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佳境


梅雨は、湿っぽく、気分までもが気怠くなる。でも、こんな季節が好きだ。
俺はあやかちゃんというある女性を待っていた。無論、出会い系で知り合った女だ。然し、1時間経っても来ない。俺が着いた頃にライブ準備をしていたストリートミュージシャンが、片付けを始めている。暇すぎて彼のCDを贖おうと思っていた。そう、ここは新宿駅東口。幾作か前に書いたハンバーガー醜女と集合したことを思い出し、なんだか感慨深くなる。また騙されるのか〜とショボくれていると、ラインにあやかちゃんから通知が入っていた。「ちょっと待ってー!トイレが行列なってるのー!」安堵し彼女の用足しを待つこと30分。俺も小便をしたくなってきた。「お待たせー!」と手を振って小走りで駆けてくる。(ウム、なかなか可愛い。)
「ごめんね〜!待った?」
「おせーよ。」
「ごめんごめん。」と笑いながらも謝っている。どうやら反省の色が見えない。2時間待ったと言うのにも関わらず。
「サイゼリアに行きたいんだけど。」
「おー、サイゼね!いいよ!」
この女、ノリはいい。しかしだ。
なんだか気まずい感じ。でたでた。小生はお見通しですよ。二度目はないか、バックレるパターンですよね。全てわかっています。
意外と近かった。徒歩5分くらいで着いた。これなら俺が先に飯食ってても良かったじゃん、と憤懣やるかたなく、彼女の後をついて行く。
「酒飲もうよ。」
「いや酒飲めない。」
「ノリ悪いなあ〜なんだよー!」
「仕方ないじゃん。」
とりあえず、ピザやパスタを頼む。ワインをがぶ飲みしたかったが抑えて、ソフトドリンクを注文。
「なんの仕事してるの?」
「私はね〜株。」
「俺はワインをがぶ飲みしたいのに、株やってんのね。おもしろいの?」
「うーん、ビミョーかな。」
「なんで微妙な仕事やってるの?おもしろい仕事やったほうが良くない?」
「そんなこと言われても...」
閉口してしまった。
ここでタイミングよくピザが運ばれる。手際良く切ってあげ、二人で摘む。
「そういえばあやかちゃんってスタイルいいよね。」
さり気なく、褒める。恋愛まとめサイトに書いてあった。
「いやいや〜!」
照れ笑いで可愛く首を横に振る。
「何かやってるの?運動とか。」
「やってないよー。ジムとか行こうと思ってる!」
「おぉいいね。俺いつもジムいってるよ。今度一緒に行こうよ。」
「いいよー!」
共通点を見つけて、次に会う口実をつくる。これも恋愛まとめサイトに書いてあった。読者諸賢は、既にお気づきかと思うが、出会いを重ねるにつれて、学習しているのだ。闇雲にデートしているわけではなく、恋愛サイトなどを読み漁り網羅した。
「ジムで鍛えたら、今よりもっといい体になるよ!すげースタイル良くなる!」
「は?」
あからさまに不満げな顔をしている
「どうしたの?」と憤怒寸前の彼女に聞いてみる。
「今のままじゃダメっていうの?」
「いやいや!そんなことないよ!今もスタイルいいよ!」
「でも、さっき『今よりもっといい体になれるよ!』って言ったじゃん。」
「まぁそうだけど。でも、正直ね。今の君、すげースタイル悪いよ。俺以外の男に会ったら、そんなんじゃ鼻で笑われるね。」
サイゼリアで怒り狂ってる女ってあんま見ないよな。と怖いもの見たさに、煽ってみた。
「ふざけるなよ!」と間髪入れずに怒号が飛んできた。
「まぁまぁ、あやかちゃん。落ち着いてさ。怒ってる女の子は、醜いよ。」
「あんたがそうしたんだろ!」
「とりあえずさ。酒でも飲もうよ。サイゼリアは、ワインが安いらしいぜ。」
「飲めねえって言ってんだろ!人の話聞いてんのか!」
メニューを見ていたら、彼女はいなくなっていた。
行きつけの店に入店し、潰走していた俺を抱擁してくれたのは、ニューハーフである。相変わらず可愛いなぁ...

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