ミネルヴァのエプロン

レベッカブティック。原宿に一店舗だけある洋服屋さんで、ワンピースが得意なブランド。

私がレベッカブティックを知ったのは大学生の冬、国家試験勉強真っ只中。勉強に飽きた私はスマホでなにかを検索していた。そこでたまたま目に止まったのは、一つのワンピースをフューチャーした写真。
「面倒見のいいエプロンチックワンピース」
投稿文にはそう書かれ、二人の女性が色違いのそれを纏っていた。
これを着てあそこに行きたいな、とぼんやり考えながら、保存ボタンを押したのだった。
国家試験を終え、オンラインストアを見れば、sold outの文字があったのを覚えている。
それから、レベッカブティックのSNSをチェックしては再販売を熱望しながら職に就いた。

春、レベッカブティックの新作が発表になると、水玉模様のワンピースがそこに並んでいた。
「ミネルヴァのドットワンピース」
後から調べたら、ミネルヴァは世界中で愛されるネズミの女の子の名前のようだった。
絶対欲しい、これを着て行きたい。
発売してからすぐのお休みに、高校生ぶりに原宿を訪れた。人でごった返した坂道を下り、地図アプリを確認しながら脇道に入るとラフォーレ原宿の裏側の出入り口に着く。
開店してすぐ、レベッカブティックに向かった。あの時はすごく緊張していたと思う。
たぶん店内は開店したばかりで私だけか、他にいても数名くらいだったと思う。お目当てのワンピースを着ていたスタッフさんに勧められ、お話ししながら、試着をしたり鏡に合わせたりした。確かその時もパークが好きだとしゃべっていた気がするから、私は本当に変わってない。
行く前からもう2色とも買うと決めていて、やっぱり2色買った。初めて同じデザインの洋服を2色の色違いで買った日だった。
そしてその日、ドキドキしながら、一応確認とばかりに、エプロンチックワンピースが完売してるのかと聞いた覚えがある。たぶん、聞いておかないと納得できやしないから聞いたんだと思う。

そして約3年が経ち、私はいつもにようにレベッカブティックの洋服を着てレベッカブティックに行く。
あの日、初めて会ったスタッフである彼女の作った洋服を求めて。
「その先を行くワンピース」
「曖昧を挟むエプロン」
彼女が私との会話を覚えてるわけもないだろうか。
それでも、彼女がこの服を作ってくれたのは、もはや私のためなんじゃないかと思い上がってしまうくらい、運命じゃないかと思った。
ミネルヴァのドットワンピースに、エプロンチックワンピースを合わせて行きたい場所に行く日を夢見続けてきた。この話を彼女にした覚えはない。それなのに、こうして新たな形で叶えようとしてくれてる気がしてならないのだ。
やっと、夢の一つが手の届くところにきている。
そしてまた、私に夢が一つ生まれている。
夢を今度はともに叶えられる日がきますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?