28 隙間

第1話「01 鍵」

前話「27 ほろほろ」


 その掛け布団は、ぴったりと閉ざされていた。

 質のいい羽毛布団は四つにたたんでもふくらむばかりで、折り目らしきものは見えない。
 飼い主はそっと、その隙間に手を差し入れた。途端に、眠りを邪魔された反撃とばかりに、渾身の猫パンチが隙間から飛んできた。

 ちょっかいを出した飼い主の、からかいぎみの笑い声が響く。


 その掛け布団は、ぴったりと閉ざされていた。

 飼い主はそっと布団の隙間をうかがう。猫は息をしていたが、目を開けることはなかった。乾いた毛並みが、ゆっくりと上下に動いている。

「大好きだよ」

 遺言のように、その声は何度も隙間に降りそそぐ。


第29話「29 地下一階」

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