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ドル建てGDPでは国内の生産量・消費量の変化(国内総生産)は捉えられない。その2

日本で推計しているGDP(国内総生産)は名目GDP、実質GDP、共に「円建て(自国通貨建て)」による推計が基本であり、これは他国でも、自国で推計するGDPは、基本的には「自国通貨建て」で推計されています。

そんな「GDP」を、名目GDP、実質GDP、問わず「ドル建て」にした推移を捉えても、その国における「経済成長」は読み取れません。

・・・といった事は、以下のような2つの記事を介して、実際の日本のGDPを例示する形で、かなり詳しく解説した部分でした。

私としては、この2つの記事で『日本の経済成長(GDP成長)を捉える上でGDPをドル建てにしても意味がない』という点は十分に論証できたと思っているのですが、まだ、この部分が理解に及ばない方もおられるようです。

ドル建てのGDPでは日本の経済成長は捉えられない。その2。


そういうわけなので、再び、このテーマを、またもう少し違った視点から解説してみたいと思います。

以下は、2023年度の実際の日本の実質GDPと期末時のドル円の為替レートに対して、2024年、2025年の実質GDPとドル円の為替レートの値は、私が「仮定」で以下のような数字を入れてみました。

以下の数字は、今後の経済成長(GDP)や為替レートを予測した数字などではなく、あくまでも「このテーマ(経済成長率は自国通貨建てでなければならない)を議論すること」を前提に「仮定」した数字となっています。

2024年・2025年の実質GDP・為替レートを仮定した推移

上記の通り、2023年のGDPと期末時のドル円レートに対して、2024年、2025年の実質GDP(物価変動を折り込んだGDPの成長率)と期末時の為替レートが上記のようなものだったと「仮定」します。

この場合、まず「円建てのGDP」は、2023年から2024年にかけて、591.7兆円から670.4兆円まで、約80兆円のGDPの増加が見られることになります。

2023年 実質GDP 591.7兆円 → 2024年 実質GDP 670.4兆円
実質GDP:+78.7兆円(経済成長率 +13.3%)

一般的には、これを「経済成長率」と言うため、この場合の日本の経済成長率は『+13.3%』という数字になります。

ただ、2023年、2024年の円建てのGDPをそれぞれドル建てのGDPにすると、いずれもドル建てのGDPは『4.19兆ドル』という計算になってしまいます。

2023年 実質GDP 591.7兆円 / 期末時ドル円レート 141円 = 4.19兆ドル
2024年 実質GDP 670.4兆円 / 期末時ドル円レート 160円 = 4.19兆ドル

要するに、この「仮定」は、円建ての日本のGDPをドル建てにすると、ちょうど同じ金額になるように円建てGDPと為替レートの推移を設定したものなのですが、現実に、これに近い数字になることは、決してありえないことではありません。

この場合、ドル建てのGDPが「日本の経済成長の指針になる」というのであれば、このケースの2023年と2024年はドル建てのGDPが同じ金額ですので『経済成長率はプラスにもマイナスにもなっていない』という見方になってしまいます。

ですが、実際は2023年よりも2024年の方が、日本国内では前年より13.3%増、プラス80兆円分の消費および生産が行われている事実があります。

この時、日本経済の「実体」および「成長率(生産量・消費量の変化)」を捉えているのは、円建てGDPとドル建てGDP、どちらの数字でしょうか。

-言うまでも無く、円建てのGDPこそが、日本の生産量・消費量の変化(すなわち経済成長)を捉えていることになります。

ドル建てのGDPでは「国内」における生産量・消費量の「変化」を捉えられない。


同じく上記の仮定における2024年から2025年にかけての実質GDPと為替レートの変動を見てみます。

2024年から2025年にかけては、円建てのGDPは670.4兆円から335.2兆円まで、約340兆円ものGDPの減少が見られます。

2024年 実質GDP 670.4兆円 → 2025年 実質GDP 335.2兆円
実質GDP:ー293.3兆円(経済成長率 -43.8%)

ただ、これをドル建てのGDPにすると、いずれもドル建ての実質GDPは、やはり4.19兆ドルという計算になってしまいます。

2024年 実質GDP 670.4兆円 / 期末時ドル円レート 160円 = 4.19兆ドル
2025年 実質GDP 335.2兆円 / 期末時ドル円レート 90円 = 4.19兆ドル

この場合、日本国内では前年度(2024年)と比較して、消費量・生産量が43.8%減少し、金額にして約293兆円の経済収縮があったことになります。

ですが、やはりこれもドル建てのGDPで、その推移を見てしまうと、ドル建てで計算したGDPは一切の変化を伴っていないことになるため『日本経済の成長率は横ばい』という話になってしまいます。

ですが、国内における43.8%、340兆円もの消費量、生産量の減少は、どう考えても大幅な経済収縮です。

-ここまでの円高でGDPがここまで落ち込むはずがない!

円安反対派でドル建てGDPが経済成長の指針になると思いこんでいる人は、こんな事を言い始めるかもしれませんが、この仮定は、そもそもこのような数字がありえるありえないというところが論点なのではありません。

このような顕著な仮定で浮き彫りになったように『ドル建てのGDPでは国内における実際の生産量、消費量の「変化」を正しくは捉えられないですよね?』という事を言いたいわけです。

国内の生産量・消費量の「変化」が無ければ自国通貨建てのGDPが同値となる。


そもそも「GDPの推移」から捉える「経済成長」と言われるものは、国内における消費量、生産量の変化(変化率)を指しているため、これを正しく捉えるには、自国通貨建て(円建て)でGDPを推計するしかありません。

これをドル建てで推計してしまっては、上記で仮定したようなケースのように、その時点の為替レートの動向次第では、著しく誤った「経済成長」や「経済収縮」を捉えてしまうことになります。

仮に日本経済の成長率が本当に横ばいで、消費量、生産量が前年比と同じ状況なのであれば、それこそ円建てのGDPが同じような金額になります。

逆にそのようなケースで、またドル建てのGDPを持ち出し、その時点の円安水準、円高水準でドル建てのGDPを捉えてしまうと、ありもしない経済成長や経済収縮を誤って捉えてしまうことにもなりかねません。

円高の善し悪し、円安の善し悪しはまた別の議論ですが、少なくとも、日本国内における生産量・消費量の変化を対象とする「経済成長」を捉えるという前提の上であれば、ドル建てのGDPでは、その変化は量れません。

そのような視点における「経済成長」れは自国通貨建て、円建てのGDPの推移からでなければ、捉えられないということです。

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今回のテーマに近いもので、以下のようなコンテンツもございますので、もし興味を持たれたなら、併せてお読み頂ければと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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