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読書感想文コンクールでの選書方法

 6月になると、まるで読書感想文コンクールが足並みをそろえるかのように募集要項を順次発表します。そして7月に入ると、夏休みを目の前に「読書感想文、何の本で書こうか?」と子どもたちが悩み始めます。

 読書感想文コンクールによって、課題図書部門と自由図書部門両方を設けているコンクールもあれば、図書は自由、あるいは課題図書のみというコンクールもあります。そして課題図書も、1冊をピンポイントで指定しているコンクールもあれば、「てのひら文庫賞」読書感想文コンクールのように各学年18冊の中から選択できるコンクールもあります。青少年読書感想文全国コンクールの場合は、子どもの発達段階に合わせ各部ごとに4冊が課題図書として選定され、その配分もフィクション、ノンフィクションがバランスよく選出されています。

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 応募するコンクールが課題図書部門、自由図書部門の両方が設置されている場合、まずはどちらでエントリーするかを決めることからスタートです。コンクールによっては両部門どちらもエントリーすることができますが、<各部、一人1編ずつ>と条件があります。どちらの部門で応募するのかよりも、「お子さまが何に興味をもっているのか」、「お子さま自身がどの本を読みたいのか」が何より大切なのですが、もし応募部門に迷われたとき、受賞を狙いたい時には次のような考え方もできます。

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 平成30年度の大阪府読書感想文コンクール入賞数および審査対象数を見ると、課題図書部門と比べ自由図書部門の応募点数が極めて大きいことが分かります。小学生各部の平均値で比べると、自由図書応募点数(91,008編)は、課題図書応募点数(24,362編)の約3.7倍という結果になります。応募の先に学校代表、都道府県コンクールでの受賞を狙うのであれば、課題図書の方がライバルが少なく受賞確率が高いと言えます。ただし、全国コンクール上位入賞者は、課題図書、自由図書の比率はほぼ半々なので、この考え方は都道府県コンクールまでであることをご理解ください。

 そして課題図書と自由図書、それぞれにメリット・デメリットがあることから、どちらが良いのかは一概に言うことはできません。

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◆課題図書のメリット・デメリット

 課題図書は言うまでもなく選書が簡単で、お子さまの発達段階に見合った良書と出会えます。私はお子さまのオリジナリティを失うような年度ごとの課題図書に合わせた記入例を収めた参考書やネット情報はお勧めしませんが、そういったものも豊富です。ですが、その年度の課題図書の中にお子さま自身が「その本を読みたい」「これで読書感想文を書きたい」と思えるような図書があるとは限りません。また、他の応募者も同一の本をもとに感想文を書いているため、他の応募者と同じようなことを書いていてはどうしても作品は埋もれてしまいます。例えば、平成30年度の大阪府読書感想文コンクール入賞数および審査対象数のデータを見ると、小学生中学年の部の課題図書応募者は8,491名で、仮に各課題図書も均等だったとすると2,123点のなかで極めて輝くオリジナリティを発揮しなければ特選に選ばれることはありません

◆自由図書のメリット・デメリット

 一方、自由図書はどうでしょう?自由図書の良さは、何と言ってもお子さま自身が関心に応じて読みたい本を選べることです。ですが選書の際に、質量ともに自分の発達段階(学年)に適切かを判断することが難しいです。さらには、『走れメロス』『銀河鉄道の夜』『坊っちゃん』など名著、伝記、過去の課題図書は、前例が多く、審査員の評価基準は必然的に高くなり、過去の受賞作品以上のレベルが求められると予想されます。もし自由図書に悩んだ場合は、下記の青少年読書感想文全国コンクールが定める課題図書選定基準を参照すると良いでしょう。

