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広島東洋カープの新ユニフォームはどう変化したのか?

 今日、広島東洋カープはホーム・ビジター両方のユニフォームを15年ぶりに刷新することを発表した。マツダスタジアム開場以来、各時代を彩ってきたユニフォームが新井貴浩さんの監督就任に伴い、姿を消すことになる。

 多くのプロ野球ファンにとって、カープといえば現在のユニフォームをイメージされる方が多いだろう。特に、10代や20代にとっては、人生の半分以上をこのユニフォームとともに過ごしたファンの方もいらっしゃるはずだ。ブラウン監督、野村監督時代の徐々に力を蓄えていった時代から、緒方監督時代の黄金期、佐々岡監督時代の再建期まで、マツダスタジアム移転後のカープといえば、このユニフォームが象徴だった。

現在のホーム・ユニフォーム(Wikipediaより)
現在のビジター・ユニフォーム(Wikipediaより)

 ホーム、ビジター共に久々に紺色が差し色に使用され、広島東洋カープがこれまで紡いできた歴史をシンプルにまとめきったユニフォームは、ファンからの評価が非常に高かった。しかも、週刊ベースボールに連載を持つ野球意匠研究家の綱島理友さんや巷のユニフォームデザイン愛好家からもデザイン・文脈両方の視点からも評価されていたのも特徴的。

 そんな名ユニフォームからの変更は、デザイナーや球団にとって、かなりハードルの高いものであったはずだ。

 では、新しいユニフォームはどのようなものになったのか。公式サイトの画像やYouTubeにアップされた動画を元に、簡単に紹介してみよう。

ホーム用

 ホーム用は基本的に現在のデザインを踏襲している。ただ、細かな部分が手直しされたり、新たなアレンジが加えたりされており、完全に踏襲しているわけではない。

 従来からの変更点で特に目につくのは、全体的に文字関係の意匠が小さくなった点だ。現在の80〜90%くらいだろうか。胸マークに関しては、従来のものよりもスマートになった印象。背番号については、より小さくまとめられている。70年代くらいの背ネーム導入時のような、かなり小さくなったような感覚がある。

 あと、2009年からのユニフォームの大きな特徴だったがなくなった。

 そして、もっとも大きな新要素として、筆でシュッと描いたような太い線が加えられた。

ビジター用

 基本要素が踏襲されたホーム用とは異なり、まったく新しい方向性を示してきたのはビジター用である。

 赤がメインであることは変わらないが、従来型は差し色で前に押し出していた紺色を細くし、これまでは白だった部分にも赤を大胆に使用。一般的なユニフォームであれば、メインカラーと同じ色をロゴや背番号には使用しないが、今回はさらに赤を強調したいという理由でこのようなデザインになったそうだ。

 パイピング(俗にいう“ラケットライン”)は滑らかだった従来型からカクッとしたものに変更。ホーム用と同じく、襟は廃止

 背番号はロサンゼルス・エンゼルス型というか、日本代表型というか、とりあえず70年代から使用されてきたものから全く新しいフォントに変更されたことは確かだ。

所感:デザイナーは選手をどう見せたかったのか?

 今回のユニフォーム変更は、従来型のビジター用がチームカラーの赤が強調されている点を理由にファンから絶大な人気を誇っていたことがコンセプトの背景にあると容易に想像できる。だが、この新ユニフォームとSNS上の反応を見る限り、「デザイナーがスタジアムの選手たちをどう見せたかったのか?」があまり伝わってこないのがいちばんの問題点だと私は思う。

 (ビジター用に関して)赤を強調するにあたって、なぜ紺色が差し色なのか?

 赤と紺色を合わせることで、選手たちが「私は〜だ!」と伝えるための唯一自己主張するパーツの背番号や背ネームが見づらくなるのだが、それをあえて採用するのであれば、どういったメッセージをデザイナーは込めたのだろうか球団や広報担当者は、どのようなユニフォームで選手たちに戦ってほしいのか。

 赤と赤のメインデザイン、突然のフォント変更、背中に佇む赤いライン、スタンダードから外したようなパイピングには、球団がこれまで紡いできた歴史的背景が見えない。

 ひとつひとつの部分を取り立てて議論するのは簡単だが、このユニフォームに関しては、幹の部分を知ることから始めなければいけないと私は考えている。

 いちデザインとしても、広島東洋カープのユニフォームとしても、背景の見えないユニフォームを語ることは難しい。

 2022.10.15
 坂岡 優


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