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連載《教え子33~塾講師と生徒~淡くてほんのり苦い物語~》 休日出勤-2

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 温かいものが頬に登ってきた。
 たちまち胸が弾んだ。
 心は宙に舞い上がるようだった。
 繰り返すが、とても愛おしいと思った。
 休日の校舎。
 俺と彩子以外は誰もいない。
 来る者もいない。
 普段は賑やかなのに今は二人の心臓をドキドキ打つ音しか聞こえない。
 ちょっと強めに彩子を抱き締めたら、彩子も抱き締め返してきた。
 力を緩め、腕を離し、両手で彩子の頬を包んだ。
 中指を耳の後ろに回した。
 顔を近づけた。
 俺は目をつむった。
 柔らかな、弾力のある感触。
 彩子は腕を回してきた。
 俺は両手で優しく小さな顔を包み続けた。

 いつまでそうしていたか、わからなかった。
 顔を離し、目を開け、彩子を見つめた。
 両手を肩へ移して、そして、
「好きだよ」
 と、それだけ言った。
 その一言だけで充分だった。
 だって、目の前で見つめ返す瞳は、俺だけのものと確信できたから。
 その証拠に彩子は、
「私も、、、」
 と、それだけ言って、俺の胸に顔を埋めてきた。

 俺たちはパンドラの箱を開けてしまった。
 口に出したらもう、俺たちの関係は先生と生徒の仲でいられなくなり、とどのつまり、モラルが問われて、二人とも居場所がなくなり、恋愛関係など以ての外で、彩子は学校や塾へ通えなくなり家庭内でギクシャクし、俺は辞表を出してどこか遠いところでひっそりと生きていかねばならぬ、そうに決まってるというパラダイム(ものの見方)から脱却できずに怯えていたのだ!
 でも、開けてみてわかった!
 今後どうなるかは今の時点ではわからないが、やっぱり、口に出して気持ちを伝えることは、大切だし必要なんだ!
 もし俺たちの関係が知られるようになって、世間から揶揄されることもあるだろう。
 でも、そのときはそのとき。
 塾長から《生徒との恋愛は御法度》と通達されてクビになってもいい。そのときはそのときさ。
 すくなくとも、俺は彩子と過ごす時間がどんどん充実してるし、何より彩子が愛おしい。

 彩子が顔を上げた。え? 泣いている。
「どした? 何故、泣くの?」
「えー? ヒック、だっ、ヒック、てー」
「だって何?」
「だってさー、ヒック、ヒック、うれしくて」
 俺はひとりで感動した。俺にくちづけされてうれしいってか!
「俺もだぞ」
「本当?、ヒック」
「うん」
「先生、大好き!」と、言って、ピョンピョンしながら、抱き締めてきた。
「アタシ、越えちゃいけないってずっと言い聞かせてきたの。そーでしょ?」
「うん、まあな」
「だから、ずっとガマンしてきたんだよ? アタシ」
「うん、俺もだよ。なあ、彩子。今はテストの準備で忙しいけど、テストが終わったら、湘南に行こか?」
「うん! 行く行くー!」
「彩子はどこか行きたいとこある?」
「んー、別にー」
「なんだよー、別にってー」
「そーじゃなくて、丈ちゃんとなら、どこでもいいの。そんなのもわかんないのー? どーんかーん」
 まじか。。。苦笑いするしかねえな。。。
 そんな俺の様子を見て、彩子は、
「そのリアクション、ツボなんだー、ウッシッシ」

 沢崎丈、28歳、独身、もー、何もかも想定外。
 すでに、こんな歳下の女子高校生に振り回されてます。
 振り回されながらも、成人としては、きちんと出るとこ出て行かんとな。
 ん? 俺って、元カノのことでここまで先のことを考えて真剣になる性格だったっけ?
 ないない、ないない尽くし。
 それが今度に限ってこうも大人びた考えをするなんて。
 やっぱり彩子が未成年だからだろうな。
 と同時に、俺も歳を取ったんだな。
 彩子に対する責任つーか。
 ああ、でも塾長をはじめ、彩子のご両親には、きっちりけじめをつける!

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