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「知財業界での夢と希望」      ~個々の弁理士が輝く時代の幕開けに~

今年、ドクガクさん:@benrishikoza が、弁理士の日記念ブログ企画2021で、これからの「知財業界での夢と希望」を語る企画をするということである。その企画者であるドクガクさんからお誘いをいただいた。

上記のページでどんな企画なのか確認すると知財業界での夢と希望を語るという前向きでとてもよい企画なのでその趣旨を読んで秒速で承諾した。文章を書くのは爆速(登録商標)ではなかったが、承諾は秒速であった。

さて、これまでも夢を持ち続けてきたが、僕にも更なる夢がある。ところで、夢について語るまえに、今年から時代の流れが変わっていることにお気付きであろうか。

実は、皆さん意識されているかどうか分からないが、西洋占術では2020年末に200年周期の大きな節目を迎え、新しい時代に入っている。具体的には、物の所有や安定、組織が重要視されていた「地」の時代から、「風」の時代に変わっているのある。「風」の時代の特徴は、情報・コミュニケーション、所有しない、そして個人の時代であるといわれる。

いま、2021年であるからちょうど新しい時代の幕開けなのであり、将来の日本や自分を考えるにはよい時期といえそうだ。ただ、「風」の時代は個人が活躍する時代であり、自由に赴くままに生きる時代であるから、ここで書いたことは万人に安定して通用するようなものとはならない。「地」の時代とは異なり、個々が自分独自の夢を持ってそれに邁進することができる時代なのだ。

僕が弁理士になったのは大儲けしたいからではない。バイオ専門の弁理士を目指した2010年前後は、バイオは求人がなく、2ちゃんねるという掲示板では弁理士業界は、まさに北斗の拳でいう「世紀末」のように思えた。不用意に入れば瞬殺である。この状況で大儲けできるぜベイベーとなるほど吹っ飛んでいない。むしろ、独法で終身雇用で絶対に職を失わない安心感を捨てて、苦しい人生になるかも知れないけど、賭してみようという感じ(本気)であった。

でも、僕の中には追い求めるべき夢があった。それは、日本発世界初のイノベーションを世界に羽ばたかせる支援をする専門家になるということ。我が国では、支援者は前例主義であり、新しいイノベーションの支援には必ずしも追いついていない。弁理士業も例外ではなく、保守的であるが故に適切な支援ができない場面も少なくないであろうし、新しいイノベーションの支援には、新しい支援が必要で、そのために「開拓」を続ける専門家が必要であろうと思った。また、仮にそのような専門家になれば、日本にとって貴重な人材となれるであろうとの期待があった。求人がなかった当時ではあったが、そうであるからこそ、自分のこれまでを価値のあるものにしたいと思ったし、日本に貢献をしたいと思っていた。それは今でも変わらない。

売上を上げるときに件数を増やすことをまず考えそうなものであるが、僕は件数は重要であるとは全く考えておらず、むしろ圧倒的に重要な1件を目指すことが重要であると思っている。例えば、iPS細胞の特許では、iPS細胞を製造する何百、何千の特許が短冊のように乱立しているが、実は、これらをすべてカバーする1件の特許が存在する。何百出そうとも、その影響は、1件の足元にも及ばない。これについては、弊著の「バイオ分野のスタートアップのための新しい特許戦略」(https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3166)でその戦略の詳細を解説している。

簡単に述べると、効果の高い発明(細胞を完全に初期化してiPS細胞を作る)というものよりも、効果の低い発明(細胞を少しだけ初期化できる方法)の方が権利範囲が圧倒的に広かったという事実であり、効果の高さと権利範囲の広さとが逆相関するという傾向である。高い効果を達成するには、アレもコレも組み合わせて成し遂げることとなるから、発明を「厳選」しなければならず、少ない発明しかハードルを超えられない。したがって、権利範囲は狭くなるのである。

