万葉週話 no.5 ちょっぴり おどけた?! 万葉集の蓮の歌
こんにちは、蓮の花の香りを茶葉に移した蓮茶を
「いつか飲んでみたい!」と熱望している
絵本作家のまつしたゆうりです。
知っていますか? 蓮茶。
私が聞いた話では
“開花前に蓮の花の中に茶葉を入れて香りを移す”
ということでしたが、調べてみたら
“開花前の雄蕊で緑茶を香り付けする”のが一般的だそうで
とてもとても高級だということ。
他にも花を乾燥させた「蓮花茶」、
葉を蒸したあとに乾燥させた「蓮葉茶」、
実を乾燥させた「蓮の実茶」、
芯を乾燥させた「蓮芯茶」、
根を乾燥させた「蓮根茶」と、
ありとあらゆるものがお茶になるようで
それぞれの効能と合わせて味わってみたいなと
調べれば調べるほど興味津々です。
(不要な水分を排出したり、不眠解消のリラックス、
美肌などの効果もあるそうです。)
花より葉!
蓮といえば、まず思い浮かぶのはあの大きくて
インパクト大な薄桃色の花!
仏像が乗っているイメージですよね。(蓮華座といいます)
でも万葉集の頃は、花より葉の方が馴染み深かったよう。
それというのも、この時期の食卓を彩る
「お皿」として使われていたからみたいで。
万葉集 3826
蓮葉(はちすば)は かくこそあるもの
意吉麻呂(をきまろ)が 家なるものは 芋の葉にあらし
《訳》蓮の葉というのは、こうであるよね!
意吉麻呂(私)の家にあるのは、里芋の葉だと思う。
これは宴席にお呼ばれした家で、
蓮の葉に乗せて出てきた御馳走を見て詠んだそう。
今で置き換えるなら
「わー、これがウェッジウッドのお皿ですか〜!
たぶんウチのは良く似た偽物だと思いますわ〜(笑)」
的な感じで、自分の持ってる物を下げることで
相手の物を褒めている&
ちょっと笑いを誘っているタイプのお歌です。
「そんなわけないやん!」的なツッコミ待ちだったのかも…
と思うと、微笑ましいですよね。
長意吉麻呂(ながのおきまろ)さんは
柿本人麻呂(人麻呂様こと、ヒトサマ!)と
同時代に活躍された下級官吏、歌人だそうで
「数種のものを詠み込む歌や、滑稽な歌などを
即妙に曲芸的に作るのを得意とする。」
ということ。
おどけた歌(戯笑歌(ぎしょうか))の多い
巻十六にも何首か乗っていて、
一度聞いたら忘れられないユニークかつ
瞬発力抜群なお歌を残されています。
(いつか意吉麻呂さん特集したい!)
蓮はあったの? 無かったの??
蓮に関する遣り取り歌で、こんなものも。
万葉集 3835
勝間田(かつまた)の 池は我れ知る
蓮(はちす)なし しか言ふ君が 鬚なきごとし
《訳》勝間田の池は私、知ってますけど
蓮はありませんよ、そう言う君に髭が無いように(笑)
これは、新田部皇子(にいたべのみこ。天武天皇と五百重娘の子)が
勝間田の池の蓮に感動して、その話を意気揚々と
とある女性にしたそうなのですが…
「その池に蓮なんてないわよ。」
と返されたという!(笑)
これ、どういうことなんでしょうね〜。
①新田部の勘違い
新田部皇子は勝間田じゃない池に行ってしまっていた
②新田部の嘘
勝間田の池に蓮は無かったけど、女性を喜ばせようと話を盛った
③女性の嘘
勝間田の池に蓮はあるけど、意地悪して「無い」と言った
考えられるのはこんな感じかしら。
あ、④女性の勘違い(記憶しているのが勝間田の池じゃなかった)
もあるかしら。
このお歌でもうひとつ知れるのは、
「新田部皇子におヒゲが無かったこと」!
