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わたしたちのTOKYO、あなたの見つめる東京。 | 2000年生まれのポピュラー文化探訪 #85

 2009年にムーンライダーズが当時実際に使っていたメーリングリストをモチーフにタイトルが付けられたアルバム『Tokyo7』をリリースした時、わたしは彼らの名前を知りもしませんでしたが、東京という街に対しては不思議と思い入れを持っていました。

 今だってそう。東京は日本のあらゆる物事において、最先端をひた走る場所。たとえ、どんな魑魅魍魎があろうとも、そこに身を置くこと自体に計り知れない意義があることは、地方の再評価が進んだ今もあまり変わっていません。むしろ、今はそういった流れの揺り戻しが来つつあるのではないでしょうか。

 大阪でも、名古屋でも、福岡でも、札幌だってこんな味わいはない。東京という不思議な街。いつしか、上京という言葉自体も、東京への憧れを指すようになりました。わたしも、いつか東京へ行くことを夢見て、関西弁を積極的に使わなくなりました。

 ムーンライダーズのメンバーたちは全員東京生まれではありませんが、少なくとも関東で生まれました。かしぶちさんは栃木県、武川さんは神奈川県で生まれたそうです。バンドを始めてからはコンサート以外の多くの時間を過ごし、彼らは無意識的に「東京のバンド」という自認を持つことになりました。メンバー全員がそれぞれに楽曲制作を行った6曲の先行シングルは『東京』というタイトルの含まれた曲が二曲含まれています。当のアルバムには含まれていませんが、歌詞やその空気感は明らかに「東京で生きてきた人にしか創れない作品だなあ……」とわたしは思います。何の根拠もありませんが、溌剌としながらも飄々とした雰囲気を感じさせるところが、そう思わせるのかもしれません。

 特に好きなのは岡田徹さんが作曲した「夕暮れのUFO、明け方のJET、真昼のバタフライ」という楽曲です。50年代や60年代のSF作品、ジュブナイルものを思い起こさせるような、なんともいえない情景が全面に押し出された作品となっています。岡田徹さんの楽曲は、やはり果てしない魅力に満ち溢れています。そこに鈴木慶一さんの不思議かつ感傷的な歌詞が乗ると、もう計り知れないほどにエネルギーに満ちたものになるのです。2000年代のこのタッグの中では「Cool Dynamo, Right On」に勝るとも劣らない楽曲でしょう。

 わたしは今、ふたたび東京を目指そうとしています。ムーンライダーズの楽曲を聴きながら、夢を無邪気に風船で飛ばそうとしています。

 彼らの原点である東京を見つめ直したアルバム『Tokyo7』は、虹を追いかけ続けるわたしにとってのバイブル的な作品になっていくかもしれません。なぜなら、ムーンライダーズは今も夢を追いかけ続けていますよね。お手本にするには、これ以上ない存在じゃないですか。

 2024.2.23
 坂岡 優

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