07 引き潮
十五億回ですよ。
生まれる前に聞こえた声が、今でもときどき聞こえてくる。
風にひげをそよがせて、目を閉じる。
このところ、階段を駆け上がるスピードが、ほんのすこしだけ落ちた。あの子はいつも追いつけないので気づいていないと思うけど、そろそろ脱走できなくなるかもしれない。
ああ、いやだなあ、できたことができなくなるなんて、つまらない。それに、できなくなることが多くなれば、それは必ず訪れる、お別れの予兆がだんだん増えていくようで、いっそうつまらなかった。
満ちた潮が引くように自然のことだとわかっていても、あの子の顔がくしゃくしゃになるのは、ぶさいくだからいやだなあ、と思った。
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