創作小説・『赤のゆくえ』【3】
熱いシャワーと風呂に入ると、私の携帯電話に、留守録が入っていることに気付いた。メッセージアプリ、ラインなどもケイタイには入れていたのだが、プロフィール設定などが面倒で、ほとんど開くことがなくなっていた。もちろん、SNSはやらない派だ。
「アキヤマさん――失礼、秋山先生のお電話でお間違いないですか? わたくし先日お会いした、●●出版の田鍋と申します。お訊きしたいことが御座いまして、お電話を差し上げました」
電話口に、耳を当てているとメッセージが流れた。
出版社のひとが、私に何かを伝えたいらしい。
手狭な部屋には似つかわしくない大きさの、机がある。私は、椅子に座って広げたままにしてあった原稿用紙を、眺めた。
時々、思う。私はこの商売――仕事に向いていないのではないのかと。
この仕事とは、もの書きのことだ。
文学や歴史は好きだったが、私はもとよりのもの書き志望であったのでない。
他の友人や知人で知っているように――また私の親が望むように、学校を出たら一般企業に就職をしたいと、思っていた。ものを書くということは、とても神経をすり減らす。書き飛ばすことも出来ると思うのだが、私にはそういう芸当は持ち合わせていないようだった。
ベッドに横になった。そう言えば、猫か犬か何かがいたら、だいぶ気分が紛れると思う。「ペットも悪くないな――名前はミャオ、シュシュ、ペペ、コロン……」
私の心の中に、静かな火種が燃えていた。残念ながら、その火も少しづつ小さくなり、歳には勝てないようだ。私は、火を吹き消して眠りについた。
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