07 引き潮

第1話「01 鍵」

前話「06 どんぐり」


 十五億回ですよ。

 生まれる前に聞こえた声が、今でもときどき聞こえてくる。
 風にひげをそよがせて、目を閉じる。

 このところ、階段を駆け上がるスピードが、ほんのすこしだけ落ちた。あの子はいつも追いつけないので気づいていないと思うけど、そろそろ脱走できなくなるかもしれない。

 ああ、いやだなあ、できたことができなくなるなんて、つまらない。それに、できなくなることが多くなれば、それは必ず訪れる、お別れの予兆がだんだん増えていくようで、いっそうつまらなかった。

 満ちた潮が引くように自然のことだとわかっていても、あの子の顔がくしゃくしゃになるのは、ぶさいくだからいやだなあ、と思った。


第8話「08 金木犀」

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