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Deep Purple「Shades of Deep Purple」(1968)

ディープ・パープルといえば、一般的にはイアン・ギラン、ロジャー・グローヴァーが加入した第二期、ハードロックを極めた時代が最も有名ですが、この第一期、デビュー当時のディープ・パープルも興味深いですね。
個人的にはこの時期のディープ・パープルは全くスルーしていたのですが、自分自身がサイケも受け入れるようになってから、この第一期の良さも理解出来るようになってきました。

ディープ・パープルは、1967年に結成されたラウンドアバウトというバンドが母体。このバンドにはジョン・ロード(Key)、リッチー・ブラックモア(G)が在籍しており、その後ニック・シンパー(B)が加入。オーディションによりロッド・エバンス(Vo)が選ばれ、その時ロッドに同行し、ロッドと同じバンドに居たイアン・ペイス(Ds)がそのまま加わり、1968年3月にディープ・パープルとバンド名を変えて活動を開始します。

当初のディープ・パープルはジョン・ロードが主導権を握り、ヴァニラ・ファッジやドアーズ等、当時米国で流行っていたアート・ロックに傾倒。たまたま契約したレコード会社も米国の新興レーベル(テトラグラマトン)ということもあり、米国が活動の拠点となります。この時期のディープ・パープルは、第二期のパープルとは全く別バンドと捉えた方がいいですね。

アップしたのはUSのジャケット(UKのジャケは違います)。本作はUSでは1968年7月に、UKでは2ヶ月遅れの9月に発売されてます。アート・ロックが如何に米国で流行っていたか、当時の事情がよく分かります。
本作は全8曲、内4曲がカバーという構成です。

この衝撃的なデビューアルバムのオープニングに相応しいリッチーとジョンの共作の①「And the Address」。
ジョンのサイケ感覚溢れるイントロから妖しい雰囲気。ドライブ感溢れるリッチーのギターとソウルフルなジョンのハモンドが実にカッコいいインストナンバーです。
この第一期がジョン主導のアート・ロックである一方、特にこの曲は後の第二期ハードロックなディープ・パープルの萌芽が見え隠れしているように思えます。

ディープ・パープルのデビュー曲としてあまりにも有名な②「Hush」はビリー・ジョー・ロイヤルのカバー。
ビリーのことは全く知りませんが、ちょっと甘い声質の方。オリジナルはホーンが効いたソウル・ポップなアレンジです。一方パープルは、ジョン・ロードのオルガンがかなりサイケ感を増長させた仕上がりで、確実にオリジナルを凌駕しております。当時はジョンがアレンジにおけるイニシアティブを取ってますね。
アップした映像は当時のPV。なぜロッドは水着姿なのだろう(笑)。酷い仕打ちだ…(本人はノリノリだったのかも)。よく見ると結構コミカルな内容。

④「Prelude:Happiness〜I'm So Glad」はメンバー全員の共作の「Happiness」から古典的ブルースのカバー「I'm So Glad」にメドレーで繋がるナンバー。
この曲に限らず、本作収録のどの曲もイントロはSEですが、ここでも怪しげなSEからジョンのクラシカルなハモンドが光ります。イアンのマーチング・ドラムも相変わらずカッコいい。リフのユニゾンもキマッているし、わずか3日間でレコ―ディングしたとは思えない出来。そして絶妙に2分40秒過ぎから「I'm So Glad」へ。
この曲は当時はクリームがカバーしたことで有名なので、エリック・クラプトンとリッチーのギターの比較も出来ますが、ここでのリッチーはかなり暴れまくってますね。あと気のせいか、ロッドはジャック・ブルースと声質が似ています。やはりディープ・パープルはジョンのハモンドが音に厚みを持たせている分、聴き応えがあります。

リッチー、ジョン、ロッド作の⑤「Mandrake Root」はかなり第二期パープルっぽい楽曲。
実際に第二期メンバーでも演奏されていた佳曲。ギターリフはなんとなくジミ・ヘンドリックスっぽい。
間奏のジョンのキーボード・ソロではイアンのドラムが煽りまくります。続けてリッチーのギター・ソロもノイジーで強烈。これをライヴでやられたら、凄い迫力でしょうね。

パープルらしくないポップな面が魅力の⑦「Love Help Me」は結構好きですね。でもこの曲は苦手だというパープル・ファンも多いんじゃないでしょうか。
イントロこそサイケなSEで「オッ」と思わせますが、ロッドのヴォーカルが入った途端に「ポップス?」って思っちゃいました(笑)。ビーチボーイズ風なコーラスは明らかにパープルらしからぬアレンジ。この曲の作者はロッドとリッチー。恐らくビート・バンド出身のロッドのカラーが出ちゃったんじゃないですかね。それでもリッチーのギターは相変わらずアグレッシブだし、イアンのフィルインのドラムも豪快。こんな曲も演奏していたんですね。でもどこかザ・フーっぽいところもあって、個人的には大好きな1曲。

ジミ・ヘンドリックスのカバーで有名な⑧「Hey Joe」。
原曲はビリー・ロバーツと云われている作品。こちらを大胆に、かつパープルらしくカバーしております。
出だしからラヴェルの「ボレロ」と思しきメロディ・リズムを持ってくる点は、明らかにジョン・ロードのアレンジ。リッチーのギターも、後の初期レインボー辺りで見られる中世音楽嗜好が垣間見られます。この当時からジョンとリッチーの音楽的な嗜好は似ていたのかもしれません。
2分15秒過ぎからようやくロッドのヴォーカルが入り、「Hey Joe」と認識出来るようになります。個人的にはやっぱりこのロッドの音域の狭いヴォーカルはイマイチかなと感じます。シャウトがシャウトになっていない(笑)。特にこのパープルの「Hey Joe」は残念ながらロッドのヴォーカル・パートだけパワフルに欠けるものの、インスト部分ではジョン・リッチー・イアンの白熱した演奏が堪能出来ます。この曲こそが(3人が演奏の原動力となっている点で)第一期ディープ・パープルをよく表しているかもしれませんね。

どうでしたでしょうか。ヴァニラ・ファッジもオリジナルを彼等なりに崩すことを得意としてましたが、第一期ディープ・パープルもそのような感じでした(今回ご紹介出来ませんでしたが、本作にはビートルズの「Help」もカバーされております)。ジョン・ロードの非凡な能力が存分に発揮されてますが、リッチーも随所に彼らしいプレイを聞かせてくれてます。
一方ロッドの声質がリッチーが望むサウンドに合っていなかったことは明らか。ロッドの知らぬところで、イアン・ギランを引っ張ってきたリッチーの大胆な行動も理解出来なくもないですね。


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