みんな星に還って行く サン=テグジュペリ 『星の王子さま』
『星の王子さま』は、別れの話だ。最近、何度目からの再読をしたら、別れのシーンが特に印象的だった。
池澤夏樹、ドリアン助川、河野万里子の訳を読み比べてみたが、訳者によって、キャラクターのセリフの言い回しが違っていて、ニュアンスにも微妙な違いが見られて面白かった。それぞれに訳者の個性や考え方が反映されていた。
『星の王子さま』は、1943年にアメリカで出版。作者のサン=テグジュペリは、第2次大戦中のフランスからアメリカに亡命中にこの作品を執筆。その後、自ら故国フランスの軍隊に志願、1944年、偵察飛行中に行方不明に。
『星の王子さま』は、サン=テグジュペリが自分がある日いなくなった時のために、様々な人々に向けて書いた書き置きのようにも思う。ある訳者のあとがきに、この作品は遺書ではないかと書かれていたけれど、遺書という重い感じより、ユーモアを込めた書き置きという感じかなと私は思った。
「もし僕が突然にいなくなっても、僕は自分の星に帰ったわけだから、君はたまに見上げて笑ってくれよ」そんな風に微笑みながら、話しているサン=テグジュペリの姿が見えるようだ。
彼は、そう遠くない未来に愛する人々との別れが来ることを予想して、残された人々が自分の不在をどのように考え、生きていけばいいか、メッセージを記したのだと思う。自分で行動して、物事を体験し、深く考えて、本当のことを探していくんだよと言い残して。
人はそれぞれの星に、最後は帰っていくのかなと、この物語を読んで思った。それまでの日々をこの地球で、皆それぞれに過ごしている。そして、別れの時は全く予期しないタイミングで、あまりに突然訪れる。
この物語は、大切な人との別れが来た後に、どのように悲しみと共にやっていけば良いのか、ヒントや励ましを与えてくれると思う。愛おしい人を失ってしまった人たちに優しく語りかけてくれる。
今度、夜空の星を見上げ、ちょっと笑いかけてみようと思う。あのはにかんだ、いとおしい笑顔を思い出して。どれかの星がキラキラと瞬き、にっこり笑い返してくれるかもしれない。そしたら、ぼくは昔よく歌っていた歌を歌いかけてみようと思う。
※少しだけ補足
この物語の冒頭に友人レオン・ウェルトに捧げると書いてあり、執筆当時、消息不明となっていた彼がどこかで読んでくれるよう願って書かれた作品でもあるようだ。でも、それだけではなく、様々な人々に向けて書かれていると思う。サン=テグジュペリは10代の頃に弟を亡くしている。「星の王子さま」のモデルは彼の弟という説もあるようだ。この物語には、サン=テグジュペリの心が多分に反映されていると思う。だからこそ、悲しみを包み込むような優しさを感じる物語なのだろう。
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