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佐藤博「アウェイクニング」(1982)

以前のレココレ特集(シティポップ1980~1989年)でも取り上げていた佐藤博の「アウェイクニング」。殆ど知らなかった作品ですが、その記事を見て「いいなあ」と思っていた矢先、当時ヤフオクでまずまずの価格で出品されているのを見て、すぐに落札。当時本作ばかり聴いていた時期がございます。

まず驚かされるのは、本作が42年前に発表された作品であること、そしてそんな前に発表されているにも関わらず、今聴いても古臭さを感じさせないこと、この良質な作品を、殆ど一人録音で収録されていること。日本にもこんなクオリティの高い洋楽テイスト溢れるアルバムがあったということが、少し誇らしく思えてきます。

その佐藤博ですが、彼がピアノを本格的に始めたのは、なんと20歳を過ぎてから、というのは有名な話ですね。ティンパンアレーや山下達郎、細野晴臣等との共演で、彼のピアノは様々なジャンルのミュージシャン、プロデューサーから重宝がられ、業界では有名なミュージシャンになっていきます。ただ自身の音楽に煮詰まり感が生じ、またスタジオ・ミュージシャンとしての仕事のほとんどが、歌謡曲か歌謡ポップスのようなもので、それらに関心が持てず、このままやっていくのは耐えられないという理由で、1979年の夏、アメリカへ移住してしまいます。そこで彼はRoger Linnの作ったLinn DrumLM-1に出会います。これを使えば、海外のミュージシャンに頼らなくても、自分の求めるドラム・サウンドは打ち込める…、そして本作が制作、発表されたのでした。

本作はタイトルトラックの①「Awakening 覚醒(めざめ)」でスタート。波の音をバックに、透明感溢れるリリカルなピアノが印象的なインストです。まさに覚醒…。エンディングのシンセもあまりにも美しい。

この覚醒から、メロウなAORテイスト溢れるナンバーの②「You're My Baby」へ。
このドラムの音が打ち込みだとは驚きです。確かに今聴くと、若干のチープ感は否めない。でもこうしたメロウな曲に打ち込み系ドラムはふつうは似合わない。でも実に曲に溶け込んでいます。バックの女性コーラスはウェンディ・マシューズ。彼女はカナダ出身で、1977年にLAに渡り、プロデビューのチャンスを待っていた人物。実は本作が実質のデビュー作品。

③「Blue And Moody Music」も、とろけそうにメロウな、極上AOR。
本人が歌ってます。朝が訪れる少し前、不安だらけの夢を音楽でまぎらわす、ブルーでムーディーな曲。自身の経験を歌ったものでしょう。まさにそのような音楽なんです。間奏のピアノソロは、①でも聞かれた透き通ったピアノ。ギターは松木恒秀さん。素晴らしい。

ちょっと打ち込み系っぽいリズミカルなナンバーが④「Only A Love Affair」。
イントロだけはマイナー調ですが、以降はシャッフルビートのナンバーを、ウェンディが高らかに歌い上げます。ウェンディのヴォーカル、佐藤博のピアノソロ、どれもが青空を連想させるような爽やかなプレイ。

本作ではカバー作品は2曲。その内の1曲、なんとビートルズの⑥「From Me To You」。メロディはそのままに、アレンジは大胆にシンセをフューチャー。カッコいい…。特に1分30秒過ぎからのアレンジは彼ならでは。ギターは鳥山雄司さんです。

後半のハイライトは、これまたメロウな⑦「I Can't Wait」。
YouTubeをチェックしていたら、なんと佐藤博さんのライヴ映像を発見。TVでの演奏シーンですが、その中に「I Can't Wait」を演奏しているシーンがあります(2分40秒過ぎ)。女性ヴォーカルはウェンディでしょうか…。この曲では分かりづらいですが、あとの演奏ではドラムが強烈。このドラム、もちろん青山純さんですね。サックスは本田雅人、とくればベースは伊藤広規さん…でしょうか。伊藤さんだけは分かりませんでしたが。ちなみにこの映像、かなり貴重なような気がします。

かなりメロウは作品中心に紹介していきましたが、アルバムには他にもいろいろな楽曲が収録され、アルバム全体飽きさせません。やっぱり素晴らしい作品ですね。尚、今回ご紹介できませんでしたが、⑩「Say Goodbye」には山下達郎さんもギターで参加しております。


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