ドール2

ドール No.11

                          著:小松 郁

11.

 街には定職のない諸事情を持つ女が溢れている。
そんな女たちは通りすがる男どもに色目を使って何とか今晩の宿を確保しようとしている。

 私は彼女たちと何が違うっていうのかしら?

 琴音はいつも思う。
お互い男なんかにはこれっぽっちも興味はないだろう。
ただ彼女たちには寝ぐらがない。

 わかっている。
彼女たちがある程度人生の途上でドロップアウトしてしまったことは。

 公害人間指定法には女子たちへの対処に関してあまり記述がない。
彼女たちもいずれ街の美化のために私たちは排斥するのだろうか?

 そう、多分いずれそうなる。
彼女たちの寝ぐらは刑務所でいい。
それが一番安全というものだ。
彼女たち自身自分が刑務所に放り込まれたとしても対した感慨もないだろう。

 どうしようもない世界だ。
男も女もイカれてしまっている。

 私たちはこの世界の美化運動の最後の障壁。
何でこんな悲しい世界になってしまったのだろう。

 私は彼女たちに近づくと「ウリの現行犯はしょっぴくわよ!」と怒鳴って見せた。

彼女たちはヘラヘラ笑いながら
「何この女お高くとまってんの?」
「あんた私たちの島で厄介ごと起こすと若頭に頭吹っ飛ばしておらうわよ。」
などと言っている。

 「そうね、私その若頭ってのに会ってみたいわ。
どこにいるのかしら?」

 彼女たちは一瞬怪訝な表情を浮かべる。

 「あんた私たちの島で何やらかす気?
あんた若頭に取り入るつもり?」

 「ほんとあきれるわね、汚らわしい。
バイキンの巣なんか踏み潰すだけよ。
あなたたちもそんな変な男に取り入ってないでまともな仕事に就きなさい。
職業訓練校のチケット切ってあげるわよ。」

 「何言ってんの?おまえ?」

 「だから職業訓練校のチケット切ってあげるからそこで校正してまともな仕事に就きなさい。」

 「はっ、そんなくだらねえとこ行くかよ、バーカ女。」

 「ふん、もういいわ。あんたたちにとって一生に一度あるかどうかのチャンスだったのにね・・・」

 「あたいら、自立して生きてんだよ!ケチつけるんじゃねえ。」

 「男に身体売って金もらってて何が自立してるんだか・・・。
あんたたちみたいな女がいるからロクな子供が育たないのよ。」

 「だとうっ!」

 と女は髪を掴みにくる。

琴音はその振り上げた手を軽々と後ろ手に持つと女がひざまづく様に背中にねじ上げる。

 「あなた暴力振るったわね。
暴行の現行犯で処罰するわ。
OK、あなた掃除のアルバイト服役一年になったわ。」

 「何言ってんだアマあ!離せ離せよ!!!」

 「いい、ハローワークに行ってあなたのID照会すれば強制労働に入るわよ。
安心して。住み込みで料理も出るわ。その後の職業訓練のチケットも配布してあげる。」

 「何なんだよてめえはよー。あたいはこの仕事が好きなんだよ!」

 「ウリとかって楽で儲かるようで麻薬みたいに中毒性あるわ。
でもあなたもいつまでもウリなんかできるわけじゃないし。
わかったら銭湯にでも行って早くハローワークに行きなさい!」

 「ネエちゃん、何オレのシマで好き勝手に暴れてるんだ。」

 と、後ろかから声が聞こえたかと思うといきなり太い腕が琴音の首を締めてきた。

 琴音は素早くアゴを上方に押し出すと下にずり下がり、手から抜け出るとその手を持ったまままた後ろ手にその太い腕をひね上げる。

 「ははは、ネエちゃんコマンドーかよ!」

 男は強引に腕を引き寄せながら空いた手でパンチを繰り出してくる。

 琴音は持っている男の手の関節を締め上げるとボキリと鳴って男の手の関節の骨が砕ける。

 それでも男は怯まず強引にパンチを見舞ってきた。

 琴音はすんででかわすとまたその手を持って肘の関節を締め上げる。

 「ちっ」

 男は関節が持っていかれない様に踏ん張っているが琴音も通常の人間の数倍の筋力がある。

 関節はミシミシと音を立て始める。

 「あなたボスなの?
でも暴行の現行犯であなた長期の重労働に回してあげるわ。」

 「ふん、今でかいツラしてるドールの連中か?
言っておくがなあ、俺がやられたら仲間の連中がお前を地獄の底まで追いかけるぞ。」

 「みんなそのまま地獄送りにしてあげるから安心なさい。
あなた拳銃所持しているわね?覚せい剤も所持している。
残念だけどあなたは国際特別刑務所送りだわ。
悪いけど手出しできない様に腕持って行くわね。」

 琴音はそういうと手に力を入れて男の肘を逆に決めて捻じ上げる。
ブチンと行って健が弾け飛ぶ音がする。
それでも琴音は力を緩めない。

 「ネエちゃん痛えよ。
覚えとけよ。てめえぜってぇ殺す!」

と男が啖呵を切ると同時にボキッと鳴って男の肘は完全に逆方向に折れ曲がってしまった。

 男はふうふうと荒い息をしながら路上にぶっ倒れこんだ。

 「いい、今時ヤクザなんて格好のターゲットだわ。
裏の商売なんて全部この世から抹殺してやるわ。
せいぜいそのお仕事と一緒にこの世からいなくなることね。」

 「ふん、そんな綺麗な社会じゃねえんだよ!
てめえらの人形部屋と違ってここは地獄の荒野なんだ!」

 「そう思っていることが可哀想ね。
この社会は秩序正しく美しく出来上がっているわ。」

 「上等じゃねえか?
それで俺らみてえなのはみんな抹殺して行くってか?」

 「そうよ!
汚物はちゃんとゴミ処分場にまわさなきゃね!」

 「あははっはっはははははああああああ!!!!!」

 男はそれっきり動かなくなっってしまった。
パトカーのサイレンが鳴り響いている。

 琴音は素早く路地裏に隠れるとその場から離れた。

 これで良いのかなんて問題では無いのだ。
彼女たち、ドールがこの世界の法律だった。

 その先に何があろうか?
彼女たちは信じることを諦めなかった。
その先に必ずや美しい花園が咲き誇っていることを彼女たちはただ信じ期待をしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?