見出し画像

逃げられない場所

ある日
見舞いに行ったら
リョウコは裸だった
全部服を脱いでいた
そして
裸のまま壁を背にして
おびえていた
壁伝いに逃げようとしていた
まるで
壁伝いに逃げようとする
蜘蛛のように

なにか怖かったんだろうか

看護婦さんに手を取られて
しばらくしたら
おとなしく服を着た

ある日は
ご飯を食べさせてもらっていた
スプーンで口の中に
ご飯を入れてもらって食べていた
私がまだ小さいリョウコに
食べさせていたのと同じように
スプーンはちいさかったけれど

まなざしは虚ろで
何を見ているかは
わからなかった

ある日は
トイレを詰まらせて水浸しにした
そんな日は
洗濯用に着替えがいっぱいだった

特に生理中の洗濯物は大変だった

血が怖かったのかもしれない
トイレットペーパーを
いっぱい使って
流れなくなったようだった
リョウコは
生理中はよく不安定になっていた

出られない窓の外を見ている日もあった

そして
ある日リョウコは縛られていた

手と足を縛られて寝ていた
灰色のベッドに
茶色く薄汚れた10センチほどの幅の
バンドでお腹と手足を
縛られていた

目は虚ろな時と
妙にクリアな時があって
わかっているときと
ぼんやりの時とが
交差する

暴れたのか
手や足に黒い跡があった

なんでこんなところにこんなアザができるのか
わからない

しばられるときは
よっぽど暴れたのか
危険なことをしたのか
どちらかだろう
よっぽど痛かったに違いない
そのアザは
リョウコにとって何の感覚もなかった

そんな時
リョウコは
何が見えるんだろう

何が怖いんだろう

私には見えないけれど
リョウコは見える
追いかけてくる
何か

私に見えるものがただしくて
リョウコに見えるものが間違いではなく

確かにリョウコに見えている何か
どれほど恐ろしいか

分厚い窓からは
薄暗い中に生い茂る
茶色がかった木々がみえる

ここからは逃げられない
どこにも行けない

リョウコの中の
逃げられない世界は
ここに投影されている



#創作大賞2023 #オールカテゴリ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?