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【創作】薄闇

夢を見ていた。長い長い夢だった。
隣に人がいた。綺麗な目の人だった。顔のパーツ一つひとつはよく憶えていない。彼が何か言って、私はそれを聞いて笑っていた。心底楽しそうに笑っていた。笑っている私を、もう一人の私が少し離れたところから眺めていた。
場面がふっと変わって、私は彼の腕に抱かれて微睡んでいた。辺りは夜明けのように白んでいた。二人は隙間なく身を寄せ合って眠っていた。眠っている二人を天井から見下ろす私がいた。

夢を見ていた。幸せな夢だった。一人を心から愛おしく思う、暖かくて幸せな夢だった。
私は誰かと手を繋いでいた。目線より少し上に彼の目があった。私が彼の目をじっと見ていると、彼がこちらを見て柔らかく笑った。愛しむような眼差しだった。それが私だけに注がれていてほしいと思った。
意識が後ろに引かれるような眠気に、瞼が重くなっていく。夢から覚めるときはいつもそうだった。だからきっとこれもそうなのだと思った。

夢を見ていた。穏やかな夢だった。もう覚めてしまったけれど。
あれは何だったのだろう。淡雪のような夢だった。風花のような恋だった。白昼夢だったのかもしれない。最後まで記憶に残っていた彼の目さえ、もう薄ぼんやりとしてしまった。
ただ、今もなお、あの時の彼の体温が私の肌を温めている。

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