マガジンのカバー画像

鑑賞

133
運営しているクリエイター

記事一覧

「レイヤー」(生駒大祐『ねじまわし』3号を読む)

「レイヤー」(生駒大祐『ねじまわし』3号を読む)

『ねじまわし』3号の対談を読んでいると俳人は、もっといえば文芸人という生き物は人間という素体に膨大な数のレイヤーを積層したものなのだということがよく分かる。生駒大祐、大塚凱、阪西敦子、依光陽子。言わずと知れた現代俳句界のトップランナー達だ。今号は彼らに思考実験的な複数のテーマで作句や鑑真、コメントをさせ、作句プロセスを疑似体験できる(ホンマかいな)意欲的な企画であった。おっちゃん、振り落とされそう

もっとみる
審美のありか (「5・7・5作品集 Picnic No.4」を読む)  叶裕

審美のありか (「5・7・5作品集 Picnic No.4」を読む) 叶裕

「ああ、もう4冊目か。早いな。」思わず口にしてしまう。コロナ禍に途方に暮れていても巡り来る季のように彼らは新たな作品を形にしてぼくらに問うて来たのだ。「5・7・5作品集 Picnic No.4」。リング製版されたスクエアな判型はセンスの良い文房具を思わせ、どこにでも持ち歩いてどのページでも留まりやすく肩肘張らぬ優れた作りとなっている事にまず好感する。「それぞれが持っているちょっとしたものを持ち寄る

もっとみる
「what's going on」(『What's』創刊にあたって)  叶裕

「what's going on」(『What's』創刊にあたって) 叶裕

前から思っていた
何となく感じてた
柳人は素数なんだ
割り切れなくって
やわらかくも見え
実は角張っていて
簡単にほどけない
曲者のような存在
俳句を作る僕から
一番遠い存在だと
思っていたけれど
案外ちかくにいて
にこにこしながら
グサリと刺される
そんな存在なんだ
マーヴィンゲイの
名曲の一部を貰う
句誌の名を僕らは
きっとはぐくもう
柳人と俳人の界は
このWhat'sという
新天地においては

もっとみる
「航海図」
(「船団」増刊号「船団1982〜2020 作品特集・コロナの日々」を読む)   叶裕

「航海図」 (「船団」増刊号「船団1982〜2020 作品特集・コロナの日々」を読む) 叶裕

疲労に眠れぬまま「船団 増刊号」を開き、改めて「船団」の意味を噛み締めている。
誌上三宅やよい氏の書くように本年船団は小舟として分散した。元来船団は様々な船の集まりであり、身過ぎ世過ぎを励まし合い、刺激し合いながら航するための集団だ。高速船もいれば手漕ぎ舟も居る。医療船もあれば競技艇もいるだろう。多彩な個性をまとめあげていた壺内稔典氏の存在の大きさに改めて思い至る。
予定されての解散とはいえ、先の

もっとみる
俳誌「霏霏 Ⅱ」創刊号

俳誌「霏霏 Ⅱ」創刊号

熊本在住の俳人、中山宙虫さんから「霏霏Ⅱ(NEXT)」創刊号をご恵贈賜った。「麦」同人で独自の軽みのある口語俳句を使いこなす宙虫さんの地元熊本の俳誌だ。記憶にも新しい2016年の「熊本地震」は彼の地とそこに住む人々に大きな変化をもたらした。そして昨今のコロナ禍。下を向きがちな中、百号を越えた前「霏霏」をリニューアルして新たなる一方を踏み出した事に肥後俳人の意気地を見た気のする一冊である。
「霏霏(

もっとみる
後藤信幸全句集「葛の空」

後藤信幸全句集「葛の空」

ジャコテを日本に紹介したフランス文学者、故後藤信幸氏の全句集「葛の空」が邑書林より出版され私、加納裕の写真「孤独の果実」を表紙に使っていただくという光栄に浴する事となりました。興味ある方は邑書林(http://youshorinshop.com)にお問い合わせください。
奥様のリラ子様、邑書林の島田牙城さん、黄土眠兎さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。

