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今回私が初めて知った、出版社の持つ、書籍づくりのノウハウについて。

4月19日にダイヤモンド社から出した本で、5冊目の単著となりました。
ゴールデンウイークが偶然重なって本を読む方が多かったこともあり、5/8時点で累計3刷4万部と、売れ行きは良いようです。

前職のコンサルタントをやっていたときから通算すると、(おそらく)8冊になります。

共著なども含めると、もうあと3〜4冊増えるでしょうが、とにかく「書くこと」は、わたしにとって「働くこと」の一部であったことは間違いありません。


とはいえ、ほとんどの本はそれほど売れません。
私も当然それにあてはまり、まあ基本は良くて2〜3万部、初版限りで絶版、ということもありました。

ですから、正直に申し上げると「本を書くこと」ほど、割に合わない行為はありません。

本を書くには、それこそ、人生の一部をささげることが必要なのですが、作家ではないわたしにとって、日々の糧を稼ぐのは私の会社のビジネスである、webマーケティング支援やメディア運営のほうが遥かに割がよいのです。


にもかかわらず、なぜ本を書き続けてきたのかといいますと、それには2つの理由があります。

一つは、マーケティングの目的です。

webの記事を読んでいただける方々と、SNSでわたしのフォローをしていただいている方々とは、当然のように異なったネットワークを持っています。それと同様に、本を読んでいただける方々もまた、異なっています。

個別のネットワークにおいて、それぞれで信用を積み上げることは、長期的には様々な側面でかなりのメリットがあります。

特に本を出していることは、webで書くことに比べて、出版社というフィルタを通している分、社会的な信用を得やすいという現実もあります。

したがって「本を書く」ことは、印税だけでは費用対効果があわなくとも、ビジネス全体には知名度という点で大きく貢献してくれるのです。


二つ目は、いつも私の文章を読んでいただいている方への感謝の気持を現したい、という理由があります。

これは綺麗事でもなんでもなく、「記事を楽しみにしています」と言われたら、私だって人並みに嬉しいのです。

特に、本を書くにあたっては、出版社の編集者から「いつも記事を読んでいます、本を一緒に作りませんか」とお声がけいただくことが出版のきっかけになることが多く、それは損得勘定で動いているわけではありません。


売れなければ「ハイ、終わり」

しかし、本を書くからには、売れなくてはいけません
例えば、コンサルタントを辞めてから最初に出したのが以下の本です。

これは「ヒット作」にはなりませんでしたが、編集者の方のおかげで何度か増刷がかかるくらいには売れましたので、出版社に多少なりとも、利益を残すことができたと思います。

しかし、これが少しも売れなかったらどうなっていたかというと、おそらくこれで「オシマイ」でした。
以後、出版社さんから声がかかることはなく、本を出すことはできなかったと思います。

数字だけで判断される世界、それが「出版」です。わかりやすくていいですね。


ですから、これから新しく本を出そう、という方は「本を書くこと」だけではなく、「本を売ること」についても自分でやることが必要ですし、私がいままで携わってきたどこの出版社さんも当然のように、それを要求してきます。


実は、初めてそれを知ったのは前職で本を書いたときのことでした。

わたしが前にいたコンサルティング会社では、発売直後に売上ランキングに入るため、とある有名な本屋さんで数百冊「自社買取」をして初速で「売れてる感」を出していました。

そして、ランキングに入ると、実際少しずつ売れだすのです。
(いまもそういうことが許されるのかどうかは知りません)

また、自分たちで新聞に広告も打ちましたし、お客さんに「買ってください」と言って回ることもしました。
営業努力と言う点では、何の商品でも同じだと思います。

今回4月19日に出した本についても、知人に「買ってください」と頭を下げて営業し、こうして記事を書いて、一生懸命販促をしている次第です。

とはいえ、わたしは実業家なので、営業は大好きなのですが、作家の中には「営業」がキライな方もいるようですので、そういう方々は『中身だけで勝負』しているのでしょう。

それはそれで、すごいことではあるのですが。

本の企画は編集者との出会いから

で、そろそろ本題に入っていきましょう。
本の企画がスタートするのは、多くの場合「編集者」と「著者」の出会いからです。

私の場合、今回の『頭のいい人が話す前に考えていること』については、電通のコピーライターで、ベストセラー作家だった梅田悟司さんから、編集者の方ををご紹介いただいたのが、そもそもの始まりでした。

