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満たされているのかもしれない

ウィーンからパリに戻ったのは土曜日の深夜だった。

ミラノとウィーンに合計で4日間滞在したが、どこへ行っても少なくともパリ以上にはいい対応を受けた。ミラノで一緒に過ごしたフランス人の女の子も、「改めて考えると、フランスのサービスレベルはどうしてあんなに低いんだろう…」とため息をついていた。

だからパリのオルリー空港から乗ったタクシーで酷い対応をされた時、一瞬で“現実”に引き戻された。大音量で動画を流しながら運転するわ、道は間違えるわ、料金は騙そうとするわ、荷物を出すのも手伝わないわ…と、何から何まで最悪だった。

日曜は友達との朝ご飯から始まり、その後パッとしないミーティングを挟んで、ランチを調香師のアトリエでご馳走してもらってから香りに関する打ち合わせをした。アトリエを出たのが夕方4時ごろ。その日はどういうわけか、その頃にはどうしようもなく眠くなっていた。月曜日のフライトで日本に戻る予定だったので、本来であれば最終日は買い物でもして過ごしたかったのだが、眠気に打ち勝てず、結局帰りがけにスーパーで夜ご飯とポテチを買っただけで家に直行した。

無性にポテチが食べたかった。「ポテチが食べたくなる」というのは私における悪い兆候のひとつだ。そういう時はだいたい自覚症状のないストレスが溜まりに溜まっている。ここしばらくはポテチから遠ざかっていたが、2週間で3都市を回った今回の過密スケジュールに私のメンタルはポテチ無しでは耐えられなかったようだ。

5時前に帰宅するや否やポテチ半袋ほどを一気に平らげた。その後忘れてかけていた眠気に改めて襲われ、アラームを2時間後にセットしてベッドに潜り込んだ。


目が覚めるとあたりは真っ暗だった。時計を見ると夜11時手前だった。6時間弱眠っていたことになる。

帰国の準備を全くしていなかったので、とりあえずはパッキングに取り掛かった。今回は予想に反し、行きに比べて帰りの荷物がかなり多くなってしまった。物理的に大きな買い物をしてしまったのがその理由だ。大小ふたつのスーツケースにあれこれ考えながら荷物をテトリスのように詰めていった。

パッキングは1時間ほどで終わり、その後は1週間後に行うプレゼンの準備をした。プレゼンをすることは1ヶ月ほど前から決まっていたのに、どうしてもっと前から準備をしなかったのだろう。私はいつもこうなのだ。

朝4時前になんとなく形になったところで、そこから1時間半だけ仮眠をとることにした。起床後はシャワーを浴びて朝ご飯を済ませた。フライトは12時半だったが、朝の渋滞に巻き込まれるのが嫌だったのと、空港でプレゼンを完成させようと思ったので、6時半ごろにUberを呼んで空港に向かった。

空港までの道はスムーズだったが、シャルル・ド・ゴール空港のターミナル2付近になると急に渋滞にはまってしまった。

「60年前の設計当時は今日のような交通量は想定されていなかったんだ」

運転手のモハメドはいう。

「ターミナル2Eに行くためには、Aから順に通っていかなければならないんだけれども、それが渋滞の原因さ」

なるほど、ターミナル2に向かうすべての車が同じ細い道路を抜けていかなければならないからそれがボトルネックとなるわけだ。

そこから彼と少しだけ会話をした。フランス生まれだが育ちはチュニジアで、フランスに戻ってきてからはタクシーの運転手で生計をたて、その後Uberの運転手になったとのこと。

「パリのタクシーはパリでしか客が拾えないんだ。例えばパリからヴェルサイユに乗せていったとして、帰りにヴェルサイユでパリに行く客は乗せられないんだよ。そういう決まりなんだ。ヴェルサイユのタクシーの仕事を奪うことになるからね。Uberだったらそんなことはない。君を下ろした後に空港からの客が見つかれば乗せて帰れるし、明日俺がマルセイユに引っ越してもすぐに働ける。まぁ、稼ぎについてはどちらも変わらないけどね」

タクシーとUber、どちらが好きかを尋ねた私に、彼はそう返した。

「いとこが日本にいるんだ。俺と違ってみっちり勉強したから、何やら賢そうなことをやっているよ。もう15年くらい会っていないけど、たまに電話で話すよ。日本はこっちと違って規律立っているみたいだね。中国だったか韓国だったか…まぁ忘れたけど、独裁者が国民に押し付けているのと違って、そこに住む人々がその意思によってやっているのであれば俺はそれはいいことだと思うんだ」

きっと彼は北朝鮮のことをいいたかったのだろう。また、日本人が自らの意思によって秩序だった生活をしているのかはなんともいえない。いずれにしても、彼が想像する日本やその他アジアの国々は、とても不思議なところなのだろう。


タクシーを降りる時、ラジオからはスパイスガールズの『ワナビー』が流れていた。

If you wanna be my lover…

何度も耳にしたことがあるはずなのに、そういえばちゃんと歌詞に注目したことがなかったことに今気づいた。女性の友情に関する歌だとはじめて知った。


こうして今回の出張は、FAEMA E61から始まり、『ワナビー』と共に幕を閉じることになった。たった2週間だったけど、ひどく長く感じた。それだけ充実していた、ということだろうか。

Yo, I'll tell you what I want, what I really really want.
So tell me what you want, what you really really want.

本当に欲しいもの、ねぇ…今の私にはよくわからない。いっぱいあるはずなのに、いざ尋ねられると何も出てこない。

満たされているのかもしれない。


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