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欲しくなると、秋が来たと実感する

以前、別のnoteにも書いたのだけれど、秋が近づくと化粧品が欲しくなる。今年もその時期がきたようで、用事があり寄ったコンビニの化粧品コーナーで自然と足が止まった。

普段であれば素通りする、控えめにつくられた一角には、通常サイズより幾分か小さい化粧品が並んでいる。ボルドーやマスタードイエローなど、深みのある濃い色ばかり揃っているところがなんとも秋らしい。

その中から1つ、小さなマニキュアを摘みあげる。ボルドーかと思っていたが、よく見ると少し違う……。どこかで見たことのある色。「なんだっけ……」と記憶を辿りつつ、マニキュアを片手に目的を果たすべく店内を歩いた。

しかし、結局思い出せず、そのまま購入し帰宅。思い出せそうで思い出せない、宙ぶらりんな感覚にむずむずする。パッケージのカラー名は「ギャラクシーマジック」と書かれているが、たぶん、いや絶対、私が思い出そうとしているモノは、そんな壮大な宇宙を彷彿させる横文字ではなくて、もっと身近で和を感じるものだったような……。

とりあえず、色を確かめようと小瓶のキャップを回す。塗ってみると、瓶やサンプルの色と違うということは意外とある。去年は、とあるメーカーのオレンジのマニキュアを購入したが、塗ってみると赤茶色に近いという地味にショックな体験をした。

ハケをそっとマニキュアに浸した後、余分な液を落とすために瓶の縁でしごく。そして、意をけしてハケを爪に2、3度滑らせた。

「……おお!」

指先には、目の前の小瓶に詰められた液体と、ほぼ変わらない色がのっている。瑞々しい赤紫。でも、こっくりとした深みも感じられ、ほんの少し乳白色を足したような柔らかさもある。どうやら、今回の衝動買いは大正解らしい。

失敗しなかった嬉しさと、予想以上に素敵な色であったことに気持ちが高揚するのを感じた。そして、しばらく眺めていると気づく。

「……小豆だ」

1、2度塗ると水に浸した時のような瑞々しさとつややかさがあり、さらに重ねると、その色艶がより際立つ。この手の色は、濃淡や明るさのほんの少しの違いでキツい印象に見えてしまうが、そういった心配もないくらい落ち着いた品のある色味だ。

何故か、秋が来ると沸き起こる物欲に誘われ、半ば衝動的に手にとったが、思いのほか良い買い物になった。季節の移ろいの感じ方が、紅葉や芸術などではないところに情緒がないなぁとも思うけれど、これはこれで良いのかもしれない。

そう自分に言い聞かせて、新しく増えた秋色を身にまとい、この季節を楽しもうと思う。


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