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でぃれくしょんといふものを、してみむとて

あれはかれこれ一年ほど前のことだったと思う。

東京駅構内にある「IDÉE TOKYO」でのポップアップの後に、IDÉEの方から「çanomaと共同でIDÉEオリジナルのディフューザーを作りたい」という話が出た。

私としては大変興味があったが、ひとつ制約条件が。それは、とある日本の香料メーカーと一緒に香りの制作をしなければならない、というもの。つまり、çanomaの香りを手がけている調香師Jean-Michel Duriez氏を起用できない。

çanomaというブランドはフランスの調香技術と日本の感性に裏打ちされて香りを制作しているので、その条件をそのまま呑むことは難しかった。そんなわけでその時は一旦お断りをした。

ただ、私としても可能な範囲でプロジェクトに取り組みたい気持ちはあったので、関係者全員で一度ミーティングの場を持った。そこでの議論の結果、çanomaとしてではなく、私個人が香りのディレクションをし、その香料メーカーの調香師にレシピ作成をお願いする、という形で、とりあえずプロジェクトに取り組んでみることになった。

そんなスタートだったこともあり、無事に発売にこぎつけたことにホッとしている。


難しく感じる場面も多々あった。普段は私がただ作りたいものを作ればいいだけだが、今回はIDÉEの担当者が持ってきたイメージを元に、その方が表現したいものを香りとして具現化しなければならなかった。あくまでも主役はIDÉEの担当者なので、あまり口出しし過ぎないように注意しながらも、意見するべきところはしっかりと主張をするという、この“匙加減”は大切にした。また、いつもとは違う調香師だったので、最初のうちは慣れないコミュニケーションに戸惑いを感じた。

一方で、全体的にはとても楽しくプロジェクトに取り組むことができた。調香師とのやり取りも、慣れてくると知的で楽しいものとなった。


プロジェクト全体を通して特によかったのは、IDÉEの担当者の“成長”を真横で見ることができたこと。

一番最初の試作が上がってきた時のことをよく覚えている。その香りに対してのコメントを求められ、開口一番に彼女がいったことは「売れるかどうかわからない」だった。その際には「クリエーションの現場でそんな色気のない発言はやめてください」と、半分冗談、半分本気でたしなめたが、私はこのプロジェクトの行く末が不安で仕方がなかった。当初は「新しいものが作りたい」と意気込んでいたのに、彼女がこのスタンスのままだと結局変わり映えのしないものが出来上がってしまいかねないし、そもそも私がいる意味がない、と感じてしまった。

そんな彼女が、いつの間にか調香師に感じたことをそのまま伝えられるようになっていたのだ。今では私は彼女の発言の後から軽い補足をするだけで十分な状態でプロジェクトを進めることができるまでになった。


また、今回のプロジェクトがうまくいったのは、ある調香師さんの力によるところが大きかった。その方が作る香りには、どれも知性が感じられた。私たちのブリーフィングをきちんと咀嚼し、その方なりの解釈で試作を出してくれていたことがそう思わせてくれた理由だと思料する。本来であればその調香師の名前を挙げたいところだが、香料メーカーの方針でそれができないとのこと。残念でならない。


しっかりした形での他ブランドのディレクションを行うのはこれがはじめてだった。そこで感じたのは、自分にプレッシャーをかけることになるが、やはりディレクションは重要である、ということ。もしIDÉEの担当者だけでこのプロジェクトを進めていたら、他の条件が同じでも全く違うものになっていただろう。どんなにお金をかけても、どんなにいい素材を使っても、どんなにいい調香師を起用しても、ブランドのアイデンティティはディレクションにしか宿っていないのだから。

よく「調香師がいるのであればディレクターは必要ないのでは?」ということを聞かれるが、このプロジェクトを通して、ディレクションの重要性を再認識することができた。それだけでも私にとっては大きな収穫だったと思う。


コレクション名は「ensemble」。

香りは「concreto」、「viento」、「luz」の3つ。オープンしたばかりのIDÉE新宿店とオンラインで先行発売中(5月10日から全店で発売予定)。

4月27日(土)と28日(日)の13時から17時まで、IDÉEの担当者と私が新宿店の店頭にいます。ここでは書けない裏話も、店頭だったら聞けるかも…?


ということで、来てね。待ってます。


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