【3.11から10年】立ち直れないのは弱さじゃない
東日本大震災、3.11から10年が経つ。テレビ各局でも連日、特集が組まれていて、どうしてもあの日を思い出さざるを得ない。物心ついていた人であれば、あの日あの時、自分がどこにいて何をしていたか、明瞭に覚えている人も多かろう。
10年前、NHKに入局して1年目だった私は、4月に控える統一地方選の取材中で、兵庫県の三木市というところで立候補予定者の取材をしていた。地震の揺れは全く感じなかったが、震度7、M9という聞いたことのない規模の地震や、津波警報を報じるTVを見て、空恐ろしい気持ちになったことを思い出す。(まさか、東北の町々が壊滅し、さらに原発事故まで起ころうとは思ってもいなかったが)
直後に神戸放送局の副部長から着信があり、大阪→八王子を経て東北へ向かい、翌3/12には仙台入りして取材を始めたのだが、取材のことは別稿に譲るとして、最近のNHKの放送で見た、息子を亡くしたご夫婦の言葉を取り上げておきたい。
宮城県登米市に住む佐藤さんというご夫妻。3.11当時、沿岸部に住んでいた夫妻は、当時高校生の息子、久佳さんが津波で行方不明になり、未だに見つかっていない。番組では、久佳さんのピアノの先生を務めていた女性が自宅にやってきて、思い出を語るシーンがあった。女性は、久佳さんと心を通わせ、本当に辛いようで、思い出を語りながら「もう一度会いたい」と号泣する。妻は女性に語りかける。「ずっと一緒にめそめそしよう」と。ご主人も応じる。「そうだな、そのほうがかえって久佳のためになるかもしれない」と。
事故や災害、事件で愛する人を亡くした人に、人はなんと声をかければ良いのだろう。「前を向こう」「時間が忘れさせてくれる」・・・。いずれも、精一杯の優しい言葉だと思う。そこには、悪意の欠片もない。そして、死んでしまった人がもう2度と戻って来ないことは、途轍もなく哀しいことだが、厳然たる事実なのだ。いつまでも後ろ向きに生きるより、前を向こう。それが、正解の1つなのかもしれない。2018年に、最愛の祖父を癌で亡くした私も、前を向くことが正しいと思っていた。
しかしー。佐藤さんの妻の言葉は、私の心に不思議な感覚と共に染み込んでいった。「ずっとめそめそしよう」。ともすれば後ろ向きに聞こえる言葉かもしれないが、この優しさはなんだろう。悲しみによりそい、悲しみを分かち合い、悲しみを悲しみとして自分の近くに置いたまま生き続けるという決意を含んでいないか。喪失感は、そう簡単に癒すことはできない。人間は感情の生き物だ。涙は、心の、魂の叫びなんだ。祖父との別れ。愛する人との別れ。そうした時、私は泣いた。泣き喚いた。一生、めそめそする。それも、生き方なんだ。その人が自分にとってどれだけ大切な人だったか。めそめその継続は、それを示すパラメーターなのかもしれない。
3月11日がやってくる。もう年を取ることはない、泉下の人の写真。笑顔の写真。ぬくもりの溢れる写真を抱いて、みんなでめそめそしよう。
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