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お一人様映画と侮るなかれ!何をくいとめたいのか?『私をくいとめて』※ネタバレ有り※

くいとめる:物事がそれ以上進まないように防ぎ止める。
(参照:Weblio辞書)

原作は『勝手にふるえてろ』の綿矢りささんの同名小説。毎度のことながら、原作は読んでいないので映画だけの自己解説となりますので、悪しからず…。

まず、日常系の映画が好きな私にとって、この映画はとても好みの映画です。
なんでこんなに好きなんだろう?と自分で分析をしたいので、好きなポイントを整理しつつ、映画の魅力を書いていきたい。
乱文になる予感しかしませんが、良ければお付き合い下さいませ!


【好きポイント①】三十路ではない!31歳という年齢の主人公

主人公は、のんさんが演じる黒田みつ子。年齢、31歳。
のんさんの演技の良さは一旦置いといて、もうね、不器用な女性像が等身大で演じられて…私は拍手喝采ですよ。
このみつ子の人物像が、
・ある程度人に愛想をふるまうことは出来る(ぱっと見明るい)
・でも、それをし続けると心がすり減っちゃう
・本当は自分が心を許した人たちだけで過ごしたい
・でも、それが出来ないのも分かってる、だから心に"A"という人格を召喚してる…(以下ループ)

…不器用(泣)!だから、“お一人様”で気ままに暮らしていきたいというのもすごくよく伝わってきます(泣)!!
みつ子はのんさんが演じてるだけあって、勿論きれいなんですよ。でもね、こういう女性って、きれいだから恋愛が得意、人間関係がうまくいくっていう訳じゃないんですよね…!!
この主人公に共感できる人、間違いなくこの映画ハマります。だからこそ、主人公像は掴んでおきましょう(圧がすごい)!

そして主人公像を掴む上でポイントになるのが31歳という絶妙な年齢。
私もアラサーだから分かりますが、“日本の女性の30歳”って1つの大きな節目じゃないですか。
30歳までは「結婚しなくちゃ」とか、「周りの目を意識して自分のやりたい事が出来ない」とか、色んな見えない縛りが多くあると思います。
でも、みつ子は31歳!一応そういうのは乗り越えて、“お一人様”を楽しみ始めた!というのが初々しく描いています。
でも30代の1年生なので、まだ周りの目が気になって日曜の昼間の公園でランチが出来なかったり、Aに「人に好かれる為には、思わず話かけたくなるような雰囲気にするにはどうしたらいいか?」と質問したりとか、まだ周りの目を気にしているんですよね…。

そんな、30代1年生のみつ子が、自分らしく生きていくためにAともがき苦しみながら、日常を過ごす映画なんです。最&高!!!

【好きポイント②】観客に感情を押し付けないゆっくりとした演出

心の中にAという相談相手を確立させる程、みつ子ってとても繊細な人間なんです。繊細な人間は、日々の日常で色々な理不尽や嫌な事に対面して、傷ついてしまいます。

勿論みつ子だって楽しく生きたいから、始終“嫌な思い出との分断や忘却”を試みます。
友達が結婚をして、焦って近場の歯医者(45歳、独身)と恋愛しようとした過去、入社当時、セクハラ上司に「腕が細いね」と掴まれて嫌悪感しかなかった過去、
これらの事を忘れ去ろうとしますが、ふとした出来事がきっかけでフラッシュバックのように思い出してしまう。

ゆったりした日常から一転、このような“嫌なこと”“嫌な思い出”と対峙している時は、Aとの口論がとてもひどい。正直、31歳とは思えない程の荒れぶりです。

「セクハラなんてだめだよ!「自分らしく、生きるのって大事だよ!」
等のメッセージを説教臭く映画は伝えてきません。
ただ、痛々しいほどのみつ子の姿を見せつけられると、みつ子に自然と同化し(おそらく、アラサー女子は特に)、言い難い感情を持つと思います。

この演出は、のんさんの力もあってこそだと思いますが、過度な演出をすることなく、画面いっぱいにみつ子の顔を映したりする演出でそれが伝わります。
説教臭く伝えることなく、言い難い感情を観客に持たせる技法。
のんさんもあっぱれ。監督にも拍手を送りましょう(誰やお前は)。

【好きポイント③】なぜ、“私”はくいとめてほしいの?の答え


なにを“くいとめてほしい”のか?
私が考える結論は、みつ子の中の負の感情。つまり【好きポイント②】でまとめた嫌な思い出から引っ張り出されてしまう、嫌な口論の内容。

でもこれ、本当は口論でもなんでもないんですよね。
だって口論相手であるAは、自分が勝手に自分の中で作り出した人格だから。
なのでみつ子は、一人で自問自答していることになります。

女子・女性あるあるでよく言われること
「この服とこの服、どっちがいい?と聞かれる時、本人の中で答えはすでに決まっている」

そう、例にもれずみつ子は日々葛藤しながらも、自分の中で本当は「こうしたい」という理想や正解を持っているように私は見えます。
セクハラまがいのことを目撃した時、助けにいく妄想をしたり、Aを具現化する時、一瞬で自分が“落ち着く人間の姿”に具現化させたり。

ただ、みつ子は“変化することにおびえている”のでしょう。

本当は変化をしたいのに、Aと口論や相談をすることで、どうしてもストップしてしまう。
だから「くいとめてほしい」のかな?と。

…分かる、分かるよ。みつ子(だから誰や、お前は)。
私も何か決断する時、何かしら言い訳をつけて物事から逃げたりしてしまう時がある。
その決断が本当にあっているのか?でも、やらないと勝手に自分が負の感情で押しつぶされてしまう…。

くいとめてほしいのは、変化をしたいから。
この映画は、そういう感情を真正面から描いている作品だと思いました。

最後に1点、みつ子とは対照的な立場で登場するのが皐(橋本愛さん)。
どんどん変化をしていって、最終的にはローマに嫁いでいったほど行動力がある人です。
一見すると対照的な2人ですが、女性は誰でも「くいとめてほしい」と心の奥底では思っているんだな、と感じました。

誰でも迷ったり、後悔したりするけど、それでも自問自答をしながら前へ進むしかないと
背中を押してくれる、とても素敵な作品です!ぜひご覧ください!


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