【ゆのたび。】 07:稚内温泉 童夢 ~日本最北の温泉で、汗と寒さを吹き飛ばす!~
稚内は日本最北の街である。
そのため、数多くの『最北』がこの地には存在している。
もっとも有名なのは北方領土を除いた場所で日本最北である北緯45度31分の地、宗谷岬。
旅人で稚内を訪れたなら、おそらくほとんどがこの地を踏むだろう。
また、街中を見ても数々の『最北』がある。
例えばノシャップ岬にある『ノシャップ寒流水族館』は日本最北端の水族館だし、日本最北端の土産屋やお宿も稚内にある。
イベントなども、例えばマラソンなど、たくさんの『最北』がある。
当たり前だが、稚内にあるものは大概が『最北』になるのである。
そして温泉も、日本最北の湯が稚内にあるのだ。
日本で最も北にある温泉
市街地から車を走らせてぐるりと稚内半島を回ったところに、その湯はある。
『稚内温泉 童夢』だ。
最北の湯を堪能するために稚内を訪れた私は、海沿いの道を冬の強風にあおられながら走って温泉へと到着した。
稚内の市街地には『ヤムワッカナイ温泉 港のゆ』という別の温泉施設があり、ともすればこちらが最北の温泉に勘違いしそうになる。
しかし立地的には『稚内温泉 童夢』が最北の温泉となっている。
当温泉のホームページにもそう謳っているのだからそう信じよう。
なんとなく宗谷岬側に最北の温泉がありそうな気でいたのだが、調べた感じでは温泉は見つけられなかった。
ちなみに私はこれまでで一応、日本最北の湯と日本最東の湯に入ったことになる。
北海道の中で最も東西南北の端にある湯を調べると、自動的に北と東は日本最北端と日本最東端になるわけだ。
日本最東端の湯は、以前に訪れた根室半島にある『舞の湯』である。
もっとも、舞の湯は温泉ではなく銭湯なのだが。最東端の温泉となると、また別にある。
しかも、施設のある温泉と施設のない温泉、いわゆる野湯とで区別すればまた、最〇端の湯というのも変わってくると思う。
温泉は建物の2階だ。
階段に誇らしそうに書かれた『最北の温泉』の文字を見上げる。
今、自分が本当に最北にいるんだなとその文字を見て改めて実感する。
ちょっとした達成感と満足感を抱きながら階段を上った。
2階は天井の高い広い空間で、奥には休憩スペースがある。
時間帯の関係か、人数が少なくてより開放感がある。
湯を堪能した後にはゆっくりと利用させてもらおう。
まるで船内のような空間で湯に浸かる
外は海からの雪交じりの風が非常に寒い。
服をしっかり着ていても、手袋の隙間から手には寒さが入り込んでくるし、むき出しの顔はどうしても寒さが沁みる。
冷えた末端を早く温めたい。早く最北の温泉に浸からせてもらおう。
大きな窓で明るい浴室空間には形の違う浴槽がいくつもある。
打たせ湯やジャグジー、寝湯など11種類の湯があり、自分の好みに合わせて楽しむことができる。
特に窓際には半月型の大きな浴槽があり、そこに温泉がたっぷりと貯められているので、両手足広げて悠々と湯に浸かることができる。
もちろん露天風呂もあるので、「露天風呂がないなら風呂に行く価値がないな」と考えてしまうわがままな温泉好きも満足ポイントだ。
『稚内温泉 童夢』の温泉の泉質は、『ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉(弱アルカリ性低張性温泉)』である。
海沿いの温泉で定番のしょっぱい系温泉だ。
お湯の温度はそこまで熱くない。これなら年配の人も気安く入ることができるだろう。
ちらりと耳にした噂では、稚内市の市街地にある温泉『ヤムワッカナイ温泉 港のゆ』はどちらかというと若者が行く温泉で、一方で『稚内温泉 童夢』は年配の人が通う温泉、というイメージがあるらしい。
そういわれると周りにポツポツいるほかの客の年齢層は結構高めな気がする……まあ、たまたまかもしれないけれど。