保護範囲を広げるためには、効果の低い発明が有利であるという極めて自然なことが、バイオ分野では全く理解されていなかった。みな、凄い技術ができました。効果が高いから特許になる!と主張して特許を取っているが、そのことが狭い特許の量産に繋がってはいないかという問題提起を行った。

イノベーション保護は、単に研究成果を保護することではなく、具体的かつ明確な「戦略」や「指針」が必要なのである。その戦略を探究し、実践することは、弁理士の価値を決めるといっても過言ではないであろうと、そのように考えるに至った。探究だけではなく、実践的価値のあるものの抽出と実践が必要である。

現在では、件数至上主義を止めて、件数を犠牲にしても、如何に重要な特許を作れるかに重点を置いた支援をしている。件数をこなすために下らない特許明細書作成に人生を浪費したくはないし、できるなら、重要で取り組む価値の高いものを構築して、クライアントの経営資源を投入して欲しいし、そこに自分の人生を費やしたいと思う。

その方が、クライアントは喜ぶし、本気で開発と知財を推進してくれる。一方で、弁理士側にも実は大きなメリットがある。重要な案件が増えるにつれて、外国出願比率が高まり、1件の出願で、PCT出願、各国移行、各国の権利化と、仕事が広がっていく。これに対して、価値を高めずに大量出願をすると、国内だけになってしまうなどして、仕事も売上も限定的なものとなる。できあがった特許ポートフォリオはガタガタで使いにくいものになってしまう。このような状況では、クライアントも喜ぶということはない。自明のことではあるが、出願の目的は節約ではなく、重要な特許を得て競争優位性を確保することである。開発に巨額の費用を投じるのであるから、守りも鉄壁にし、不法侵入するコンペティターに対して攻撃もできるようにしたいのである。

ところで、所属事務所が組織としてそういう方針なのかというと、そうはなっていない。自分で、自分の動機に基づいて動き、考えてきた結果このようにしているだけであって、組織でどうするというような話ではない。個人でやっているので、他の人がどうしているかは知らないし、それぞれ自分で考えていまのやり方をしているのだから、巻き込む必要もない。大企業に対してはうるさがられる傾向があるし(決まったやり方を変えることは難しい)、適したクライアントにしか使えないから、自分のクライアントポートフォリオにもよる。その結果、他の人とは関係なく、109に森田商店を開店したような感じになっていて、個別に考えて未来を拓く、そんなやり方になっていた。そのようなやり方でスターになりたいと思った。

ただ、「風」の時代がきたと聞き、実はやっていることは時代の潮流を先取りしていたのかもしれないと感じた。もはや、組織vs組織での仕事のやり方では、個性はかき消され、コスト低減と件数減少の波にのまれて限界が来ているように思えるし、「地」の時代は終わってしまった。往々にして組織というのは個を殺す。個を殺せば、コスト低減の波に逆らえない。組織というのは安定の代わりに苦しみの共有なのかも知れない。安定と引き換えに苦しみを共有する時期が来て久しいし、打開の希望があるようにも見えない。

しかし、これからは「風」の時代。自由に発想して、自分自身の勝ち筋を作って、これでそれぞれが【価値のある弁理士】になっていくことが求められ、また、それができるようになったのであり、純粋によいものを追求することが、しっかりと利益として還元される正当な時代がやってきたというようにも思えるのである。きっと、今後は、そういうことを推奨する事務所は伸びていくだろうし、個性を殺す事務所は死に絶えていくと思う。

これまでの短い経験(しかし充実した濃厚なものであったと勝手に思っている)で、弁理士の価値は、出願明細書を書くだけではないと理解した。もちろん、弁理士である以上は、前提として、明細書は、かなり込み入ったものを書けるし、権利化もほぼほぼ狙い通りに上手く行くという状態を作る必要はある。「オペ」の精度がとても高まっているから「オペ」の戦略が生きることを忘れては行けない。しかし、明細書ドラフトや権利化の技工だけでは足りないので、僕の次は、戦略研究と実践の第一人者になるということである。

