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キャバクラの夢

ひとりキャバクラに行く。

南国リゾート風の内装なのに、ところどころサイケデリックな蛍光色が用いられているのが不思議だ。私は蛍光ピンクの直方体のスツールに腰掛ける。

イメージしているキャバ嬢らしからぬ女の人が私の斜向かいに座る。緑のロングドレスで、年齢は私と同じか少し上くらいだろうか。細身で高身長、派手さはなく、ドレスを着ていなかったら普通の会社員、という感じだ。

「こういうところに来るのははじめて?」

どうやらここは入り口にあたる場所で、キャバクラの“本会場”はその奥にあるようだ。つまりは彼女もキャバ嬢ではないのだろう。

「とても辛いことがあったんだ。だからどうしても誰かと話したくて」

彼女は何も答えず、私に一枚の紙を差し出す。単行本の表紙くらいのサイズのそれは、私に古いが洒落た喫茶店のメニューを思わせる。少し黄色がかった手触りのある紙で、写真はなく横書きで文字と記号が並んでいる。

左側にはずらりと単語が並んでいる。「美しい」「麗しい」「セクシー」「派手」などの文字が並び、各単語の横には、星やら音符やらサクランボやらのいくつかのマークがついている。それらのマークは、小学校の先生が生徒を喜ばすために仕込んでくる、可愛いシールを私に思い出させる。ただそれらはこの紙の上に黒で印字されていた。フォントや記号、紙質など、部分的にはレトロで可愛いものの、黒一色しか使われておらず、妙に“整っている”せいで、全体的には無機質な印象を私に与える。

どうやら各単語がそれぞれのキャバ嬢のおおまかな性格を表していて、その横の記号は彼女らの“評価”のようなものであるらしい。各記号がどのような評価を表現しているのかはよくわからないが、そのマークがたくさんついていればいる程、キャバ嬢として“優秀”ということのようだ。

単語の並びの最後の2つは、「優しい」と「癒し系」だった。ただ、このふたつの単語の横には記号がついていなかった。

「今の気分としては『優しい』か『癒し系』なんだけど、記号がついていないということは、あまりオススメではない、ということなのかな?」

私は率直に尋ねる。

「『癒し系』の子は入ったばっかりでイマイチなんだけど、『優しい』の子は可愛いしいい子だよ。ちょっと待っててね」

私の回答を待たずに、緑のロングドレスを着た彼女は、お店の奥に戻る。私はひとり、サイケデリックなスツールの上に残される。



…という、なんとも不思議な夢を見た。

キャバクラには人生で4回行ったことがある。六本木で2回、銀座で1回、浅草で1回。全て大学院生の時で、全てその時一緒にいた大人が行きたがったのについていっただけだ。自分でお金すら払っていないので、その時間とお酒にいくらかかっていたのかもよくわからない。残念ながら、その4回の全てにおいて、私はその面白さが理解できなかったので、以降一度も足を踏み入れたことがないし、積極的に行きたいと思ったことすらない。

当然のことながら、現実のキャバクラではこの夢のように不思議な紙のメニューは出てこなかった。


パリにきてちょうど1週間が経った。急な気温の変化、疲れ、外食続きが相まったのだろう、ここ数日体調を崩してしまっていた。今日木曜日は夜のミーティングまでの間をほぼベッドで過ごした。今は夕方4時過ぎ。外は雨。あと1時間ほどで家を出なければならない。その前にどうにかこうにかこのnoteを書いている。

帰国まであと1週間ちょっと。ここからは少しスローになるので、タイミングを見つけてうまく休もうと思う。とはいいつつも、実際はそううまくは休めないのだろうけど。


それにしても…あの夢はなんだったのだろうか。今の私は、実は寂しさや悲しさで満たされていて、優しさや癒しを必要としている、ということなのだろうか。ただ、なぜその場所がキャバクラだったのだろうか。私はキャバクラという場所に、何を求めているのだろうか。不思議でならない。


さて、そろそろ家を出る時間だ。準備をしなくては。1日ゆっくり休んだので、体調もだいぶ回復した。雨もどうやらあがったようだ。


いつかまた、キャバクラに行くことはあるのだろうか。ないような気もするが、もしそんなことがあれば、優しい子に当たればいいな、と思う。


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