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もうすぐ70歳でメタルをやるということ | 2000年生まれのポピュラー音楽探訪 #43

 THE ALFEEほど、その全貌を理解しづらいバンドはないと思います。50年間という歴史が入りづらくしているのは確かで、代表曲「メリーアン」「星空のディスタンス」は80年代前半の絶頂期へ向かっていく過程の中の沢山ある側面の中のひとつに過ぎません。90年代以降も、音楽性やキャラクターを進化させ続けながら今も前へ進み続けていて、実は絶頂期はこれからかもしれないのです。

 そんな彼らの今を知るために、ベストアルバムを聴くはもっとも気軽な手です。ただ、THE ALFEEには手頃なベストアルバムがありませんでした。『SINGLE HISTORY』はあくまでもシングル楽曲たちの詰め合わせですし、2004年に発表された『30th ANNIVERSARY HIT SINGLE COLLECTION 37』は「メリーアン」以降のシングルを網羅できるものの、さすがに「希望の橋」までとなるとちょっと物足りない。『BEST SELECTION』はVol.1はベストアルバムとして聴きやすいですが、Vol.2は新録音源がかなり多く、もはや何だかわからない。だからといって、50年のオールタイムベストになるとどう組み合わせても異論は出てくるので、何年かで区切るのがちょうどいいですよね。

 今回のベストアルバム『SINGLE CONNECTION & AGR -Metal & Acoustic-』はまさに2013年から2021年までのシングル収録曲を集めた作品で、すでに大阪国際女子マラソンに収録された楽曲を集めた『Last Run!』に入っている楽曲は収録されていません。それに加え、『AGR -Metal & Acoustic-』と銘打ち、6曲とミニアルバムくらいの規模感ではあるものの、現在もライブで演奏されている名曲たちを新たなアレンジで録り直した音源が二枚目に収録されています。

1枚目:SINGLE CONNECTION

 というわけで、一枚目は2013年から2021年に発表されたシングル楽曲たちが現在の彼らの考えた楽曲順で収録されています。現代ですから、もし気に入らなければ、発表順やご自身の考えた楽曲順でプレイリストに変えてもいい。でも、やっぱり発表順ではつまらないですし、こうやって曲順にこだわってくれるのは嬉しいですよね。

 2016年に『ぶらり途中下車の旅』の主題歌に起用され、2017年の冬に発売された「この素晴らしき愛のために」がギターを差し替えられた上で新たにミックスがやり直されています。2019年のアルバム『Battle Starship Alfee』では収録を忘れられてしまった作品がこうして新たに命を吹き込まれたのはやっぱりこの楽曲が好きな人にとってはたまりません。シングル「人間だから悲しいんだ」のカップリングでしたが、どちらもシングルで切ってもヒットできそうな素晴らしい楽曲たちでした。

 『新ウルトラマン列伝』の主題歌である「Final Wars!」「英雄の詩」はわたしがTHE ALFEEファンになるきっかけとなった思い入れある楽曲ですし、コロナ禍で発表された「友よ人生を語る前に」はあの頃の淋しさや喪失感に希望をもたらしてくれた大切な楽曲。「光と影のRegret」もガロをリスペクトしたコーラスワークと切なさ溢れる歌詞、高見沢さんのヴォーカルが最高に好きで。

 いちファンとして、思い入れ抜きに紹介するのが不可能な時期の作品なのですが、ランディ・メリルのマスタリングであらためて振り返っていけるのが贅沢で、じっくりと思い出をたしかめながら、この先に向かって何度も聴いていけたらと。

 そして、はじめての方も、1時間くらいでさくっと聴けるベストアルバムが生まれたことを嬉しく思います。今がわかるって、ほんとうに大事。

2枚目:AGR -Metal  & Acoustic

 さてさて、本題はこちらですよ。

 なんですかこの音は。メタルナンバー「悲劇受胎」「鋼鉄の巨人」「Count Down 1999」が再録されましたが、恐ろしいくらいに激しく、高見沢さんのヴォーカルの進化がはっきりとわかる音源になっています。そもそも、世間の想像する来年70歳のバンドがこういう音を出すと思う人がどれくらいいるんでしょうね。

 近年では珍しいくらいに鋭利なエレクトリック・ギターの音像と、一気に高められたドラムス。もちろん、卓越したコーラスワークと各所で大きな存在感を放つアコースティック・ギターも欠かせません。

 今回の再録曲からミックス・エンジニアが茨木直樹さんに変わりましたが、数々のバンドを担当してきた実績もさることながら、ギターとドラムの音がめちゃくちゃ良いですよね。今年惜しくも逝去され、ここ十年はほぼ全作品でレコーディングやミックスを手がけてきた安田稔さんは御三方のコーラスワークを綺麗に録ることが本当に得意な方で、彼のミキシングも大好きだったのですが、茨木さんは茨木さんの得意分野で正面から切り込んできた印象があります。(もともとTHE ALFEEにアレンジャー・キーボーティストとして携わっている鎌田雅人さんの作品にも参加されていました)

 アコースティックな楽曲たちも今のコンサートで演っているアレンジが施されていて、「NOBODY KNOWS ME」「ひとりぼっちのPretender」「人間だから悲しいんだ」はすべて坂崎さんのヴォーカル曲となっています。シングル曲では桜井さんが前に出ていく分、再録曲では他のふたりがほとんどの楽曲でヴォーカルを担当するといった分担です。

 「ひとりぼっちのPretender」はシングル「星空のCeremony \ Circle of Seasons」にもライブ音源が収録されていましたが、スタジオ音源も素晴らしいですね。ライブはライブで熱狂が焼き付くのですが、こちらはよりアコースティック・ギターがクリアに聴こえ、ライブではできない複数本でのアレンジもできるので、より熟成された世界観を堪能できます。

 いずれの音源にも感じるのは、年齢を重ねたゆえの落ち着きを見せるではなく、新しいアレンジに果敢に挑み、さらなる魅力を最大限に引き出そうという前向きな姿勢です。

 彼らはいつの時代もそうですが、THE ALFEEという名前の音楽を全うしようとしている。50周年を目前に控えた今、オリジナルと聴き比べる度に常にライブと新作で進化を続けてきた御三方の凄さが窺えます。

おわりに

 本作ははじめてTHE ALFEEを聴くという方にも非常に薦めやすいアルバムになっています。

 プレイリストよりは重めですが、ほぼ過不足なく網羅できて、ここから更に聴きたい方はオリジナルアルバムを聴いてみるといったことが自然な流れで出来るようになったので、とても良いことだと思います。

 これまで、なかなか最初の一枚が見つからなかったんです。新しいアルバムをとりあえずお薦めしていましたが、「組曲:時の方舟」は新人にいきなりゴジラやキングギドラに立ち向かわせるようなものですし、シングル曲の作り込まれた音像とキャッチーさから少しずつ馴染ませていった方が、きっと長く推せるんじゃないかなあ……と。

 そして、70歳にしてこんなにパワフルな音楽を演奏するバンドがいるんだということ。特に、メタルを今も変わらない、いや、さらに迫力ある形で歌い、演奏するということ。

 推しがますます元気になっていくのは、いちファンとして、とても嬉しいです。歴史的に見ても、この年齢でここまでパワフルなバンドはそう多くなく、たぶん高見沢さんが元気な限りは十年後も大丈夫。まだまだ彼らの冒険が末長く続いていくことを心から願っています。

 2023.12.27
 坂岡 優

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 いただいたサポートは取材や創作活動に役立てていきますので、よろしくお願いいたします……!!