大変ありがたいことに、梅田さんは私の記事を見て、ご自身が上梓された『名もなき家事に名前をつけた』の編集者であった、淡路勇介さんを引き合わせてくださいました。

ここで著者として、強調して言っておきたいのは、本の企画を考える『編集者』の重要性です。
有り体に言ってしまえば、本の企画は『売れる部数』の上限に大きくかかわります。そしてそこには著者ではなく、出版社に所属する編集者のパワーが大きく影響するのです。

もちろん、本の中身は著者が書きますから、本の中身の良し悪しはすべて、著者に責任があります。

しかし、本の売れ行きを最初に決めるのは、『企画』であり『テーマ』です。それはweb記事で言うところの『タイトル』に相当しますが、これは編集者の力が、著者の力よりも圧倒的に大きく作用します。

著者は多くの場合『書籍のプロ』ではありません。
実際、著者が『書きたいこと』と、読者が『読みたいこと』はかなり違う。

どのような本が売れるのか、どのような企画をうてば、書店が店の良いところに本をおいてくれるのか、そういった情報を持っており、ノウハウとして活用しているのは、著者ではなく、出版社です。


実は、今回の『頭のいい人が話す前に考えていること』の前には、別の企画がありました。企画名は、『職場の理不尽図鑑(仮)』でした。


この本は『職場における理不尽』を図鑑的に紹介するようなもので、なぜそういった理不尽が存在するのか、どのように対処すればよいのかを、シーン別にまとめるという企画でした。

しかし、編集の淡路さんはこの案を一度、寝かせました。
材料は良いけれども、売れる道筋が見えない、というのです。

今振り返るとよくわかりますが、この企画段階の反復は、非常に大事だと思います。
というのも、著者の立場からすれば『書けそうなもの』という切り口でアイデアを出してしまうからです。

しかし、編集の方は『売れそうなもの』という切り口を徹底して来ます。ここが、出版社、そして編集者が介在する大きな価値だと思います。

出版社で企画を通すためのネタ出し


しばらく後、淡路さんが、私に『こういう企画を通したい』といって、
それまでのやり取りをもとに、提案してきたのが、以下のものでした。

そしてここから、発売に至るまでタイトルに変更はありませんでした。

どうしてこのような発想に至ったのか、企画の概要を読むとよくわかります。
つまり前の企画との大きな違いは『実用性の程度』にあります。

どういうことか。

本というのは無料の記事とは違い、お金出して買うものですから、ビジネス書の場合『自分の仕事に、明らかに、すぐに、役立つ』もの以外売れません。これは、Amazonのランキングを見ても明らかです。

その点、この企画はダイレクトに『役立ちます』を訴えているのです。

この本では、“頭がいい”とされて信頼されている⼈が話す前に考えていることを、誰もが真似できるように⾔語化し、可視化しました。「この⼈、頭いいな」と思ってもらうと、いろんなことがうまくいくようになります。評価が上がり、やりたい企画も通りやすくなり、お⾦も仕事も、いい仲間も集まります。「頭のいい⼈が話す前に考えていること」を誰もが真似できるようにすることで、⼈⽣が好転する⼈を増やすことを⽬的に書かれた本なのです

企画より抜粋

前述した『理不尽図鑑』は、単に読者の溜飲を下げるにとどまりますが、それはweb記事でもできます。

しかし、書籍は手元において、長文を提供できるため、『webの記事の短さ』では実用という面でできないことをていねいに伝えることができるのです。
それによって読者の『考えかた』『実生活』『仕事のでき』までが変わる可能性がある。そして、この本の実用性における最大のポイントは、『本を読むと、賢そうに振る舞えるだけではなく、実際に賢くなる』という点でした。

また、淡路さんはこのとき合わせて、読者のターゲットも設定しています。
このときに「なるほどー」と思ったのは、読者のペルソナではなく、「読者層がかぶる本」「書店で置かれる棚」を設定している点です。

「こういう本を読む人にアプローチする」ということがわかるだけでも、著者としては随分と文章を書きやすくなるため、このチャートは私にとって、書籍の方向性をクリアにしてくれましたし、ここに挙がっている本は「参考資料」として、全て読みました。
そういう中で、「何を深堀すれば「読まれる本」になるか」が煮詰まってきます。


ここから、怒涛のように淡路さんから宿題が出ます。

本業をやりながら、同時に執筆作業をやるのはかなりヘビーなことでしたが、理由を聞いて納得しました。
この作業は本を書く上での、ブレインストーミングに当たるというわけです。

