【67】行動経済学から見る「読み手に対して効果的な文章術」について(後編)
行動経済学の知見を良いほうに使えば、病院での医療事故を減らし、学校での無料の給食サービスに申し込む貧しい子供を増やすことができ、年金の積み立てを皆が無意識に行うことができる。
しかし、悪いほうに使えば、消費者に企業が必要のないものを買わせたり、錯誤に付け込んで社員に不利益な選択をさせたり、世論をあおったりすることすら可能なのです。
それであるがゆえになおさら、「書き手」は、人を操作するような文章に通じている必要があります。
自分がそうした情報操作に加担しないように、あるいは悪意のある文章を見抜くためにです。(前編より)
今回は、前回に引き続き、どのような書き方が、読み手や顧客に対して影響を与えるのか。
いくつか行動経済学の知見を挙げていきます。
(出典:ファスト&スロー ダニエル・カーネマン 早川書房)
6.最初に置かれた言葉の印象が強まる
たとえば以下は二人の人物に対する説明です。
どちらが好きになれそうでしょうか?
・アラン: 頭がいい、勤勉、直情的、批判的、頑固、嫉妬深い
・ベン: 嫉妬深い、頑固、批判的、直情的、勤勉、頭がいい
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実は、大多数の人は、前者のアランを選択します。
これは、「最初に挙げられた特徴」が、印象を支配するため、後半にネガティブな特性が書かれていても、それらの印象を覆い隠してしまうためです。
これは「ハロー効果」と呼ばれ、人物描写の言葉の並び順が、実は大きな影響力を持つこととして知られています。
文章は「印象付けたいことを最初に」が鉄則です。
7.「ネガティブ/ポジティブな言い方」で印象が大きく変わる
同じ内容であっても「言い方」で受け手の印象は大きく変わります。
ーーーーー
・「手術一カ月後の生存率は九〇%です」
・「手術一カ月後の死亡率は一〇%です」
どちらがより、心強く感じるでしょうか?
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・冷凍肉に「九〇%無脂肪」と表示してある
・冷凍肉に「脂肪含有率一〇%」と表示してある
どちらがダイエットにより適しているように見えるでしょうか?
ーーーーー
もちろん、両者は同じ意味ですが、受ける印象はいずれも前者はポジティブ、後者がネガティブに感じます。
これは、「文字で書かれていること」が、そのまま受け手の印象を決めるためです。
前者は「生存率」対「死亡率」
後者は「無脂肪」対「脂肪含有」
これは、広告宣伝などでもよくつかわれている手法であり、受け手は注意力を意図的に働かせないと、このことを見抜けません。
8.参照点を出すことで「暗示」をかけることができる
人間は先に「参照点」を提示されると、そこを基準に想像をめぐらすようになります。
例えば次の問題を見てください。
・世界で最も高いアメリカ杉は、1200フィート(360メートル)より高いでしょうか、低いでしょうか?
・世界で最も高いアメリカ杉の高さはどれぐらいだと思いますか?
実は1問目は「暗示」をかけるためのダミーの問題であり、出題者が得たいのは2問目の回答です。
この問題を出された回答者は、2問目の推定値を844フィート(250メートル)と回答しました。
・世界で最も高いアメリカ杉は、180フィート(54メートル)より高いでしょうか、低いでしょうか?
・世界で最も高いアメリカ杉の高さはどれぐらいだと思いますか?
ところが、上の出題(1200フィート → 180フィート)を出された回答者は、2問目の推定値を282フィート(85メートル)と回答しました。
つまり最初に出された「参照点」を変えるだけで、人の印象を操作することができます。
文章においても、「登場人物の卓越性」や「性格の良さ」を際立たせるため、その前にあえて無能な人物を置いたり、悪い性格の人物を置いたりするのは、そのためです。
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