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もっとも孤独を感じるとき。|キューバ56日ひとり旅 #4

キューバに来て1週間が経った。半袖短パン&サンダルから顔をのぞかせている部分はすっかり丸焦げになり、額からはポロポロと死んだ皮膚が落ちてきている。

夜そんなに暑くない日でも、日焼けのひどい箇所がカイロのように身体を熱するので、冷房が欠かせない。今宿泊しているカサ(キューバ式の民泊)は、石造りで窓が少なく風の通りもあまりよくない。

隣は飲食店で、大きな換気扇がこちら側を向いている。日中その風は来る。しかし、それに群がるのはハエだ。そのため窓を開けると、網戸なんてないため、ハエさんウェルカム状態となってしまう。窓を開ける選択肢はない。

連日冷房をきかせすぎたせいか、いまは少し喉が痛く、咳や痰も出ている。今夜からはマスクをして寝よう。

風の問題を除けば、あとはたいへん満足している。カサは、スペイン語で「家」を意味する。その名の通り、キューバの個人が家の一部を旅行者に提供する仕組みだ。

私がコヒマルという地で現在お世話になっているのは「Room Barcelo」というカサ。3人の家族が住む家の裏にある、小さな離れに泊まっている。家を出て30秒ほどで海がある静かなところで、毎日泳ぎに行ったり、釣り人たちの脇でぼーっとしたりしている。

ホストは、ママとその娘・ヤナイ、そしてヤナイの夫・ミゲル。ミゲルは英語がかなり話せるので、基本的にミゲルを通じてコミュニケーションをとる。

ミゲルはものづくりが大好きで、朝から晩まで何かをつくったり、家具や車の部品を修理したりしている。「どうしてもできないものはお金を払ってプロに頼むけど、自分でやるのが好きなんだ。一日の終わりに、『これを成し遂げた』っていうのがあるのは最高だよ」。

外でフラフラしきって帰ってくると、ミゲルは「ユードー!」と声を駆けてくれ、いっしょに吸おうぜとタバコを2本取り出す。普段はまったく吸わないが、こういう誘いは嬉しいので毎度受け取り、ミゲルが差し出すチャッカマンの火で燻らし始める。時々セットで出してくれる、ちょっと甘めにしたキューバの珈琲をすすりながら吸うと、この国の風に溶けた心地になる。(けれど、今日は喉の調子が良くないから断ろう……)

昨晩は帰ってくると、ミゲルではなく、テラスで談笑しているママとヤナイが声をかけてくれた。ユート(ミゲルだけが“ド”と

濁る笑)もおしゃべりしましょうと促してくれたので、椅子に座る。二人が何を話しているのかはほとんど分からないけれど、ヤナイがほんの少しだけ英語を話せるので、それを頼りにしたり、あとは自分が知っているスペイン語の単語から想像したりして、会話を楽しんだ。

部屋に戻って、夕飯を食べに外へ行こうかと準備していると、今度はミゲルが「ユードー、うちでごはん食べない?今からママやヤナイと夕飯をつくるから、食べようよ」と誘ってくれた。まさかのオファーに心が踊り、「もちろん、ありがとう!」と答えた。

3人が食卓に出してくれたのは、マッシュポテト、アボカドのサラダ、焼きバナナ、そして、カジキのフライ。豪勢とは決して言えないものの、どれも箸が止まらないごちそうだった。ひとくちひとくち、しあわせを噛みしめていたが、これはどうやら料理のおいしさだけが理由ではない。

よくよく考えると、キューバに来て1週間、食事は常に一人きりだった。前の宿にいたとき、同じドミトリーのメキシコ人が切ってくれたマンゴーをオーストラリア人とともにつまむことはあったものの、ちゃんとした食事を誰かといっしょに取ることはなかった。

「おいしいなあ」と思って顔をあげると、そこにも「おいしいねえ」と感じている顔がある。しかも、3人は家族だから、自然なぬくもりがそこにはある。自分も家族の一員に加わったような愛を感じる。

ああ、これがしあわせなんだな。と、ヤナイがマッシュポテトのおかわりを盛ってくれているときに気づいた。そして、一人の食事の時がいちばん孤独を感じているということにも。

まだまだ旅はこれからだけど、この1週間でいちばんおいしかったものは、ママとヤナイとミゲルといっしょに食べた晩ごはんです。


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