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「刑事ドラマ入門」としてのレスキューポリス

 「レスキューポリスシリーズ」と聞いてピンと来ない方も、30代以上の方で幼少期にヒーローがお好きだった方であれば、『特警ウインスペクター』『特救指令ソルブレイン』『特捜エクシードラフト』のいずれかを覚えている方は少なくないかもしれません。

 俗に“メタルヒーローシリーズ”と呼ばれる作品群の中で、「宇宙刑事三部作」以来となるシリーズ化を果たした救急警察もの。名だたる刑事ドラマで腕を振るった演出家の堀長文さんがプロデューサーを務め、ウインスペクターとソルブレインは『スケバン刑事』『太陽にほえろ!』『西部警察』などに参加した杉村升さんがメインライター。エクシードラフトで杉村さんから受け継いだ宮下隼一さんも『西部警察』『ゴリラ・警視庁捜査第8班』などで実績のある脚本家です。また、演出陣も東映作品の黎明期から参加している大ベテランの小西通雄さんをはじめ、三ツ村鐵治さん、蓑輪雅夫さんといった警察ものを知り尽くしたメンバーが集結しています。

 よく「当時の世相を反映して……」「PTAや世間からの特撮作品に対しての批判的な声に応えて……」といった声が聞かれますが、このメンバーであれば、人間ドラマを核とした救命警察ものが作られるのは必然だったかもしれません。主人公たちの武装にはヒロイックな、特殊部隊が運用するとしてもオーバースペックな武装が多々ありますが、ウインスペクターに登場したマックスキャリバーのような剣型の兵器、ギガストリーマーのような重火器はヒーロー番組としての迫力を持たせるには必要で、最終的にはエクシードラフトのバトルジャケットやサイクロンノバといった重武装群に結実することとなりました。

 これらの作品群のドラマにおける特徴として、ソルブレインでメインテーマに据えられた「人の命と心を救う」というものがあります。30分ものでヒーローを格好良く見せなければいけないキャラクター作品の枠の中で、いかに重厚なドラマを盛り込むかに脚本家は苦心していたように見受けられます。東映作品の中でも、とりわけ多くの脚本家が参加した作品でもありました。(後に任侠もので名を馳せる細野辰興さんの名前もあります)

 特に、現在も『名探偵コナン』で重厚なドラマを描いている扇澤延男さんの作品は強烈です。ソルブレインの「わしら純情放火団」は現代社会にも通じる日本の暗部に正面から切り込んでいますし、エクシードラフトの「魔獣を飼う美少女」はレスキューポリスシリーズの限界を描きました。他にも、子どもたち同士のいじめを描いた「見えない巨人」は特撮ヒーローの歴史の中でも屈指のハードなエピソードとして知られています。

 最終的に“神と悪魔の戦い”という非常に観念的な要素をもった作品群で終焉を迎えることとなりますが、レスキューポリスシリーズの志は現在の視点からも特筆すべきものがあるでしょう。

 特撮ヒーローファンにとっては正木俊介を演じた宮内洋さんの存在感も忘れられません。宮内さんはどの作品に出ても、主役を軽々と越えてくるほどの魅力に溢れた名優ですが、ウインスペクターやソルブレインでは彼の存在感をうまく活かしていたと思います。(いろんなヒーローの顔が浮かんで、あなたが全部解決できるのでは……と思わなくもなかったのですが)

 マスク着脱時の爽やかな演出、対象年齢が本来の刑事ドラマよりも低いゆえのシンプルな情熱に溢れたキャラクターたち、明らかに一般の犯罪者が持つには重すぎる武装と、生身の人間に向けるような威力ではない主人公たちのメインウェポンなど、いろいろと見どころもあります。

 何より、「これから刑事ドラマを観てみよう」という方はまず本作の中から何話か視聴することで、その基本的な要素を抑えてみると入りやすいかもしれません。

 メタルヒーローシリーズ自体は洋画的な要素の強い『特装ロボ ジャンパーソン』『ブルースワット』を経て、『重甲ビーファイター』でヒーロー作品としての原点回帰を果たすのですが、仮面ライダーやスーパー戦隊のようなアイコン的制約の少ない本作ならではの、非常に意欲的な作品群ですので、よかったら観てください。

 P.S)脚本家の小林靖子さんはレスキューポリスシリーズを観たことがきっかけで脚本家を志し、ジャンパーソンでデビューしています。脚本家の大量離脱を生き残り、堀さんや宮下さん、扇澤さんらによって育てられた“堀作品の残した最高のクリエイター”だと思います。

 2023.3.15
 坂岡 優

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