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想いを言葉に、時代を歌に切り取るということ。 | 2000年生まれのポピュラー文化探訪 #94

 ムーンライダーズには変わった曲がたくさんあって、わたしもまだ半分以上の楽曲を聴けていないんですけれども、すっかり彼らの魔法にかけられてしまいました。

 今回のエッセイの題名にもしてみましたが、サブスクにもあって聴きやすい楽曲たちの中でとりわけ異彩を放っているのが「はい! はい! はい! はい!」という曲です。赤塚不二夫プロとコラボして発売されたLINEスタンプにも使用され、近年のライブでも演奏されています。

 作曲はメインヴォーカルを務めた鈴木慶一さんが手掛けていますが、音楽プロデューサー、文筆家、レコードコレクターなどの活動を行っている渚十吾さんを共作曲に迎え、ビートルズ直系のサウンドデザインの中に鈴木博文さんが風刺的な歌詞を詰め込んでいます。とにかく濃いんですよね。彼らの他の楽曲にもいえますが、どこをどう切り取ってもスタンダードじゃない。でも、耳に残るし、なぜかポップに聴こえてくるのはマイスターたちが集っているからか。

 最近の周りの人たちを見ていると、とにかくメッセージを出すのを怖がっているんです。普遍的なことすらも、誰かに委ねようとする。それなら、簡単なリフレインでも構わないから、「歌にしてしまいましょうよ」と言いたいんですよね。かつて生ギターを持って社会や反抗心を歌にしていた人たちは、きっとそういったエネルギーを持っていたんだ。今の人たちだって、何も持っていないわけがなかろう。

 この「はい! はい! はい! はい!」は1991年の作品ですが、現代の社会にも通じるポイントがあまりにも多いといいますか、そもそも当時と今でそんなに変わっていないんだな……と感じてしまいます。憲法、反戦、自死……かつての日本を知る人たちが“失われた30年”と形容するのもわからなくもありません。情報は溢れかえっているのに、感性が貧しいひとがどんどん増えていっている気がする。わたしだってそうかもしれない。

 「はい!」というもっともわかりやすく、もっとも日常的に口にする言葉がキーになり、どんどん物語が膨らんでいく。当時はバブルが崩壊したか、崩壊直前の時期で、よくぞここまでぶち込んできたものだと言いたくなります。

 他にもそういった曲があって、2005年に発表された「ヤッホーヤッホーナンマイダ」も同じ系統にある楽曲です。Spotifyにはライブ版しかないのですが、Apple Musicには『P.W Babies Paperback』のオリジナル版もあるので、聴き比べてみるとおもしろい。(いつか全アルバムのサブスク解禁が来てほしいなあ!)

 2020年の中野サンプラザで行われたライブを収録したアルバムはコロナ禍だからこそ出来る楽曲たちもたくさん演奏されて、程よい緊張感があって最高なんです。

 「はい! はい! はい! はい!」も同じ日にダブルアンコールで演奏されています。この二曲が同じ日に歌われるって、もう二度となかったりして……

 カラオケにも入っているので、気に入った方は「冷えたビールがないなんて」とかと一緒に歌ってみてください。ムーンライダーズ、ヒットはしていなくたって癖になる良い曲をたくさん作っていますから、まだまだヒットの可能性はあるはず。いや、ヒットしてもらわなきゃいけませんよね。慶一さんの目が黒いうちに。

 2024.3.7
 坂岡 優

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