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2023年に絶対に注目したい若手UKバンド4選

文章をサボり続けてしまった最近の私でも、この時期になると重い腰を上げて、この記事を書き起こさないといけない気になってくる。

Deadletter

「Gang of Fourの剽軽な怒りやTalking Headsの異質なリズムを燃え上がるポストパンクの緊張感に取り入れ、物語的な快楽のレンズを通じて暗黒面を探求する」とは彼らが彼ら自身を表現した的確な文章。彼らとは、UK北部のヨークシャー出身でロンドンを拠点に活動する6人編成のDeadletterであり、この記事を執筆するにあたり、彼らの名前が真っ先に思い浮かんだ。

ヨークシャー地方といえば、都市リーズを含むウェストヨークシャー州はDIYアーティストのコミュニティとしてロンドンに匹敵する磁場となっている認識がある。それは、Yard Act、Working Men's Club、The Lounge Society、Drahlaと近年話題になってきた多くのギターバンドを輩出してきたエリアだが、Deadletterについてはイーストヨークシャーの小さな街を出身としており、音楽でのチャンスを掴むためにロンドンに引っ越したという。そうしたガッツって今では少し新鮮にも思える。

2020年の初のデジタルリリースとなった"Good Old Days"、"Fit For Work"を皮切りに、2021年には<Nice Swan Recordings>からブライテストホープなUKインディをいち早く発信している『Nice Swan Introduces...』の企画では、"Pop Culture Connoisseur”をリリース。そして、2022年11月18日に初EP『Heat』をSo Recordingsからリリースした。

ロンドンの<M.A.D (Make A Dance) Records>とのコラボレーション12インチにもなった”Line The Cows”という楽曲は個人的にも2022年で最もDJでも使用したレコード。ソリッドな緊張感と絶妙なゆるさの混ざりと合唱までできそうな謎のアンセム感。

Deadletterの他の楽曲にも言えることではあるが、shameのようにオピニオンと闘志を漲らせつつ、Yard Actのように時代風刺的な短編コメディなアイディアを蓄え、The Raptureのようにその着弾点をダンスフロアに定め打つバンド。そんなバンド、間違いなくカッコ良い。

アルバムがリリースされる頃にはどんな景色になっているんだろうか…。私的には2023年はDeadletterが躍動する1年になる気がしてならない。


deep tan


https://www.youtube.com/watch?v=dGd-maCFizc

ロンドンには、LGBTQカルチャーの先端地という側面もあるが、deep tanはメンバー3人ともがクィアであることを公言しているバンドである。VoのWafahとBaのCelesteは元々一緒の家に住むような知り合いだったらしいが、CelesteがDJとしてもクィアナイトを開催する中で、DrのLucyともそこで出会うことになりdeep tanは結成されたそうだ。

アー写からも醸し出ているが、ファッションから音楽性まで一貫として妖艶で奇妙な雰囲気を放ち、多くのロンドンのポストパンクバンドが新しいオリジナルな表現を模索している中で、deep tanは唯一無二の輝きを獲得しているのようにも思える。咲き乱れた黒い薔薇にボコボコに殴られる感覚は奇妙さと快楽さの同居(夜は墓場で運動会とはよく言ったもんだヨ…水木しげる先生)。そこには彼女たちが尊敬するThe Cureの影響も見え隠れする。どこか飄々としたオープンマインドの中にはミニマルさやリバティへの野心を感じ、そのアナーキズムなカリスマ性と中毒性でdeep tanに気付けば夢中になっていた。

2021年6月にデビューEPの『creeping speedwells』をリリースすると、2021年10月には現行UKの最重要人物でもあるDan Careyが主催するSpeedy Wundergroundの7inchシングルシリーズから"tamu’s yiffing refuge"をリリース。2022年5月には2ndEPの"diamond horsetail"をリリース。2年連続でEPをリリースし、当然、2023年にはアルバムリリースの期待も高まるであろうし、リリースされる楽曲もドンドンと良くなっていることが本当に最高。


Splint

マンチェスターを拠点に活動するSplint。初期Working Men's Club(以下、WMC)のメンバーでもあるJake BogackiやGiulia Bonometti(Julia Bardoという名義でソロ活動もしている)も在籍するニューバンド。この二人はエレクトロなサウンドに舵を切った(つまり、Heavenly Recordingsからセルフタイトルの1stアルバムをリリースする前の)WMCとの音楽性の違いからバンドを離れたが、このSplintというギターロックバンドで再び合流した。

なお、The OriellesのGtも担当しているHenry Carlyleもバンドに非常勤で参加している(どうやら、The Oriellesでの活動を優先しながら、都合がつけばSplintにも参加というような立ち位置のようだ)。話は少し脱線するが、こうしたバンドメンバーのラインナップには、ロンドンのそれに劣らないUK北部のインディーコミュニティの連帯感も感じるところだ。