まだ若かったのか、もともと生えにくい体質だったのか…
でも、つるんとしたお顔が特徴だったのは確かにですよね。
こういう、正史には載っていないような
ちょっとした人間味というか、
「どうでもいい」ような情報にこそ
面白味や楽しさがあるように思えてならないのですが
皆様いかがでしょうか。
万葉集イチオシの蓮歌♪
万葉集イチ大好きな蓮のお歌がこちら。
万葉集 3837
ひさかたの 雨も降らぬか
蓮葉(はちすば)に 溜まれる水の 玉に似たる見む
《訳》久しぶりの雨が振らないものか。
蓮の葉に溜まった水が、真珠に似ているのを見たい!
これはもう、蓮の葉を見るたび思い出す一首。
あの水を弾く葉の上で、プルプルしたガラス玉を見るたび、
大昔の人も同じように「なんて綺麗!」と
感動していたのだなと嬉しくなります。
記憶している歌の数だけ、目にする景色を
同時に「いいね」してくれる人を得られるような、
大昔のツイートに「いいね」できる機会を得られるような
不思議な感覚がありますよね。
このお歌はぜひとも覚えて、毎年
蓮の葉を見るたび思い出して欲しい一首です。
蓮のオススメ本&スポット
蓮の名所はいろいろあるかと思いますが
個人的に地元の滋賀の、水生植物園を推したく!
水辺の植物のことが詳しく知れるのはもちろん、
園の前の睡蓮が見事で…!
近くの池では蓮も見れてお得なスポットです。
園内で買えるこの本もオススメ。
蓮の曼荼羅の物語
蓮の茎で織られた布に、西方極楽浄土が描かれた
曼荼羅があるのをご存知でしょうか。
當麻曼荼羅は、中将姫さまが一夜で織り表したという
尊い伝説で知られる4メートル四方の大画幅で、
極楽浄土の教えが壮麗に描かれています。
(當麻寺ウェブサイトより)
そんな曼荼羅が御本尊な唯一無二なお寺が、
奈良にある當麻寺(たいまでら)。
仏の被り物をした奈良版エレクトリカルパレード的な
行列が見れる「中将姫ご縁日」の春の大祭も有名です。
中将姫の物語のページはこちら▶
中将姫は、奈良時代にいたとされるお姫様で
藤原豊成(藤原鎌足の曽孫)と、妻の“紫の前”との娘だそう。
能、浄瑠璃、文楽、歌舞伎と、様々なメディアで
語り継がれてきました。
私のオススメは、『口訳万葉集』でも有名な釈迢空こと
折口信夫氏が書かれた『死者の書』。
こんなに幻想的で目眩のするような文学には
なかなか出逢えない、衝撃を受けた作品です。
文体が、もう、筆舌に尽くし難く良い…!!
漫画版も*
来週はインド民話「蟹の王子」
来週のインスタライブは、以前の放送で
「今度お話します!」と言ったままになっていた
イチオシのインド民話「蟹の王子」をご紹介します*
よくある異類婚姻譚+友達助けてくれて成功パターンの
お話なのですが、まあ、これが予想の斜め上のセリフの連続で
「自分らしくポジティブわがまま」って最高なのかも…と
不思議と勇気をもらえる作品です。
📺今週のインスタライブのアーカイブはこちら
(先日の伊勢あたりの素敵スポット話もしています)
●暑中見舞いにもぴったりな睡蓮のポストカード、
ウェブショップにて販売中*
今日の暦🌕
天秤座 上弦の月
二十四節気 小暑(しょうしょ)
七十二候 末候 鷹乃学習(たか すなわち がくしゅうす)
☘️7/24(土)AM11:00〜
リアタイしていただけるとコメントにて
質問などなど遣り取りできます、お待ちしてます*
絵本作家・万葉&民話作家 まつしたゆうり
「心をつなぐ扉を描く」水彩画
昔から伝わる物語を、今に届く形にして
お届けしています*
大阪在住、滋賀県長浜出身
大阪芸術大学デザイン学科卒
🌟第5刷 『よみたい万葉集』
初心者から中級者まで楽しんでいただける入門書。
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一面に田んぼの広がる田舎町で、
虫と草花と、本を友として育ちました。
幼い頃から 古典と歴史と仏像と恐竜と特撮と漫画とアニメが大好き!
心に触れることで果てしない空想の旅を一緒にできるような作品を作っています。
ゆったり季節に寄り添う暮らしと、日々 野鳥観察&着物。
鳥は愛でるのも食べるのも好き。
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