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Badfinger「Badfinger」(1974)

パワーポップの代表格、バッドフィンガーをたまに聴きたくなります。特にポール・マッカートニーの流れを汲むポップなメロディと、ちょっとハードな音作りが大好きなんですよね。
彼等の歴史については、「Wish You Were Here」の記事の中でも言及しているので、そちらをご参照下さい。

ビートルズに近しいバンド、しかもアップルに所属していたという一見、恵まれた境遇だったように思えるのですが、実はアップルは経営という点では全くダメなレーベルだったわけで、そこに悪徳マネージャーが加わったという不運が重なり、後にバッドフィンガーは悲劇のバンドとも呼ばれるようになってしまいます。

そこで彼等は心機一転、ワーナーへ移籍し、新たな飛躍を目指します。本作はバンド名をタイトルに付したワーナー移籍第一弾アルバムなんです。プロデュースはクリス・トーマス。

何といってもこのオープニングナンバーの①「I Miss You」が素晴らしい。これぞピート・ハムのメロディって感じです。
この曲調はエリック・カルメンにそっくり。気のせいかピートの声質もエリックに似ていますね。ピート単独作品で、アイヴィーズ時代にはこの原型を作っていたようです。基本的にはピートがバック演奏も含めて単独で仕上げたもので、コーラスにトム・エヴァンズが参加。日本では「涙の旅路」として、シングル発表されました。

ピートとトムの共作ナンバーの②「Shine On」。軽快なピートのカッティングギターが心地いいですね。ちょっとライトなパワーポップ。
こちらは珍しいデモ収録の映像がありました。恐らく1973年夏頃と思われますが、新たなスタートを切るという強い意気込みが感じらます。メンバー間もリラックスしたムードで、いい感じですよね。
それにしてもこの映像から2年と経たず、ピートが自殺してしまうとは誰が予想したでしょう。ピートは自殺してしまう前夜、トムと酒を飲んでいたといいます。そのトムも1983年に自殺してしまうんですよね…。

後のボストンを思わせるようなハードロック調の③「Love Is Easy」はジョーイ・モーランド作。ジョーイは前作から積極的に楽曲提供しており、本作でも4曲提供しております。
この曲が本アルバムからのファーストシングルです。パワーポップというよりもハードロック。曲自体は単調なんですが、ギターやベースのアレンジ、サウンドアレンジが結構凝っていて飽きさせませんね。従来のバッドフィンガー・ファンからは好かれない曲かもしれませんが、個人的に大好きなナンバーです。

このアルバム、各メンバーが気負ったのか、あまり纏まりのいいアルバムとは言えません。①~③の流れが続けば良かったのですが、どこか散漫な印象を与えます。
⑦「Matted Spam」はピートの作品ですが、あまりピートらしくないメンフィス・ソウル風な味付けの楽曲。
ブリティッシュ・ポップが持ち味の彼等ですが、本作ではアメリカ・マーケットを意識した作りであり、この作品もそういった背景から作られたのかもしれません。それともピート自身がソウル好きだったのかなあ。あまりピートのヴォーカルはソウルフルでもないので、このテの楽曲はバッドフィンガーらしくないかな。

バッドフィンガーはピートとトム、後から加入してきたジョーイと3人の素晴らしいソングライターがいたバンドでした。じゃあ、ドラムのマイク・ギビンズはどうかというと、彼も曲を書く人でした。本作では1曲、⑨「My Heart Goes Out」を提供しております。
ドラマーが書いた曲というと激しい曲を連想されると思いますが、ここではドラムレスの実にフォーキーな曲を披露しております。歌っているのはマイクでしょうか。線の細い歌声です。

エンディング・トラックはジョーイと奥さんのキャッシー・モーランドの共作の⑫「Andy Norris」。
あまり捻りのないロックンロールです。一部ハンドクラッピングを入れていたり、ちょっとバッドフィンガーらしさが出てますが、全体的にはハッとさせられるような展開はありません。

彼等は本作発表後、2か月後にはスタジオ入りして名作「Wish You Were Here」を発表致します。但しワーナーともトラブルとなってしまい、1975年には彼等のすべてのアルバムが発売停止となってしまう事態に陥ってしまいます。1975年4月、ピートは自殺…。その遺書には、マネージャーであったスタン・ポリーに対する辛辣なコメントが残されておりました。

ピートや他のメンバーの脇が甘かったといえばそれまでですが、才能豊かなピートやトムの早逝が悔やまれます。ちなみにジョーイ・モーランドは今も現役で、2年前にも新作を発表。そこにはモンキーズのミッキー・ドレンツやジュリアン・レノン等が参加しておりました。

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