29 地下一階
祈りのかたちに握りしめた指の間から、仄青い光が漏れていた。光は暗闇を放射状に照らしている。
胎児のように丸まった体が、ほどけるように伸ばされていく。やがてぽつんと独り、暗闇の中に立った。
鍵は行く道を示すように、ふるえながら輝いている。
ずいぶん長い間立ち尽くしていた体が、小さく一歩を踏み出した。
足音はせず、影もなく、自分が前に進んでいるのか後ろに進んでいるのか、上を向いているのか下を向いているのか、判然としない。ただ仄青い光だけをよるべに、進むべきと思う方向へ、足を動かす。
刹那、鍵がするりととけた。
光は失せ、闇が満ちる。
ここは地下一階、黄泉比良坂に似た、永遠の別れを交わす場所。
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