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創作小説・『赤のゆくえ』【2】

 手製のビラを作り、学内で禁じられていたにも関わらず、ビラを撒いていた。あの頃――確かに私は、戦っていた。聖夜にも関わらず、私はそう思っていた。
 ベンチから立ち上がり、私はまた歩き出した。だいぶ、寒い。コートの襟を上げて、私は、独り身が住むマンションへと、戻って行った。

 暗い部屋に入ると、電気を付けた。独りの部屋は、すっかり冷え切っていた。すぐに、暖房で部屋を暖めた。
 酒好きの友人から貰った、ボトルに入った酒を、グラスに注いで飲んだ。かなり強い酒だが、のみくちは甘い。高い酒なので、悪酔いはしないそうだ。少しづつ、体が暖まっていくのを感じる。
 義務的にテレビの衛星放送のチャンネルを点けた。かなり、古い白黒映画をやっている。フェデリコ・フェリーニの映画だと思うのだが、作品名は思い出せない。
 暖まった身体で、椅子に腰掛けると、また昔のことを考え始めた。
 大学生の時に、映画好きの男がいた。その男は、「律子」という名の女性を付き合っていた。休日や、講義の時間が空くと、連れ立って東京の名画座へと出かけていた。
 男は、シネフィルだった。私は、映画には疎かったから、彼の口から出る作品名や監督の名前を、ほとんど知らなかった。むしろ、私には男のガールフレンドの、律子の方が記憶に残っている。彼女は、クリスチャンだった。美しい、容姿を持っていた女性だった。私は、彼女に気がなかったと言ったら嘘になるだろう。いずれにせよ――古い遠い記憶だ。

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