#390 人間の可処分時間を奪い合うWebサービス
いかがお過ごしでしょうか。林でございます。
今日は、「可処分収入」ならぬ「可処分時間」について考えてみたいと思います。
「無料」には常に理由がある
ご存知の通り「可処分収入」とは、収入から税金や社会保険料を差し引いた、個人が自由に使える残りのお金のことを指しますが、「可処分時間」はその時間版ですね。つまり、1日24時間の中で、睡眠や食事、仕事などの日々の生活に必要な時間以外の個人が自由に使える時間のことです。
スマホなどが誕生するデジタル化が一般的になる前の時代は、テレビなどのマスメディアや大手広告会社が、こぞって人々の可処分時間獲得の競争に動いていました。
iPhoneが誕生した2007年以降、一気にデジタル化が進み、個人が1台以上スマホを持つ時代になり、各企業の「可処分時間獲得競争」はより手段が多様化するようになりました。
企業が生活者に提供するWebサービスは、大きくサービス利用料を利用者から直接課金という形で徴収するビジネスモデルか、Webサービス利用者向けの広告を行うことで、スポンサー企業から広告収入を得て成立させるサービスに二分されますね。もちろん、このパターン以外もあるとは思いますが、私が普段利用するWebサービスはこのいずれかのパターンに分類できるかと思います。
「タダで利用できる商品やサービスはない」のが全ての原理で、「タダ」に見えるものも当然裏には「利用者にはタダに見える仕掛け」があります。
そしてその「タダに見える仕掛け」として利用者が提供しているものが、例えば「情報」であったり「可処分時間」であるわけですね。
「アンケートに答えてくれたら商品をプレゼント、○○ポイントを付与」みたいなのは、個人情報であったり利用者からサービス利用状況という「情報」を提供して、その代わりに商品やサービスを受け取っているわけです。企業から見れば、その情報を得るために自社の社員の労力をかけたり調査会社に委託費を出すよりも、商品やポイントを渡して受け取る「情報」の方が価値があると見て、このような「無料に見えるサービスや商品」を提供しているわけですね。つまり、企業は「情報」を得るためのコストをそこにかけています。
あるいは、顧客へのダイレクトマーケティング、つまり自社の商品やサービスを知ってもらうための機会(=時間)を創出するためのコストとも言えます。
いずれにせよ、「タダ」には常に理由がある。「タダ」のサービスを提供するための裏の仕掛けがあるので仕方ないのですが、「タダ」でないサービスにおいても、可処分時間を奪ってくるサービスに遭遇し、利用をやめてしまいました。
改悪が続くサービス
これまでは割と積極的に使っていたものの、「可処分時間」を割り当てるには、どうもバランスが悪くなってきたと考えて、最近課金をやめてしまったサービスがあります。
それは、ANA Pocketです。
https://www.ana.co.jp/ja/jp/share/ana-pocket/
これは、ANAのマイルを飛行機利用やANAカードだけではなく、普段の陸路の移動などにおいても貯めることができるサービスです。
私は東南アジアで10年近く仕事をしていたときに、月に4回以上は国際便を利用しており、当時よく使っていたのがANAだったので、その延長で使っていました。
ANAポケットは無料でも利用ができますが、移動で貯めたポイントをマイルに変換する時のレートが低いです。
マイルガチャを引くことで歩いて貯めたポイントをマイルに変換しますが、だいたい1000ポイントを使って変換できるマイルは1マイル。これが、月550円の有料会員になることで、最低でも1000ポイントで7マイル以上に変換できます。
私はこのサービスを去年から有料会員として使っており、実績ベースで月500〜700マイルを貯めていました。
特定航空券は、国内利用・ローシーズンで6000マイル、レギュラーシーズンで6500マイル(2024年12月現在)で利用できます。
そのため、月550円の課金で600マイルだとして、年間6600円で7200マイルと考えると、6600円で国内航空券片道分を利用できるという計算で、これまで利用していました。
しかし、つい最近のANA pocketのバージョンアップで、マイルガチャを引くためのポイントを効率的に集めるチャレンジ制度(1日5km歩いたら500ポイントゲット等)の際、有料会員であってもかなり多くの広告を見ないとポイントがかなり貯めにくくなりました。
このようなサービスのバージョンアップに伴う「改善」ならぬ「改悪」はこれまでもあり、当初はチャレンジ参加のために広告を見る必要がそもそもなかったのですが、途中から広告を見ないといけなくなりました。
無料会員が広告を見るのは、上述の通り「無料」の対価として「時間」を提供しているのでそういうものだと思いますが、有料会員であっても「時間」を提供しないといけないのは若干ハテナではありました。
しかし、上述のとおり、次々の「利用料」と「時間」を差し出す代わりに得られる対価が、私の中でギリギリのところで釣り合っていたので利用継続していました。
今回のアップデートにより、これまでと同程度のポイントを貯めるには、おそらく5倍以上の「広告視聴」という「時間」を提供しないといけなくなり、いよいよその均衡が崩れてしまい、利用をやめることにしたのです。
ANA pocketのような移動情報に応じた特典を提供するサービスにおいては、ベースとしてユーザーの移動情報というデータを提供する代わりにサービスを享受するという考え方でしたが、「移動情報」、「利用料」だけでなく、有料会員に対しても「広告視聴」の形で、多くの「可処分時間」の提供を迫るサービス設計思想に共感できなくなってしまったのが、最も大きな理由です。
最も大事な「可処分時間」
あくまで私の考え方ですが、何かのサービスを利用するにあたりユーザーから求めるものは、「お金」か「時間」のいずれかと割り切ったほうが、顧客満足度も高いと感じています。
例えばYoutubeなどは分かりやすくて、無料ユーザーは動画視聴の途中で広告視聴を強いられますが、有料会員であれば広告を見ずに動画が見れますよね。(2024年12月現在)
自らあえて生み出す「何もしない時間」には、至極贅沢な価値がありますが、「スマホ画面から広告が終わるのを待っている時間」は私の場合、苦痛でしかありません。
だから、そのサービスを利用したいと感じており、お金を払うことで広告視聴に心を煩わされることがないのであれば、喜んでお金を使います。
しかし、お金も出して、移動情報などのデータも出したうえでなお、「可処分時間」も奪ってくるサービスは、どっち付かずで自分は使いたくないなと感じます。
最近Voicyで実装された、放送の最後に「いかがでしたか?コメントや差し入れをするとパーソナリティが喜びます」みたいな応援ナレーション?も私は要りません。
「そんなこと分かってるし、いいと思うから課金してる」と感じますし、何よりあの無味乾燥な音声を毎日聞かされるという苦痛・・・
ランニングしながら音声配信を聞くことも多いですが、ランニングしながらのあの30秒はかなり長く感じます。スキップするために一度走るのを止めないといけないのも微妙にストレスで、無課金ユーザーだけに広告流して、課金ユーザーには広告や無味乾燥ナレーションはナシにできる、というサービス設計のほうが顧客満足感上がるのでは?と感じています。
各企業が人の「可処分時間」を奪い合う構図は昔から続いてきましたし、ビジネスとはある意味そういうものだと思います。しかし、課金ユーザーに対しても全く不要な情報で「可処分時間」を強引に奪うというのは、企業のファンも奪いかねないということをもっと理解すべきでは?と考えています。