ゲームな世界2 No.15
著:小松 郁
15.
いつの時代も変わらないものがある。
それは人の心であり私は以前と変わらぬ憂鬱さに捕らわれていた。
また人生失敗しちゃうかな・・・。
人はやっぱり信用できないというか人の前ではどう振るまって良いのかいつもわからないのよね・・・。
そして私は心の中で嘆きながら独りになっていって自分をダメ人間だと追い詰めていく。
それでも生きていられる場所が欲しかった。
だから私は必死でピアノを弾き続けた。
私はそんな思いにとらわれながら少しベッドに寝そべって額に手を置いて途方も無い絶望が去ってくれるのを待つ。
やっぱり薬は必要かしら?
でもどうしよう・・・。そんなに簡単には病院にかかる事は出来なさそうだし。
どっちでも良いか・・・。
ふと今日の事を思い出す。
学校生活か・・・。
私にはあまり良い思い出などは無い。
どちらかと言うと私が学生時代だった頃はひたすら目立たずにみんなとはあまり関わらないように過ごしてきた。
なんとか学生時代を過ごした後は私は少しだけ働こうとしたけれど全部挫折して何も上手く行かなかった。
私の人生って何だったんだろうな。
少しの悲しみがわき上がってくる。
それは突然絶たれて今は残骸さえ残っていない。
そして今のこの地獄の様な状況の再来・・・。
自分が悔しかった・・・。
彼女・・・あの沙紀という少女。
私は何となく彼女はまた電話してきてくれるだろうと思い待っていた。
義理が別段あるわけじゃ無いけれど彼女は優しい。
優しさにつけ込む自分は何となく嫌だったけれど彼女が勝手にやってくれるなら話は別だ。
そしてこんな状況では私は何も出来ないでくの坊だ。
私はプロジェクションを起動しては彼女のアドレスと顔を眺めていた。
ぷるる・・・。
プロジェクションに彼女のアドレスが浮かび上がり私は思わず硬直して平静を保とうとする。
掛かってきた。
私はえいとプロジェクションの応答をタッチした。
「こんばんは。」
「こんばんは。」
画面の向こうに彼女、神埼沙紀が明るそうな笑顔でパジャマ姿で髪をアップにまとめてる姿が映し出された。
「なんか変なこと考えていたんでしょ?」
彼女は明るく楽しげに話す。
全部見透かされているようだ。
「別に変なことは考えてないよ。
ただ今日学校で音楽の部活に参加してみただけ。」
「そっか。
上手く行った?」
「わからない。
でも入部は自由みたい。」
「そっか。
良かったね。」
彼女は笑顔で話しかけてくる。
「なんか素直ね。」
「別に。
ただ貴方が話したいことを話してて良いんだよ。」
「沙紀さんこそ何か話してよ。」
彼女は少し困ったような顔で考え込んだ。
「私かあ。
別に貴方に聞かせるようなことは何も無いんだけどね・・・。
でも貴方、学校も無事っぽくて良かったわ。」
彼女は少し考え込んだままの姿勢でいる。
「うーん、話しちゃおうかな・・・。
私ね、あんまり精神状態良くないの。」
彼女はその言葉にふと反応したようだ。
「そっか。鬱か何か?」
「うん、そんな感じ。
今はまだマシな方だけれどもね。
病気が出てきたらまずい感じなの。」
彼女は大分困った顔を浮かべて居る。
「そうかー。それは困ったね。
そこら辺は以前からの記憶?」
「うん、私何も変わってないと思う。
私はダメな人間。」
「あらら、まあ人間そんなに出来の良いのはごく希よ。」
私は少し呆れてしまった。
「本気で言ってるの?」
彼女はあっけらかんとした顔で続ける。
「何ていうか・・・。
多分貴方はその事で死にそうなぐらい悩んでいるんだろうけどね。
ずばり言うと私にとってはたいした問題じゃない訳よ。」
私は少し言い捨てるように言った。
「なんか知った事じゃ無いって感じね。」
彼女も別に気にもしないといった様子で応える。
「そうよ、貴方の事なんて誰も知ったことじゃないわよ。」
この女は性悪なのか?
