お盆前の読書会『不在と永遠、詩と物語』 レポート③
さて、また前回に引き続き、8月11日・12日開催のお盆前の読書会『不在と永遠、詩と物語』のレポートです。前回のレポート②は、第1日目の11日に参加者の方々にご紹介頂いた本をご紹介させて頂きました。今回は、第2日目の12日にご紹介頂いた本をご紹介いたします。
今回の読書会は両日とも、喪失や詠別をテーマに開催。第2日目も様々な本をご紹介頂きました。重たいテーマながら、屋外で開催したのもあって、キャンプのようなゆったりした雰囲気で、とても和やかな良い時間でした。それでは、本をご紹介。
アメリカのアリゾナで共同生活を送る中で育ち、各々の母親を自殺で失ったことから日本で暮らすことになった「まこ」、パン職人の「嵯峨」の2人の物語。孤独や悲しみを抱えながらも共に生きていく姿が描かれる。小説の冒頭には、青葉市子さんの曲『いきのこり●ぼくら』の歌詞が引用されています。美しい装丁の本でした。
今回、私は笹井宏之さんの『えーえんとくちから』をご紹介させて頂きましたが、参加者の方よりこちらの歌集もご紹介頂きました。歌人・笹井宏之さんは2009年に26歳でご逝去。この歌集『ひとさらい』はその前年2008年刊行の第一歌集。笹井さんの短歌は、独特の透明感や静けさがあり、優しさやユーモアも感じます。短歌の形をした一行詩であり、音楽のようでもあります。
ピンク色の毛布が大好きなジェイン。赤ちゃんからだんだん成長していくにつれて、日々をずっと一緒に過ごしてきた毛布はボロボロになります。それでも毛布を手放さなかったジェインでしたが、あるきっかけから、大切にしてきた毛布を手放すことにします。毛布と別れる時のジェインの気持ちは寂しくも温かく、別れにより全てが失われるわけではないと思わせてくれました。
こちらはハリ書房さんがご紹介してくれた絵本。夏祭りの屋台で、お父さんにひよこを買ってもらった少年、わたるくん。ひよこといつも一緒に遊び、そのそばをひと時も離れずに過ごしていました。ある日、ひよこと遊びながら、彼はうとうとと眠ってしまい、目を覚ましたら…。お話の後半はどうやら切ないことになるようです。「いのち」について語られた物語とのこと。
こちらもハリ書房さんご紹介の絵本。小説『コンビニ人間』で人々を驚かせた小説家・村田沙耶香さん作の絵本。絵本を出されていたことにも驚きました。米増由香さんの絵も私は初めて見ましたが、くすんだような深い色合いで、ファンタジックながら、どこか不穏で悲しみも感じる絵でした。死や別れは直接的には描かれてなくても、その雰囲気が漂っているように感じました。
犬のエルフィーと「ぼく」は大の仲良し。「ぼく」が大きくなるにつれて、エルフィーはだんだん年を取り、太っていき、寝ていることも多く、好きだった散歩も嫌がるように。それでも、「ぼく」はエルフィーと同じ部屋で寝て、寝る前には必ず、エルフィーに「ずーっと、だいすきだよ」と毎日伝え続けます。そして、ある日、エルフィーに死が訪れます。言葉に出して相手に気持ちを伝えることはやはり大事なことだと教えてくれる作品。
アナグマは物知りで賢く、他の動物のみんなからとても慕われ、頼りにされていました。冬のはじめ、年老いたアナグマは死んでしまいます。かけがえのない友を失い、誰もが悲しみに暮れます。しかし、アナグマは、森のみんな一人一人にすてきな贈り物を残していきました。その贈り物とは一体?親しい人の死に直面した後に、残された者たちはどう生きていけば良いのか、死者を偲ぶとはどういうことかも描かれています。また、人が世を去った後、他の人々に残せるものは何なのかも語られている作品だと思いました。優しい作品でした。
さて、喪失や詠別をテーマとして2日にわたって開催したお盆前の読書会『不在と永遠、詩と物語』のレポートは以上となります。読書会で色々な方々からご紹介頂いた本を振り返りながら、記事を書いていたら、何だか不思議と穏やかな気持ちになりました。
喪失や詠別と言っていましたが、より端的に言えば、死別で、そういう体験は誰もが経験するもの、どうしても避けられないもの。しかし、レポート①でご紹介した絵本『くまとやまねこ』のように、親友の死別による悲しみに暮れる、くまの気持ちは他者にはなかなか伝わらない。どう話してみても、その人固有の悲しみを共有することはできない。だから、くまは行き場のない悲しみを胸にさまよい歩き、結局、家にこもるしかなかった。
しかし、やまねこが奏でるバイオリンの音楽のように、心を込めて表現されたものによって、行き場のない悲しみは受け止められ、何らかの変化や行き先を見いだされるのではないか。そんなことを私は一年あまり、ずっと考えてきて今回の読書会も企画しました。ここ数ヶ月書いてきたnoteの様々な記事もそういう動機です。
わりと直近の記事『読書は、盆踊りだ!』で何だかひと段落かなという気もしていて、これからは詩集をはじめとした本の紹介や、アハハと笑えるような面白い文章を書きたいなと思っています。今は世を去ったある人から「忘れられない贈り物」をたくさん自分はもらってきたので。今回、読書会が終わった後、両日とも手持ち花火をしましたが、迎え火みたいな意味も実はありました。
何か文章を書くことは、小さな火を灯すことのようにも思います。また、文章だけでなく、詩や歌、音楽など、誰かの作品に触れることは、火を分けてもらうことのようにも思います。でも、何より実際に会った人の笑顔、言葉や振る舞いは心にポッと鮮やかな火を灯すものだなと。人はそれぞれの心に灯る火を、互いに分け合いながら生きているのかなと最近はよく思います。
風が立ち、浪が騒ぎ、
無限の前に、腕を振る。
突然に中原中也の詩「盲目の秋」を引用ですが、中也のこの詩も『不在と永遠』または『喪失と詠別』を歌ったような詩だと私は思います。中也も様々な別れを人生の中で経験し、泣いて、哭いて、涙を結晶化させるように詩を書いた詩人でした。さて、最後に同じく、中也の詩『別離』を引用して、この記事も終えることにします。
忘れがたない、虹と花、
虹と花、虹と花
今回の読書会へのご参加、誠にありがとうございました。今一度、感謝申し上げます。ハリ書房さんにも大変感謝しています。ハリ書房さんご出店の機会があって、開催できた読書会でした。あらためて感謝お伝えいたします。どうもありがとうございました。読書会の記事をお読み頂いた方も、誠にありがとうございました。それでは、またそのうちにお会いできたらと思います。
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