真(まこと)

小説書き。かわいいワンピースと夢の国で写真を撮るのが好き。

真(まこと)

小説書き。かわいいワンピースと夢の国で写真を撮るのが好き。

マガジン

  • レベッカブティックへ

    レベッカブティックのワンピースからインスピレーションを受けて創作した物です。

最近の記事

踊ってくれませんか

 細い手首の内側に慎ましくまかれた腕時計が夕刻を指している。  白いヒールの足を組み替えては、朱くなり始めた空を見上げた。 「由姫!」  後ろからの声に振り替えると、呼び出した本人がこちらにかけていた。周りを歩く人々が皆、すれ違いざまに振りかえる。真っ赤な包みを片手に、黒いタキシード姿を着た彼の姿は、まさに舞台俳優らしかった。  彼を追う視線の先で、明らかに似合わない自分に恥ずかしくなって安物のワンピースの裾に目を伏せた。 「待たせてごめん」 「ううん、大丈夫。待ってない」

    • オレグラッセを夜にこぼして

       閉園まであと1時間足らずのテーマパークの夜空いっぱいに花が咲いていた。  お気に入りのワンピースを着て、いつものように大好きな彼のお家までの道、散っていった花火から道中へと視線をうつすと、前にいた二人組の女性が声をかけてくれた。  どうやら売り切れてしまったカチューシャに気づいたようで、実物が見れたと楽しそうだ。 そのカチューシャに合わせてきたんやね、と私のワンピースに気づいた彼女が関西訛りの声音で話す。  胸元を縁取ったフリルと真ん中で結んだリボン。可愛らしいわ、と、買っ

      • ミネルヴァのエプロン

        レベッカブティック。原宿に一店舗だけある洋服屋さんで、ワンピースが得意なブランド。 私がレベッカブティックを知ったのは大学生の冬、国家試験勉強真っ只中。勉強に飽きた私はスマホでなにかを検索していた。そこでたまたま目に止まったのは、一つのワンピースをフューチャーした写真。 「面倒見のいいエプロンチックワンピース」 投稿文にはそう書かれ、二人の女性が色違いのそれを纏っていた。 これを着てあそこに行きたいな、とぼんやり考えながら、保存ボタンを押したのだった。 国家試験を終え、オン

        • 頬色を空に溶かして

           彼女が私を見つけた瞬間、その身に纏ったワンピースのように彼女の頬が色づいた。 ***  真っ青な空が駅舎の向こう側に広がっている。風に舞った今年最後の桜の花びらが、鼻先を掠めた。  鈴は窓ガラスに反射した自身の姿を見てそわそわとした感覚でいた。ピンク色、どちらかというと桃色に橙を垂らしたようなそんな色の生地に、袖口と胸元に小さなボタンが規則正しく並んでいる。下ろしたてのワンピースは鈴の体をすっぽりと覆い、スカートの裾に施されたバラ模様のレースがくるぶしを撫でた。  待ち

        踊ってくれませんか

        マガジン

        • レベッカブティックへ
          5本

        記事

          あなたを祝する

          おめでとう、と手を叩き、歌うような声が聞こえる。 テーブルに並べられた見るからにご馳走と言える食事に、ハッピーバースデーと書かれたチョコレートプレートののったケーキ。ろうそくの火は消されたあとだろうか、紙の花で飾りつけられた部屋には、少し似合わない焦げ臭いような臭いが鼻をかすめる。部屋の真ん中で、女の子は満足そうに笑っていた。 ### 桃花がはっと目を開くと、そこはいつもの自室だった。スマホのアラームが耳のそばで規則正しい電子音を鳴らしている。 夢か、と呟きながら、ア

          あなたを祝する

          私たちの

          檸檬の浮かぶボトルに反射した光がテーブルの上で揺らめく。耳を通りすぎる洋楽は名前も知らないアーティストのものだ。午後1時を過ぎた渋谷は、平日だからか人通りは多くない。 藍は唇を一度なめて、口紅をひと塗りした。 久しぶりのお休みに、行ったことのないカフェに行こうと思い立ったのは今日の10時すぎ。数日前から写真投稿アプリで見かけたカフェが気になっていたのだ。 久しぶりに訪れた渋谷の街には新しいビルが立っていた。一人暮らしの郊外の部屋から都心までは電車で1時間と少しという中途半端な

          日常と、あの日の温度差

          あの日の空は鼠色の雲が覆っていた。今にも雪が降りだしそう。教室の中は暖房がきいている割には足元が寒くて、セーラー服の下で足を組み替えたりしていた。 黒板には古典の先生の文字が並んでいる。よく声の通る先生が何かをしゃべっていた気がする。 突然聞こえてきたのは、クラスの中でかわいらしい女の子の携帯電話の音だった。 緊急地震速報。 けたたましい音のそれは、授業を止めるにはふさわしすぎた。 その直後、揺れた。 先生が机の下に隠れるようにと指示を出す。頭も守ってと。こんな時でもスカ

          日常と、あの日の温度差