「枷ある時代」詩客俳句時評を書きました。

「詩客」俳句時評が更新されております。
今回はわたくし叶裕が担当しました。

熊野新宮に生まれ父平松竈馬の元俳句をはじめ京大俳句会、野風呂の「京鹿子」そしてホトトギスの巻頭作家にまでになった平松小いとゞ。当時俳句界は何名もの綺羅星のような才能を擁していました。しかし戦争は当時の学生俳人の運命を容赦なく大きく変えてしまいます。拙いものですが、戦歿学生俳人に向けて書いたものです。宜しかったら御笑覧下さ

もっとみる
諏訪薫 上田恭子二人展「ふたりのFUN」

諏訪薫 上田恭子二人展「ふたりのFUN」

俳友のアクセサリーアーティスト諏訪薫さんとテキスタイルデザイナー上田恭子さんの二人展「ふたつのFUN」に行ってきました。今回は「サーカス」をテーマにしたコラボレーションで、アクリルの性質を知悉し様々な風を思わせる柔らかさを具現化する諏訪さんの作風に淡淡としながらしっかりとした視点を感じる上田さんの作品が見事に共鳴して一段と見応えのある作品となっています。
テーマであるサーカス。ぼくは長らくその存在

もっとみる
「あはれのありか」(菊池洋勝句集『聖樹』を読む)

「あはれのありか」(菊池洋勝句集『聖樹』を読む)

呼吸器と同じコンセントに聖樹 菊池洋勝

作者の生命線である医療機器の電源を分けるクリスマスツリー。赤や青をした安物の電飾は規則的な呼吸音と時たま同調しながら瞬いている。たった一つのコンセントが生殺与奪の権を持つという生活はどれ程辛いものであろう。寂寥、焦燥、諦観、不撓。掲句には病床を定めとされた一人の男の万感が込められた作者畢生の名句だ。口誦性に富み、ウエットに傾かず乾いた美しさのある掲句は菊池

もっとみる

詩客に俳句作品が載りました。

http://shiika.sakura.ne.jp/works/haiku-works/2021-03-13-21459.html

多忙にかまけて告知が遅れましたが「詩客」俳句サイトにてわたくし叶裕の俳句連作「夜の目玉」が掲載されております。詩客に携わって数年になりますが、初めて俳句作品が載る事になりました。よろしかったら御笑覧下さいませ。ありがとうございました。

里俳句会・塵風・屍派  叶

もっとみる
『運河』四月号に寄稿させていただきました。

『運河』四月号に寄稿させていただきました。

『運河』四月号に拙文「枷ある時代ー谷口智行編『平松小いとゞ全集』を読む」を寄稿させて戴きました。

角川短歌四月号を買ったのだ。

角川短歌四月号を買ったのだ。

『角川短歌』四月号に短歌を通じ知己を得た堀井惠子さんの作品十二首「大きく拡がる富士がある」が掲載されております。このコロナ禍の不安の中、ネットを介し繋がる世界中の人々とのリレーションや温泉で見る富士山の雄姿に勇気付けられてゆく作者の姿が力みの無い口語体で綴られています。

また堀田季何さんの学生時代を振り返るエッセイは堀田さんの文芸への道のりの端緒が垣間見える良文でした。

そして難波一義さんの「

もっとみる

肉体言語

森下洋子が舞台上で「バレエとは爪の先にまで神経を研ぎ澄ます究極の肉体言語である」と言い放った事を昨日の事のように覚えている。百歳を越えてアルツハイマーに自我を溶かした舞踏家大野一雄はオートマティズムを肉体で表現していたように見えた。土方巽の係累を自認する田中泯の長いドキュメンタリーにも土を主体とした肉体の言語化を日々自問する田中の息吹、手触りがそこにあった。格闘家やボディビルダーではだめなんだ。舞

もっとみる
瑞々しい終幕(『杜Ⅱ 杜人同人合同句集』を読む)

瑞々しい終幕(『杜Ⅱ 杜人同人合同句集』を読む)

コロナ禍に振り回され通しの二年が過ぎた。
その間、多くの人間は逼塞し、ある者は俯き、ある者は為政者に罵詈雑言を浴びせ、ある者は自棄となり、ある者は淡々と時を費やしてきた。世界的な病禍である。仕方ない事とはいえこんな経験は二度としたくないものだ。

そんな時、仙台の柳人、広瀬ちえみさんから一冊の句集をご恵送いただいた。『杜Ⅱ 杜人同人合同句集』。杜の都を思わせる深い緑の布張りの装丁は持てばここには揺

もっとみる