父のレコードとボストンキャリアフォーラム
父はレコードが好きだった。実家ではよくボサノバが流れていた。
レコードから流れる音は当時J-POP大好き青春時代真っ最中の僕にとって心地の良いものではなかった。
素敵な音楽だと気づいたのはそのときの思い出から随分と時が経ってからだった。
父はもう覚えていないかもしれないが
「このレコードA面もB面もいいな」
と何度も裏返しては針を落としていた。
カセットテープやレコードには容量があり、A面、B面がある。
片面は数曲で終わってしまうから、頻繁にひっくり返さなければならない。
古き良き、レトロなかっこよさはあるが、Spotifyなどと比べると時代の流れには逆らえなくなってきている。
最近僕もレコードを買ったが、音楽を聞いていると父親のことを思い出す。
『A面もB面も聞いてから良し悪しを判断せんと。同じ盤でも全然違う表情になるけんね。A面だけで判断しちゃいかんばい』
そんなことを父は言っていた。
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失礼、まるで父が死んだような物言いだが、まだまだ現役で生きている。
海外を飛び回る仕事(A面)
RIMOWAのスーツケースを引いて、颯爽と成田空港へ向かう。
ギリギリまで家のPCにかじりついていた。
出発までに仕上げなければいけない仕事がある。
このメールを送れば、出発しよう。
そんなことを思っていると携帯が鳴る。
大学時代の友人からだった。
「今夜飲めない?」
「悪い、今からボストンだわ」
大学時代に仕事で海外に行けるといいなと思っていた。
グローバルってかっこいいじゃんってずっと思っていた。
空港でチェックインを済ませ、いよいよアメリカへの長い旅路が始まる。
高まる気持ちを少し押さえながら機内に乗り込んだ。15時間近いフライトは久しぶりだ。ワクワクが止まらないことが胸の鼓動から伝わってくる。
海外を飛び回る仕事(B面)
気がつくと電車に乗る時間が過ぎていた。
あぁ、またやった。
間に合わない…タクるしかない。
大学時代の友人からのLINEに気づく。
「うぃすー!今日合コン行かね?芸能関係の子たちが来るよ~」
「うわ…まじか…まじか…リモートでも参加できないよね?笑」
慌ててキャリーバッグを引き、タクシーに乗り込む、行き先は成田空港。
タクシーの運転手が言う。
「成田空港?ん?大丈夫ですか?」
「全然大丈夫じゃないので飛ばしてください!!」
映画をダウンロードしまくっていたiPadを忘れたことに気づく。
さっきまでのダウンロードはなんだったんだ…
更に追い打ちをかける。
ESTAのトラップ。
ただ、僕も良い大人だ。今回はバッチリ申請していた。
そんな安易な人間ではない。
意気揚々とチェックインカウンターに行くと…
「お前の申請しているESTAはねぇ!」と言われた。
もう一回言いますね。
「お前の申請しているESTAはねぇ!」
(ちょっと感じ変わりましたよね?)
やれやれ…とPCを開き、申請の許可画面を見せる。
承認されているがな。
グランドスタッフがそれをチェックしてつぶやく。
「生年月日が違いますね。あと30分以内にESTAを再申請して許可がでなければ、今日の出発は無理です」
人生はときに自分の力ではどうにもできなくなることがある。
今まで2度その経験がある。
1度目は長く愛した彼女に振られた時。
2度目はパイロットをやめた時。
そしてこれが3度目。
僕の渡米はすべてアメリカ政府に委ねられた。
残り時間は30分。本日渡米できるか否かのアタックレースが始まった。
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『持っている』とか『持っていない』とかあまり好きではない。
ただ、どちらかと言うと持っている人だと心のどこかで信じている…
見事にESTAは20分ほどで許可された。
神はいつも僕の味方だ。ありがとうございます。
約15時間のフライトが始まる。`iPad忘れたのが痛すぎる…
胸の鼓動が止まらないのは多分、先程のESTA事件のせいだったと思う。
@Boston(A面)
初めての東海岸だった。西海岸は何度も行ったことがあった。到着して吸う空気は新鮮だった。タクシーでホテルまで向かった。おおよそ30分。
『The Revolution Hotel』
今回泊まるホテルだ。まるでweworkを彷彿とさせるようなホテル。
今回は海外採用という初めての挑戦。
Revolutionを起こせる人材を採用しにきた。
地下にはジムもコワーキングスペースもあり、しっかり仕事ができるなと胸が高鳴っていた。
@Boston(B面)
「地下にはコワーキングスペースがあるよ!カードキーを使ってエレベーターに乗ってね!Wi-Fiはフリーだよ!トイレとシャワーは各階にあるよ!
そういえば、荷物が届いているよ。ピックアップしていくかい?」
まくしたてるような英語が飛んでくる。
『Yes!』
元気よく回答をして、発送していた荷物を部屋に運び始めた。
良かった…一番心配していた荷物がちゃんと届いている。
ただ、一つ気になったことがあった…
「地下にはコワーキングスペースがあるよ!カードキーを使ってエレベーターに乗ってね!Wi-Fiはフリーだよ!トイレとシャワーは各階にあるよ!
