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Insurtechをもっと知りたい(上巻)

Insurtech領域での投資トレンドやスタートアップの類型をまとめる(予定の)記事第一弾です。グローバルなInsurtech投資額の推移について、直近の大型調達案件にも触れつつまとめました。

はじめに

はじめまして、山本と申します。GMO VenturePartnersというベンチャーキャピタルで海外Fintech投資をやっています。

GMO VenturePartnersとしてはこれまで特に個人法人向けレンディングや決済、また個人向けレンタルなどFintechとその周辺領域に対して、GMO Global Fintech Fund設立後の直近2年間の海外投資だけでも20件以上行ってきました。Fintechはその定義が広く曖昧ですが、そのなかでも複雑性が高く、ステークホルダーが多い、そしてマニュアルプロセスも多い保険業界に挑むInsurtechについてもどんどん視野を広げていきたいと考えています。そこで投資トレンドや類型について調べまして、せっかくなので記事としてまとめていきます。少しお付き合いいただけるとうれしいです。

Insurtechへの投資額の年次推移

FT PartnersのInsurtech Insightsによると、2019年は計248件・6.8B USDのInsurtech投資が行われています。また他のベンチャー投資の例に漏れずラウンドの大規模化が進んでおり、同年は50M USD以上のラウンドが占める割合が初めて10%を超えています。年次トレンドでみると、2015年ごろから本格的に資金流入が始まっていることがわかりますが、これはInsurtechの先駆けであるOscar(パーソナライズされた医療保険販売)やZenefits(中小企業向け人事・労務SaaS)がユニコーンとなった時期と重なっています。また中国ではアントフィナンシャル・テンセント・平安によるJVである衆安保険(ZhongAn)が同時期に1,000億円規模の超巨大資金調達を実施しています。

2020年第一四半期のInsurtech投資額

2020年第一四半期の資金調達については件数53件・金額859M USDといずれにおいてもやや鈍化がみられますが、M&Aは活発に行われています(ただし金額の大半はAonによるWillis Towers Watson買収により占められています)。COVID-19蔓延に伴う投資市場全体の冷え込みについてはまだそれほど反映されていませんが、3月後半の3週間で1月の数日分しか投資活動がない、という状況で目に見えてスローダウンしており、おそらく第二四半期以降は急激に件数・金額が縮小し、Insurtechの重要な戦略投資家である(再)保険会社のBSが痛み始めると、資金調達・M&Aともに更に大きな影響が出てくると思います。

2020年第一四半期の大型調達案件

2020年第一四半期にこの分野で50M USD以上の資金調達が5件ありましたが、そのうち4件がアメリカのスタートアップ、残る1件がインドのスタートアップとなっています。Insurtechと言ってもバラエティに富んでいるので、それぞれ簡単にご紹介します。

Policygenius

2014年にどちらもMcKinsey出身のJennifer FitzgeraldFrancois de Lameにより創業。オンラインの保険比較・マーケットプレイスで、創業当初からある生命保険に加えて自動車・住宅・医療・ペット保険など様々な保険商品を比較検討可能。KKRがリードして既存投資家のAXA Venture partnersやNorwest Venture Partners含めSeries Dで100M USDを調達しています。

unqork

2017年にMetlifeでCIOを務めたGary Hobermanにより創業。金融機関や不動産業界向けに、ドラッグアンドドロップでソフトウエアを開発できるいわゆる"no-code platform"を提供しており、保険業界では、契約書の自動生成や契約管理システムの開発・更改などに役立てられています。Google傘下のCapitalGがリードし、新規投資家としてBlackRock・Collate Capital・WiL、既存投資家として Goldman Sachs Growthなどが参加してSeries Bで131M USDを調達しています。

Clearcover

2016年にAmerican Family VenturesのPrincipalだったKyle NakatsujiとAmerican Family Insuranceを含む複数の保険会社でBDやPMとして25年の経験をもつDerek Brighamにより創業。保険の見積もり・契約申し込みから保険金請求までをApp上で完結できる自動車保険を提供。自動車販売業者やマーケットプレイスにAPIを開放して保険商品の見積もりが簡単にできるようにして、顧客流入コストを削減しています。OMERS Ventureがリードし、既存投資家のAmerican Family Venturesなども参加したSeries Cで50M USDを調達しています。

Justworks

2012年にIsaac OatesとIris Ramosにより創業、人事・労務SaaSで、福利厚生パッケージの一部として生命保険や医療保険を提供。先述のZenefitsとは競合で、PEOモデル(税法上の雇用主として顧客企業の従業員の人事・労務業務を請け負う)を取っていることから中小企業にとって大きな負担となる福利厚生やコンプライアンス対応にかかるコスト負担が軽減されることが特徴です。FirstMark CapitalとUnion Square Venturesがリードし、Index VenturesやThrive Capitalも参加したSeries Eで50M USDを調達しています。

Digit Insurance

今回ご紹介する中で唯一のインド企業です。Allianzのドイツ本社やインドのJVで要職を務めたKamesh Goyalにより2016年創業。創業翌年には保険ライセンスを取得して、オンラインで自社の損害保険や医療保険を販売。AmazonやFlipkartといったECサイトと提携してスマホ向け保険を販売したり、OTAと提携して飛行機の遅延に対する保険を販売したりと、パートナーチャネル戦略も巧みです。Sequoia Capital Indiaの元パートナーたちが設立したA91 Partnersなどから84M USDを調達しています。

上巻のまとめ

・2015年ごろからユニコーンが輩出され、本格的に右肩上がりで伸長してきたInsurtech領域への投資額は2019年には7,000億円超となった
・2020年第一四半期は投資鈍化、特にCOVID-19の影響が出始めた3月後半から急激に縮小
・2020年第一四半期の大型調達案件(50M USD以上)は5件、オンラインでの自社保険販売からno-code platformまでバラエティに富んでいる

長くなってきたので下巻(で終わるのか・・・)に続きます。次の記事ではInsurtechの類型について、保険の種類や改善するプロセスの観点から分類して、具体的なスタートアップに触れながらご紹介する予定です。

Fintech全般、Insurtech、個別のスタートアップについてもディスカッション・コメントできる方ぜひぜひ、大歓迎です。間違いがあればどんどん指摘いただけると助かります。引き続きよろしくお願いします!


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