さて、では満を持して露天風呂に行こう。
無いなら仕方がないけれど、あるというなら入らねばなるまい。
外の気温がたとえ、マイナスであったとしても。
露天へと続くドアは北国仕様の2枚ドアだ。外からの冷たい外気がドアを開けたときに入り込んでこないようにするためだ。
外に出ると、全身に突き刺さるような冷たさ吹き付けてくる。初めは火照った体にその冷たさが外気浴のような心地よさがある。
が、それもつかの間に骨の芯から冷え込んでくるような寒さが指先から腕、足先から太ももへと一気にせりあがってくる。
震え出す体にたまらず、私は湯船へと飛び込んだ。寒い外気にさらされてか、湯の温度は内風呂のそれよりも少しぬるい。が、それが冷えた体にはむしろちょうどいい。
肩まで沈んで、安堵の吐息を漏らす。はぁ、湯の中が極楽だ。落ち着いて外の景色を眺める余裕もない。
どうやらここは夕暮れ時に来ると、海に沈む夕日がとてもきれいらしい。知っていたらそのくらいの時間帯に訪れていたのだが、少々もったいない。
まあ、今日の天気的にもよい景色ではないので見られなくても構わないのだが。
空は濁った空に覆われ、海は雲の色を映して暗い色をしている。吹く風が濡れた髪を冷え込ませ、ともすれば凍り付いて頭が針山になりそうだ。
しかし、体を湯の中にずっと沈めていると、やがて体は火照ってくる。そうなると湯から出たくなり、寒いと分かりながらも外気に体をさらす。
熱い体に、海からの冷風が心地よい! この温度差がいい――と、楽しんでいられるのも一瞬のこと、あっという間に体は冷えて寒さが骨身に染みてくる!
そして再び湯の中に逃げ込む。ああ、暖かさが今度は幸せだ。
この繰り返しは無限にできてしまいそうだ。そんな感じで、私は何度も露天風呂に出入りした。
そしてしっかり、湯疲れをしたのである。
最北の温泉の入湯証明書を記念にもらう
最初の方にも書いたが、この温泉は最北の温泉だ。
最も○○な場所にある何か、というのは人には非常に魅力的に見えるもので、そういうところを訪れた人はそこに訪れた証を欲しくなるものだ。
写真でもいい。でもそれ以外に何か形とできるものがあるならなお嬉しい。
なので、その辺の需要をしっかりと理解しているのか、この温泉では最北の湯に入ったことを証明する品を用意してくれている。
それが、休憩スペースの脇に置かれた自動販売機の中にある。
温泉施設にはたいていある土産物の販売スペースで売られていると予想をしていたので、少々ラフな陳列にちょっと拍子抜けだ。
まずは定番の温泉タオル。輪ゴムで留められた形のタオルが自動販売機から転がり出てくる。
タオルの質としては大したことないのは分かっているけれど、生地にプリントされたロゴのために私はお金を払ってしまうのだ。
カードサイズの入湯証明書なるグッズも並べられている。
持ち運びも困らないし、いかにも記念品っぽい見た目で手に入れたくなる気持ちにさせてくる。
デザインも2種類あって、好みで選ぶことができる。
私は当然、両方とももらいました。
記念品も手に入れられて、私はホクホク、満足である。
地元民が多く利用する街はずれの温泉施設なこの温泉ではあるけれど、『最北』というブランドは、旅人である我々にいいようのない付加価値をもたらす。
旅人たちが最北を求め、稚内の地を訪れることは決して止みはしない。
そして『端』を目指す人々が、その旅程に疲れた体を癒そうとこの温泉を訪れることもまた、止みそうにない。
地元の者も、遠方の者も等しく温泉は招き入れてくれる。
どうか私が再び訪れたときにも、その熱めの湯を変わらず湧かして待っていてほしい。
そのときは海に沈む夕日を湯船から眺めたいものだ。
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