その宿題をこなしたのが、以下のシートです。
この一つ一つに、わたしがこれまで書き溜めてきたエピソードが付属しており、約1ヶ月ほどかけて作りました。

こうした「ネタ」はだいたい、150くらいを挙げましたが、実際に書籍の中で使われたのは20~30程度です。

しかし、この段階でかなりの数のネタを出しておいたことは、結果的に書籍のクオリティを上げることに繋がりました。

そして、企画が通ります。


「はじめに」と「序章」に悪戦苦闘

大抵の人は、書籍を頭からペラペラめくってみて、買うかどうかを判断します。つまり「はじめに」と「序章」の出来が、その意思決定に大きく関わると、本のプロたちは考えています。

ですから、最初に取り掛かったのが、「はじめに」と「序章」でした。

また、書籍の冒頭では、全体像が示され、この本を読みすすめる意義を読者に伝えねばなりません
そのため、まずは議論のたたき台を作る必要がありますが、編集者さんからの指示は以下のようなものでした。

かなり条件が厳しいですが、ここで重要なのは、ウダウダ考えずに『とにかくアウトプットしてみる』という事だったと思います。

というのも、書いてみるとあやふやなところが判明するからです。
それは都度、編集者の方に『ここはあまり明確になっていませんでした』と報告する必要がありました。

上が試しに書いた「まえがき」の初稿ですが、今振り返ると、取り敢えず頭の中で考えていることを吐き出しただけにすぎません。

ただ、編集者にこれを見せることには大変に意義がありました。
つまり編集者は最初の読者ですから、「おもしろい」「おもしろくない」について、非常に客観的な評価をもらえるのです。

創作活動は、「つくる」だけではなく「誰かに見せて反応を見る」までがセット、ということを、改めて認識した次第です。

そういう意味では、webだけで文章を書いていると
・「商品」としての文章にどれほどの価値があるのか
・書籍というマーケットの特性
についての視点が欠けがちです。


週一度の打ち合わせをしながら、本を書いていく

このあたり(2022年6月)から、ほぼ1週間に1回、2時間ほどの打ち合わせが設定され、編集者からの宿題 → 執筆作業 → 編集者からのFB → 推敲 という流れになります。


最初の難関は、「ひとまず章立てを作って、そこにコンテンツを入れていく」という作業でした。

大まかな章立ては編集者が設定した企画にありますが、実際にそこに埋められるコンテンツがあるかどうかはべつの話です。
ですので、上で150ほど挙げたエピソードを、実際に文章に起こして、コンテンツとして埋め込んでいく作業をしました。

上の図を見ていただいて分かる通り、この作業にはGoogleドキュメントを使いました。というのも、wordなど、ファイルのやり取りでは同時にファイルに書き込みができないからです。

編集者と私でつねに最新版を共有し、すぐに変更が反映されるオンラインドキュメントが、作業の効率を大きく上げてくれました。

なお、同時進行で、編集者からはサブタイトルや帯周りの設計も上がってきていました。
なお、「サブタイトル」については、ここからかなり変わっています。
というのも、書籍の構成が変わるたびに、サブタイトルも大きく変わったからです。

私が感じたここでのポイントは「何回も消して書き直す」です。
私が書くと、編集者からのFBがあるのですが、そのたびに構成が変わることがかなりありました。

ここで落ち込むのではなく、「もっと良くなったので、更に書きやすくなった」と思えるかどうかは、著者の心境としては結構重要だと思います。
書き直し大変なので……。
これができるかどうかは、編集者との信頼関係に尽きます。

また、構成が変化すると、そこに新しくコンテンツを埋めていく必要があるのですが、書いたことがないテーマもあります。
その場合、編集者からのFBの中には、『こんな物かけますか?』という注文になりますから、これも合わせて執筆しました。

ですが、私にとって幸いだったのは、Books&Appsという、発表の場があったことです。

試しにここで記事として書いてみて、評判が良ければ本に採用する、評判が悪ければ、内容を見直してリライトする、という実験ができたことは、本のクオリティに大きく貢献しました。

また、Twitterも利用しました。

Twitterで評判の良いエピソードは、人を引きつける要素が含まれている、と考えて良いですから、そのエピソードを膨らませれば、本のコンテンツ強化になります。

メディアの記事や、Twitterをフルに利用して、編集者だけではなく、マーケットのフィードバックをリアルタイムに受けながら本を書くことができたのは、生産性を大きく上げる要因となりました。

テキストの仕上げ

さて、一通り本の章立てと、コンテンツが確定してくると、あとは内容をより良くするための推敲作業になります。

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