプローチをしていたのがとても衝撃的だった)
 マネージャーに言わせてみれば、経験者だ、バイリンガルだ、と聞いていたのにえらく裏切られた気分だったでしょう。
 ですが、日本人のヘルプデスク・ITコールセンター経験者といってもオペレータとして雇われたケースだと、マニュアルに則って対応することがまず基本的に叩き込まれるので、何も考えずに言われた通りにする人が多い、自分で考えない、そこで使われているものに興味を持たないのが多くを占めると自分は思っています。
 それを彼に伝えると、「ええっ?!」という驚きの後に、静かにため息をつきました・・・。

PMも書き込んでるのに、プロジェクトの偉い人達を知らないの?

 プロジェクトの体制表は、オンボーディング資料にありますが、非常に多くのメンバーがかかわっているため、各セクションのトップだけでも20人近くいます。
 これを読まれている方は全社的なプロジェクトの体制表を見たとき、それらの人を覚えることができるでしょうか?
 普段接点がない人には、覚えられないのが事実かな、と思います。
 少なくとも自分のように顧客も含めた定例報告会に出席して話すレベルの人間で、その人の存在を知らない、というのであれば問題ですけれど。
 まぁ、それ以前にオンボーディングで説明して、業務に直結する記載すら見落としてるし見返さないレベルなんでそれ以前なんですけどね・・・。

マニュアル作るのは大変だけど、それまでに経験から疑問があれば勉強しないの?
疑問に思ったらいったん手を止めて調べるのが日本人の勤勉さだと思っていた

 これに関してはIT関係なくてもありますよね。
 自分から彼に説明したのは、こんな感じでした。

・まず、多くの日本人はそこまで勤勉ではない
・如何に仕事に直結するものでも、学ばない人は学ばない
・専門知識や能力で重宝されることがなく、学校教育からして没個性の教育なので、とびぬけることに恐怖はすれど価値をあまり感じはしない
・自分みたいに、趣味で触っていたり、越権してでもいろいろ調べ、与えられている環境を感覚で弄り回して、物申す人間は非常に稀
・起きていることに文句は言うけど、実際に手を動かす人間は限られている

 あくまで自分の考えでものを言っていますが、これまでの経験上これらはおおむね合っていると思っています。
 これらを話すと、彼は「え?でも日本人でも海外に出て現地でプロジェクトをリードしたり、市場を開拓する人達もいるよね?彼らは飛びぬけているよ」と言いました。
 ええ、それが極めて稀な一部の人たちです。
 ここでその稀な人たちとそうでない人達の割合ってどれぐらい?というところも含めて彼に話しました。
 確かちゃんとしたデータはあったかと思いますが、その時出したのは「ハインリッヒの法則」と言われるもの。
 ハインリッヒの法則は、労働災害における事故の発生の割合を示したものです。

 1の重大な事故(死亡災害・重度障害)
 29の中度や軽度の事故(手指切断、数か月の入院など)
 300のヒヤリハット(物を落として怪我しそうになった、など)

 という三角形になっているよ、というものです。
 実際に小さい規模でいうと、努力できる人と努力できない人のヒエラルキーもこれに近いものがあると思います。
 「あなたが言った、世界で市場を開拓したりするのはほぼ1にあたる人。自分やほかのリーダーのように色々他人に聞いたり自分で調べたりできる人は29にあたる人、今あなたが直面している問題の対象になっている人たちが300にあたる人」と答えました。
 そうすると彼から次の質問が飛んできました。

危機感やキャリアプランってないの?

 これに関しては、時間切れで途中までしか話せなかったのですが、彼が疑問に思ったのは「例えば5年後とかにこれぐらいの給料が欲しい、とかこういう役職についていたい、とかないの?」と。
 自分から彼に話したのはこんな感じです。
「まず、危機感という点においては終身雇用の名残がまだまだあるおかげで、かなり薄れています。また、社会制度も豊富で、アメリカや中国ほど問題が表面化しないしデモクラシーなどを起こすほど結託もしません。」
「次に、キャリアプランですが、自分が何をしたいか、いつにどのぐらいの収入や役職が欲しいとか、どういう仕事をしていたいとか、そういった思いは二の次になるほど、日本企業では採用と求職のバランスの乖離が激しく、また給与も高くありません。特に日本企業に勤めている期間が長い人ほど、引き立ての話などないのを知っているので、未来を構想しません。これらは社会保障制度の破綻もあって余計に未来に夢を見ることを忘れている日本人は多いです。」と。
 もちろん自分の周りには危機感を持っている人がいるのは知っているけれど、キャリアプランの構築をして、そのために実践する、という自分の将来というプロジェクトを回すような考えができる人はそんなには多くはないし、望んで実施する人も今の労働市場には多くはないと思っています。

まとめ

 これ英語で書いたら「日本の労働者ってこんななの!?マジか!」って反響が少なからず飛んできそうな内容ですね。
 うん、でもたぶんマネージャーやっている人達や、普段同僚との仕事の差に苦労している人(頑張りすぎてる人)達には、「あー、確かにそうだわ」と納得できる部分もあるんじゃないかな、と思います。
 エンジニア界隈では結構名前の知れているMicrosoft社員兼漫画家なちょまどさんこと千代田まどかさんと、グローバルな働き方に関して日本企業に経営コンサルティングをされているロッシェル・カップさんとが出した「マンガでわかる」シリーズの「外国人との働き方」という本があるんですが、この話はそれの逆版にあたるのかなぁ、と。

自分の本じゃないですが、宣伝しておきますね。

以上おしまい、ここまで読んでいただいた方ありがとうございました。

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