これまで"Military Produres"、"145"と2曲の楽曲を<Nice Swan Recordings>の『Nice Swan Introduces...』からリリースしているが両曲の雰囲気が全く違うのも、このバンドのポテンシャルの底知れなさを感じられる。

デビューシングルとなった"Military Produres"ではまさに現行UKインディな角張りつつもメロディも豊かで引き寄せるポストパンク、そして多方向に散らばりそうな衝動的アイディアがグッと1曲に詰め込んだ、おもちゃ箱というかは火薬庫をひっくり返したような楽曲。
一方で、"145"ではノイジーでクールなUSオルタナ感が光る楽曲。Sonic Youthの『Daydream Nation』期の疾走感と泣きのエモさもありつつも、『A Thousand Leaves』期の実験的なヘヴィさも感じる。

このバンドがこの先どういったサウンドで自分たちの特徴を定義していくのか、あるいはしないのか、現段階では検討もつかないが、楽しみな存在であることには間違いない。



HighSchool

オーストラリア出身のバンドなのでこの記事で取り上げていいものか少し迷ったものの、2022年初旬にロンドンへ移住し、現在はロンドンを拠点に活動しているHighSchoolを2023年に絶対に注目したい若手UKバンドのトリとして取り上げたい。

出身はオーストラリア・メルボルン。しかし、彼らの結成タイミングでパンデミックが直撃し、なんと彼らは一度もライブをすることなくロンドンへの移住を決意したようだ(行動力ハンパない)。ちなみに2022年11月に故郷オーストラリアで遂に初ライブとなったが、それはなんとSam FenderのオーストラリアツアーのSpecial Guestとしての抜擢だった。

2020年頃からシングル曲を配信でコンスタントにリリースし続け、2021年11月1日にはそれらをコンパイルした1st EP 『Forever at Last』をデジタルリリース。現行UKインディの最重要DIYメディアとも言えるSo Youngでも早い時期から紹介記事が公開されたと思えば、そうしたタイミンングの中で前述のロンドン移住を早々に決意。『Forever at Last』が2022年7月15日に初のフィジカルレコードとしてリリースされることが発表されると、300枚限定のクリアバイナルが予約開始の2022年1月25日になんと45分間で売り切れてしまったのはレコードコレクターの私としても衝撃的な出来事だった。ちなみに黒盤はbandcampで購入可能(私も限定版は逃したので、通常盤を購入)。

限定バイナル即完の勢いだけではもちろん留まらず、2022年10月18日にはこれまたDan Careyが主催するSpeedy Wundergroundの7inchシングルシリーズから"Only a Dreams"を(デジタル)リリース。外野がふわっと期待していることがすぐに形になって現れるスピード感はUKのDIYなギターシーンが健全に機能している証拠でもあるが、Speedy Wundergroundの7inchシングルシリーズはセレクトが良いのはもちろんのこと、リリースされるフィジカルは音が太く、迫力ある満足度の高い録音にいつもなっているので、レコードコレクターとしても本当に楽しみなのです。

2000年代中盤に一世を風靡し、そして瞬きする暇もなく解散したCajun Dance Partyを彷彿とさせる疾走感と危うさ、煌びやかさ。何かを掴んだようで全てを失っていた時の無力感やそれでも進まなければいけない哀しさこそが人生。ああ、なんか俺のDJのキャリアのように思えてきた(チクショーッ😖)。ううぅっ…、リスニング体験の中で浮かび上がるイアンカーティスの残像と眼が合った時にはもうHighSchoolしか愛せない。


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私は…(下記、ただの愚痴のためご注意ください)


ここ数年の海外のロックはつまらないと(能動的に大して調べもせずに)言っていた大人たちが急にイタリアの某オーディションバンドに騒ぎ立ててはロックの復権だと声を大きくし始めたこと、ファッション感覚のようにそれに乗っかる業界人のような人たち、話題になりDJでプレイするようになったロック系のDJの人たち、そしてあまりにもエネルギッシュなサマーソニックでのステージは実際に確かに素晴らしかったのですが、居心地の悪さも感じてしまった意地の悪い人間です。これはバンドへのヘイトではありません(実際、サマソニで観たライブパフォーマンスは本当に貫禄があって、カッコよかったですよ)。



…つまり、無視されている音楽があまりにも多過ぎる。


大きな資本が動いた時、結果に株主は満足するでしょう。
私が夢中になってきた何かはそこには無かっただけで。

https://www.youtube.com/watch?v=fZFMhqHVlIQ

I'm Happy You're Here

終わる2022年はUglyの久しぶりの新曲に救われた。

悪魔の取引をしているのかと思うほどに、自分が主催しているイベントの動員はその内容の私的満足度と反比例するかのように、遂に最小記録を更新してしまった。悔しかったし、力不足の自分に情けない気持ちがいっぱいだった。

I'm Happy You're Here。それでも今も自分を気にしてくれる人に対してこの気持ちはとてもあります。




村田タケル

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