戦略研究に関しては、これまで外国のベンチャー企業の調査をしてきた。日本弁理士会バイオ・ライフサイエンス委員会の活動として、研究を推進し(部会長:森田裕)、その成果について「日本のバイオ・ライフサイエンス産業の国際的競争力の特許面からの調査,研究及び提言 〜諸外国のバイオベンチャー企業の事業戦略と知財戦略に関する興味深い成功事例〜」(https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3064)において公開した。

この報告書は、特許庁においても評価され、大規模でより系統的な調査に発展させ、その成果は令和元年度バイオベンチャー出願動向調査報告書(https://www.jpo.go.jp/resources/report/gidou-houkoku/tokkyo/document/index/bio_venture.pdf)として公開された。森田は、アドバイザリーとして調査に参画し、調査の方向性について様々な助言を行った。

益々、ベンチャー企業の事業戦略や特許戦略を分析することの重要性を確信し(何より得られる成果が面白かった)、2021年5月に、外国ベンチャー知財調査研究会を立ち上げた。早速、様々な専門家が研究会参加を名乗り出てくださり、ハンドリング可能な20名の委員会としてスタートすることとなった。

外国ベンチャー企業は、まさに1社1社が「風」であり、特別に工夫された事業戦略と知財戦略の宝庫である。これを研究会の形で、これまでの何倍もの体制で調査できるというのは、本当に恵まれていると思う。コロナ禍で「オンライン化」が進んだことが幸いして、日本各地からご参加いただける形ができた。発起人として、この研究会がどのように発展していくのか、そしてこの研究会がどのように社会に貢献できるかには、大いに注目をしていただきたいと思う。

組織-組織のつながりによる件数至上主義で疲れ果てた「地」の時代から脱却し、そして、品質を追い求めることができ、個々が活躍できる「風」の時代に向けて、我々は羽ばたいていける。そのために協力者を得ることもできる。自由に集まり、自由に議論して、次に進むことができる。これにより、個々が組織の枠を超えて交流し、能力を高め、羽ばたける時代が来ている。それは、知財業界も全く例外ではなく、むしろ、時代に先駆けて発展することさえできるのかもしれないし、そんな時代の幕開けに我々は生きている。

「風」の時代は、時代が求めるものを追い求めていくことが自由にできる時代である。業界全体を救うことはできないかも知れないけど、輝きを放つ個々の弁理士は、至極幸せに生きていける。個々の行動が個々の価値を高め、それにより十分以上の報酬を得られるであろうし、重要な仕事を多く担当し、充実した日々を送ることができる。高額でもクライアントは満足し、むしろ、ありがたいと賞賛されて、仕事が増える。これは、僕が思う弁理士の一つの目指したい姿である。

僕のもう一つの夢は、個々の弁理士が個別に輝けて、それを希望に満ちた若い人たちが追いかけ、追い越し、あるいは別の輝きを求めて、個別化し、知財業界全体が活性化することである。事務所の垣根を越えて、活躍する個々である。そうやって、知財業界全体が、産業界からの熱い支持と賞賛を受けることができるし、輝くものはより一層輝くに違いない。こうれにより、みんなが勝者になれる。

きっと事務所も全体的にそのようなものに変わっていくと思う。大企業の大量出願の時代(均質化の時代)が終わり、様々な異なるニーズに対応できる異なる能力が求められていると思う。人材の多様性が業界を支え、多様な価値観が認められ、個性が殺されることがなくなり、また、それが故に、自由な方向に伸びていくことができるし、それは新しい支援の形を生むであろうし、個々が自分の人生を送れるようになる。そして、支援のイノベーションが起こる。

個々それぞれが重視される世界では、個々が尊重される。テレワークもできるし、場合によっては外国で暮らすのだってよいと思う。キレイな海が見える家でテレワークして、マリンスポーツを楽しんで、キレイな浜辺をオープンカーで走って、Web会議の背景は、実際の海、なんてのも素敵かも知れない。

「風」の時代は、個々が個別に夢を持ち、独自に花開く時代である。弁理士が個別に輝いて若い人に希望を与えるところからはじめるのはどうだろう。

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