◆青少年読書感想文全国コンクール課題図書選定基準

・内容に関する事項
(1) 児童生徒の発達段階に適合しており、楽しい読書体験が得られるものであるか。
(2) 現代の児童生徒の思考や心情に適合し、多くの児童生徒に興味や関心を持たせることができるものであるか。
(3) 児童生徒に深い感動や新たな認識をあたえ、豊かな心の成長が図れるものであるか。
(4) 内容や主題に独創性があるか。またその取り扱いは、時流に迎合的であったり、興味本位のものになっていないか。
(5) 正義と真実を愛する精神に支えられ、人権尊重の精神が貫かれているか。
(6) 特に、ノンフィクションについては、事実の叙述が科学的に正確で、かつ主題の取り扱い方が新鮮で、創意や工夫がみられるか。

・出版に関する事項
(1) コンクール実施の前年1月1日から、12月末日までに刊行されていること。
(2) 市販されており、通常の方法で入手可能なものであること。
(3) 増刷が可能なものであること。

・図書群の全体および各部の構成に関する事項
(1) 総点数は、18点であること。
(2) 各部ごとの難易度が考慮され、均衡が図られていること。
(3) 各部ごとに、フィクションとノンフィクションの配分が適切であること。

【選定の対象としない図書】 
(1) いわゆる「古典・名作」およびそれに類するもの。
(2) 1冊に複数の著作を収めたもの。
(3) 選定対象期間以前に刊行されたものの新装本・再刊本。
(4) 事典・年鑑・図鑑等の参考図書。
(5) 高価な図書。

 以上の課題図書選定基準から、読書感想文コンクールの課題図書を選定するにあたり、主催者側はたくさんの人時をかけてコンクール開催に至っていることを汲み取ることができます。そして私たちが自由図書を選ぶ場合にも、【選定の対象としない図書】 を含め課題図書選定基準の視点を持って選書すると良いでしょう。

 それから、全国学校図書館協議会では、学校図書館および子どもの読書の振興を図るため、図書の選定事業を行っています。その結果に基づき各種図書目録を刊行し、小学校の低・中・高、中学校、高等学校の各発達段階に沿って推薦図書が紹介されています。毎年6月には、全国学校図書館協議会のホームページ、機関紙『学校図書館速報版』にて夏休みに向けた推薦図書も紹介されますので参考にしてください。

◆親子で選書することの大切さ

 募集要項と共に公表する「課題図書 書影・改題付き一覧」(あらすじなど)は、お子さまが学習していない漢字も多く使われています。そして低学年になればなるほど本人だけでは選書できないことも多く、保護者が本人の思考や性格に見合った図書を一緒に選ぶことが必要な場合もあります。特に自由図書にするのであれば、お子さまの学年に見合った質量をお子さま自身で判断することは難しいですから、大人が推薦したり候補を絞る作業をサポートし、最終的には本人の意志で選書することが大切です。

 もし読書感想文に不慣れで選書に迷った場合には、登場人物の成長が表現されているストーリーを選ぶと、登場人物と自身とを照らし合わせて書くことができるので書き進めやすいです。また、書店では帯や販促物を、インターネットショッピングではあらすじ紹介やカスタマーレビューも参考にして選ぶと良いでしょう。

 そして選書をする際には、お子さまが持つ得意分野(昆虫、電車、歴史、ラグビーなど)、自身の生活環境(家庭、学校、習い事など)、体験(福祉体験教室、ボランティア、海外旅行)、夢・目標などを織り交ぜて、オリジナリティを追求することのできる図書を見つけることがポイントです。各審査段階で他の作品に埋もれないオリジナリティを、親子で考え、時に引き出し、表現していきましょう。

 最後に、読書感想文が夏休みの宿題ではなく任意であった場合、選書の前に<コンクールの説明><本人の意思確認>を欠かいてはいけません。読書感想文を書くという作業には、たいへんパワーを要します。本人の自主的な取り組みがなければ立ち往生してばかりで本人は自己嫌悪に陥り、親もまたついついイライラしてしまうものです。読書感想文は、本人の意志があって初めて挑戦でき、さらには本人が納得して選書することで継続的に取り組むことができるのです。

 次回は、<上位入賞作品や上位入賞者の特徴>について見てみましょう。


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