「貴方と話すと最悪だわ。」
画面の向こうの彼女は笑顔で応える。
「嘘言わないでよ。
気が大分楽になるでしょ。」
私は少し戸惑ってしまった。
「えっ、まあそうかもね・・・。」
彼女はその調子で続ける。
「孤独は良くないわよ。
みんな孤独になって死んで行くんだわ。」
「どういう意味?」
「老人になると何で死ぬかって言うとね。
孤独になりすぎちゃうからなのよ。
まあ別に根拠は無いけど。」
「よくわからないわ。」
彼女は何かすごく年寄り臭いことを言った。
私は本当に意味が良く理解できない。
「うん、別にわからなくても良い。
貴方また老人じゃあ無いんだから。
もう青春真っ盛りじゃ無い。」
急にそんな話を振ってきたもので言い返す。
「貴方こそ青春真っ盛りじゃ無い?
貴方すごくモテるでしょ?」
彼女は少し寂しげになった。
「モテるかは知らないけどね。
あんまりうるさいのは面倒くさいわ。
貴方はモテたいとか全く思ってなさそうね?」
彼女はあくまで私に話題を振ろうとする。
「も、もちろんよ!
モテて何するのよ!?」
「そりゃあ男子はモテた方がお得なんじゃ無い?」
満面の笑顔で彼女は言った。
「貴方最低ね。」
応える様子も無く彼女は続ける。
「貴方こそ男子なんだから全うにモテたいとかで努力しなさいな。
貴方今逃したら人生であんまりモテそうに無いわよ。」
「もう、そういう話は良いの。」
彼女はまた考え込むと少し声のトーンを落として続けた。
「うん、ごめんね。
貴方はちょっと精神的に疲れているのね。
知ったことじゃないってのも言い過ぎたわ。」
「良いけど・・・。」
「もちろん病気のことでは少しは相談に乗るわよ。
医師じゃ無いから診察は無理だけど。
そこら辺の生活面でどうすれば良いかとかね。」
「そう・・・。」
「うん、まあ高校生で鬱気味って言うのもあんまり家族の理解無いから一般的に見過ごされちゃうんだけどね。
だから高校生ぐらいじゃやっぱり親がどう言うかはわからない。」
「そうよね・・・。」
「でも受診した先生居るでしょ。
その先生に直に言うと良いよ。」
「そうね・・・。」
「うん、やっぱり反応が鈍いみたいね。
まあ元気すぎるのも躁だっけ?
結局鬱に跳ね返るんだろうけど。」
「うん、私は躁にはならないけどね。
いつも絶望してばかり。」
彼女はまた深く考え込んでしまったようだ。
「深刻ね・・・。
でも私はあんまり病気の件では関わらないわ。
私の手に負える話じゃ無いものね。
貴方が好きな事を話して頂戴。」
「わかっている。
私も自分が何でこんな思いになるかわからないで居る。」
しょうが無いのよね。
私どうしようも無い。」
彼女はふと独り言か聞き取りにくい声で呟いた。
「そういうの人にちゃんと甘えられなければ解決しないんだけどね・・・。
男の子なんだから女の子とか世の中にちゃんと甘えれば・・・」
続けて大きな声で言い直したようだ。
「何でも無いわ。
とにかく貴方もう寝る事ね。」
彼女は努めて明るく振る舞おうとしているようだ。
「うん、沙紀さんと話せて良かった。」
私も素直に応えた。
「私もよ。
それじゃあね。」
そう言うと彼女はバイバイと手を振ってすっと画面を消した。
また孤独になってしまった。
沙紀さんは少し嫌気が差しただろうか?
どうしよう無く落ち込んでいきそうで私はベットに倒れ込むと布団を被って襲い来る感情にただひたすら堪えていた。
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