そういえば、荷物が届いているよ。ピックアップしていくかい?」
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「Wi-Fiはフリーだよ!トイレとシャワーは各階にあるよ!そういえば、荷物が届いているよ。」
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「トイレとシャワーは各階にあるよ!」
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聞き間違えだと思った。
「トイレとシャワーは各階にある」
部屋に入って愕然とした。
部屋にトイレとシャワーがない。
いや、大の大人がそれくらいでピーピー言ってんじゃないと。
そのとおり。別に僕の話なら気にしない。
気にしていたのは前日入りした社長のことだった。
ホテルを予約したのは我ら人事チーム。
いい年をこいて、そこそこ大きな会社の社長がトイレとシャワーが共有。
Revolutionは待ったなしで始まったようだった。
その日、寝付きが悪かったのは時差のせいではきっとなかった…
※写真はイメージ図
ボストンキャリアフォーラム(両A面)
ボストンキャリアフォーラムは多くの学生が来ていた。
素敵な学生が多く、想定していたよりも良かったというのが本音だった。
ただ入り口からちょっとだけ違和感を感じた。
リクルートスーツと黒髪が圧倒的に多い…
あ!ボスキャリってこんな感じなんだ…?と不思議だった。
学生時代に合同説明会へ行って、リクルートスーツと黒髪で酔ってしまって20分で退出した。そんなことを思い出した。
Twitterにその様子を投稿をしたら反響を多く受けた。
「よく声を上げてくれた!」
「何だこの光景は!?」
などのコメントから
「学生を否定するな!」
「ボスキャリをバカにするな!」
「お前も就活してただろ!」
「着たくて着てるんじゃないよ!」
など…
多くのDMとコメントリツイートが寄せられた。
SNSはたくさんの意見が溢れている。素晴らしい環境だと思う。
でも、ボスキャリが悪い、リクルートスーツが悪い。
そんなことを伝えたかったわけではない。
何を隠そう数年前は僕もリクルートスーツで就活をしていたから。
迷いなく「え?就活はリクルートスーツでするもんだよ」
と思っていたから。
伝え方、伝わり方は相変わらず難しいなと思った。
本当の問題はもっと奥底にある(もうAもBもねぇ!)
この話には続きがある。
DMの中でいろんな話をしていると色々と見えてきた。
・ヒールで足が血だらけになっていてwalk inどころじゃなかった…
・スーツを買うのにH&Mを走り回った
・運営からリクルートスーツを指定されていた
・なかなかボスキャリ以外の就職活動の方法がない…
余談だが、一度ヒールを履いた経験があるので…気持ちはほんの少しわかる。
ではなくて、多分、これがもう一つの現実だ。
初めての海外採用、初めてのボストン、海外で頑張っている学生、留学生、グローバル、そんなエネルギッシュな空間は一つの側面で、もう一つの側面は見えづらいところにあるのではないか。
とある人事の会話が聞こえてきていた。
「ボストンは遊び半分だから良いんだよ。内定をいくつか出して成果出ました!って上に報告しておけば」
これが人事サイドのもう一つの現実だ。
そして、何より論外だ。
結局何が言いたいのか?
いろんな側面があるから自分で考えて行動することは素敵
自分で考えた判断を尊重できる世の中になるといい
いろんな現実がある中で、いろんな負が蔓延している。
ボストンキャリアフォーラム初日会った学生に
「明日また来れる?その時は私服で良いよ」と伝えた。
次の日、その子は少しはにかみながら
「周囲の視線が痛いです…笑」
と私服で来てくれた。
大げさではなく、ほんの少し自然体を見れた気がした。
意外とそんなもんかもんなのかもしれない。
自分らしく生きることはすごく大切。そんなことは頭でわかっている。
でも実際に行動に起こすことは大変だと思う。
だから少なくともそういった勇気を許容できる大人でいたい。
それに、そういう選択をちゃんと自分でできる大人を増やしたい。
運営会社の方々へ
届くかどうかわかりませんが…
リクルートスーツが必要か参加企業に確認してほしいです。
シンガポールキャリアフォーラムでは社会人はラフなTシャツで、学生はリクルートスーツで汗をダラダラかきながら話をしていたと聞きました。
必須にしてほしい企業はもしかしたらもうそこまで多くないかもしれません。動きやすい格好で。歩きやすい格好で。
その方がwalk inしやすいです。きっと。
営業として箱を売るだけではなく、前年を越えるよりよいフォーラムを一緒に作っていきましょう。お願いします。
でも脱メラビアンの法則は意識しなければならない
ボストンキャリアフォーラム最終日。
ブースを片付けているときに一人の学生が訪れた。
プレゼンが面白かった。好きなブランドです。と話をしてくれた。
一通り話したあとに名刺交換をした。
『HARVARD University』
名刺をもらった瞬間、足が思いっきりふらつきそうになった。
どんだけ偉そうなことを言っても、つい『印象』『肩書』そういったものでラベリングしてしまう癖がついている。その方が楽だから。
父親の言葉を聞こえてくるようだった。
『お前まだレコードが理解できんとや?』
うるせーこっちも必死なんだ。
失礼、父はまだまだ現役で生きている。
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