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もしかすると、世界は思ったより優しいのかもしれない。

最初から人並みに出来るのが普通の世界にいた。
教わらないで一通りのことを身につけるのが普通の世界にいた。
分からないことは悪だとされる世界にいた。
出来なければ容赦なく追い詰められるのが普通の世界にいた。
その中で私は、人並みになることすら出来なかった。
私の生きていた世界では、どこまでも落ちこぼれのままだった。

高校を卒業して、大学生になった。
分からないことを教えてもらえた。
分からないと言っても突き放されなかった。
着眼点が良いと褒められた。
よく理解していると褒められた。
考えたことを言っただけなのに、先生は笑って頷いてくれた。

バイトを始めた。
仕事を教えてもらえた。
「そんなに緊張しなくていいんだよ」と言ってもらえた。
「ちゃんと出来てるよ」と褒められた。
「頑張ってね」と応援してもらえた。
分からなくて訊いても、誰からも叱責されなかった。
出来なくて謝っても、誰からも追い詰められなかった。



戸惑った。
ダメな奴だと言われないことに。
叱責も嘲笑もされないことに。
褒められることに。
今までの“普通”が幾度となく覆されて、その度に(野良犬は、温かい手で撫でられた時にこう思ったりするのかな)と考えた。

最初は分からないことが当たり前だということ、それを教えてもらえること、教えられたからといって最初から上手くいかなくて当然だということ。
誰も教えてくれなかった。
一人で出来るようになることが正しいと刷り込まれ、出来ないのはおかしいのだと言い聞かされてきた。出来ない自分に笑う権利はないのだと思ってきた。

でも違った。

思っていたよりずっと世界は優しかった。
あれほど怯えなくてもいい場所があるのだと、もう少し早く知りたかった。

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