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大部屋

大部屋に今度は移動した

4人部屋だ
色々なタイプの人がいて
ほとんど仕切られたカーテンの中にいる人もいれば
話しやすい女性たちもいた
閉鎖や一人部屋とは違う
解放感に
りょうこのテンションが上がっていることがよくわかった

とても普通に見える
ぽっちゃりした女性がいた

その女性はとてもお話がしやすく
どこも変ではなかった(ようにみえた)

その女性はもう長く入院していると聞いた

りょうこが言うには
夜中にカーテンで仕切られている
彼女のベッドから
「ぼりぼり、バリバリ」
と、お菓子を食べる音が聞こえてくるという

どうも彼女は、そんな状況らしい
結婚されているから
今日はご主人さんとお昼に会ってご飯を食べてくる
という日もあるようだった

また、とてもきれいでお話しやすい
ほっそりとした女性もいた

年齢はりょうこより5歳ほど上のようだった

とてもおしゃれで
自分のベッドサイドには
シャンプーやボディーソープ、化粧水など
美容系の商品がたくさん並べられていて
りょうこも同じように並べたがった

しかしその彼女も
入院が長いらしく、
途中で別の病棟に移動してしまった

また、りょうこが一番仲良しだった友達は
もう70歳くらいのともちゃんだ

ともちゃんは
年齢にそぐわない
とてもかわいらしいお洋服で
髪型はおさがりにしていて、
パステルカラーの服を好んできていた
りょうこはジャニーズの嵐の大ファンで
好きすぎてテンションが上がりすぎたことも
メンタルがおかしくなった原因の一つだが
ともちゃんもジャニーズが好きで
それで話が盛り上がったみたいだった

彼女も何度も入退院を繰り返しているようだった

一見普通に見える女性たち
しかし何度も入退院を繰り返している

彼女たちはみんなの中にいるときに見せる顔と
一人になったときになる顔がとても違うのだろう

誰しもがそうだ

でも
彼女たちはそれが「違いすぎる」のだろう
そして今、そのバランスをかろうじて
薬でとっているのだ

りょうこは
ともちゃんと一緒に
すこしだけお花が咲いている小さい空間にでて
いっしょにお菓子を食べたりしてお話したり
するようになっていた

精神科に入院している人たちは
非常におとなしく
動きが緩慢で
そこには明るさや生き生きとしたエネルギーが
感じられなかった

明らかに感情が押さえつけられているようだった
りょうこもその一人

りょうこは入院中に今までなかった様子を見せていた

「おはながきれいだ」というのだ

私は少なからず驚いていた
そんなことを言う子ではなかった
周囲の環境に興味を示すことは
ほとんどなかった

キャンプ場に行くことは好きだったが
自分で準備や後片付けをすることが
大嫌いだったから自分で行くことはしなかったが

それでも
しぜんと共にいると
そこにいったら
何となく気持ちがいい
ということを知っていたんだろう

りょうこの入院中には
桜が満開だった
チューリップもよく咲いていて
花壇はとても賑やかだった

ともちゃんと散歩したり
私と散歩した時に
「花がきれい」とよく言っていた

りょうこは本当はこんなこだったんだ
このこの本当の姿がいまここにいるんだって
わかった

これが本当の姿なんだ
陰と陽が誰しも持っているけれど
コンサートや外遊び、友達と喋り捲って
テンション爆上がりが大好きなりょうこと

さくらやチューリップがきれいだと
しずかにつぶやくりょうこは
同じ子だって
そのときわかった

私はしずかなりょうこの顔を
ほとんど見ずにいままでいきてきたんだと
わかった
きっとそんな顔を見せるときもあったんだ
それでも私がそれに気づかずにいたし
目を背けていたんだ

りょうこにとって
今までになく静かな時間が流れていた



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