見出し画像

3つの駅、3つのためらい

今日私は、3つの異なる駅で、3つの全く異なる出来事でためらい、ためらった結果行為を実行しない、という経験をした。

その3つの出来事と私のためらいについて書いていこうと思う。


最初の駅は、銀座線の虎ノ門駅でのこと。

上り階段の前に、黒い大きなスーツケースをもった女性がいた。きちんと顔を見なかったが、アジア人観光客の印象だった。彼女がその重そうなスーツケースを持って上がる準備に取り掛かっているところに、私は居合わせた。

私は一瞬、スーツケースを階段の上まで運ぶ手伝いを申し出ようと思った。ただ、どういうわけか、結局それを言い出せず、私は彼女を尻目にひとり、階段を上ることになった。なぜだろう、それを申し出ようと思った刹那、私の中に、「もしかしたら失礼に当たるのではないか」という考えが浮かんだのだ。

私が階段を上りきるころ、彼女はちょうど中腹あたりにいて、スーツケースを一度下に置いて休憩をしているところだった。そこまで戻って手伝おうかとも思ったが、結局私の足が彼女の方を向くことはなかった。


渋谷駅で湘南新宿ラインを待っているときのこと。

定時に会社を上がった人たちがちらほら見受けられる時間帯だった。私はそんな人たちが作り出す列の真ん中あたりで電車が来るのをぼんやりと待っていた。

ホームに電車が入ってくる。15両と長い電車の後方車両に乗る列で待っていたので、いつもよりも目の前を通る電車が作る風を受ける時間が長い。

ようやく電車が止まり、扉があく。幾人かが下車。私の前にいた4人ほどが徐に動き出す。

ふと、正面の電車に向かって私の少し右にある柱の足元に、白い大きなリュックサックがあることに気づく。私の前に並んでいた人のものではなさそうだ。すると前の電車に乗った人が、ホームにこのリュックを置いたまま電車に乗ってしまったのだろうか。

時間にはまだ余裕がある。駅員室まで持っていこうかとも思ったが、結局私はその大きな白いリュックを素通りして電車に乗り込む。最近のパリのメトロで、やたらと忘れられた荷物とテロの可能性を関連づけたような張り紙を見かけたからかもしれない。

あの白いリュックはその後どうなったのだろう。持ち主はリュックを置いてどこへ向かったのだろう。


横浜駅で乗り換え電車を待っていた時のこと。

ちょうど帰宅ラッシュの時間帯だったこともあり、横須賀線のホームには等間隔で人の列が、まるで街路樹が並ぶ郊外のまっすぐな道のようにできていた。私はその中のひとつの前から2番目にいた。

紺色のポロシャツを着てリュックを背負った高校生の男の子が、列を無視して私の斜め前に来た。右手にはスマートフォン、耳にはワイヤレスイヤホン。

彼が何をしたいのかがよくわからず戸惑っているうちに電車が到着した。すると彼は、こともあろうに私の前に割り込もうとしたのだ。

後ろからリュックを掴み引っ張って注意しようかとも思ったが、あれこれ問題になりそうなのでやめた。その代わりに彼に私より先に乗車することだけは阻止した。

混雑する車内で、優先席に平然と座り、スマートフォンで動画を見ていた。彼の行動からは、まるで周りの人など存在していない、ただひとりの世界を生きているように感じられた。そういう行動をする人にありがちな“敵意”のようなものは一切なかった。


これら3つのためらいは、結局行為に及ばずによかったものも悪かったものもあるだろう。一方で、もし行為に及んでいた場合、結果的にどれがよくてどれが悪かったのか、私にはイマイチわからない。どれもやらなくて正解だったかもしれないし、もしやっていたら思いがけないいい帰結が待ち受けていたかもしれない。

ただ、きっと私は、こういった類のためらいに出会したときに、きっとそれをしないという選択をとり続けるのだろう。私はそうやって、人生を安全に保守的に、そして場合によっては得られたはずのものをとりそびれながら、生きていくのだ。

なんだか寂しかった。


【çanoma公式web】

【çanoma Instagram】
@canoma_parfum
 #サノマ #香水 #フレグランス #ニッチフレグランス #canoma #canoma_parfum #パリ
#フランス

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?