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夜の雨と室外機

お久しぶりね、元気にしてた?なんだかひどい顔してるわね。

いろいろなことが、あまりうまくいっていないようね。そんなことすぐわかるわよ、ちょっと見れば。もう長い付き合いじゃない。


実は私もね、ここのところ色々空回りしていたのよ。つらかった、とっても。本当よ。

いろいろなものが私を癒そうと試みたわ。美味しいアイスクリーム、桃、素敵な絵本、虹、雨上がりのアスファルトの匂い、夕暮れ時のセミの声、夏の大三角…みんなすごく頑張っていたんだけど、全然ダメ。私、砂漠になったみたいに、飲んだ水が身体を通り抜けてどこかに消えてしまっているの。私自体は全く潤さないで、私が飲んだその水は、胃のなかにある穴から時空を通り抜けて、きっと太陽の近くに排出されるの。そして排出された瞬間に、ジュッ、って蒸発しちゃうのよ。

ジュッ。


私のところでは、ちょっと前に雨が降っていたの。でもここにはそんな痕跡はないわね。私たち、天気すらも共有できないくらいに離れ離れになっちゃったってことね…でもいいわ、私は来たい時にすぐにここに来れるから。

あなたは、なかなか来てくれないけど…きっとあなたのところから私のところへ来るのには、その反対に比べて、時間と労力と、あと“来る理由”がずっとたくさん必要なんでしょう。そんな気がする。

それでね、さっき家でひとり絵本を読んでいた時に、雨の音が聞こえたの。その音に吸い寄せられるようにベランダに出て、そのままそこにぺたんと私、座り込んじゃったのよ。壁に背をもたせて、しばらくぼんやりしていたわ。室外機は私に風を送り続けて、湿った空気は私の肌をしっとり濡らしたて。時々雨粒も私に挨拶に来た。

外にあるものは、みんな嬉しそうにしていた。鉢植えも、自転車も、電柱も、みんな雨を喜んでいたわ。

嬉しくなかったのは、きっと私だけ。

でもしばらくじっとしていたら、だんだん私も嬉しくなってきたの。私も外で濡れそぼっているみんなみたいに、濡れていくことが素敵なことに思えてきたの。

まるでアラジンの魔法の絨毯みたいだった。雨は強くなったり弱くなったり、ずっと変化し続けるの。でもそれは記憶の中にある少し前の雨と、今目の前で降っているそれとを比べないと分からなくて、今この瞬間に降っている雨には変化しているという“傾き”みたいなものは存在しない。地面と水平方向を保ちながら地表スレスレを飛んだり雲の上を漂ったりしてるみたいに私には感じられたの。だから、アラジンの魔法の絨毯。

絨毯の上で、私ははじめて男の子とキスしたあの日の帰り道を思い出していたわ。遠い昔のことよ。世界がまるで変わってしまったように思えたわ。そしてきっと、それは本当だったの。あの帰り道、私はそれまでとは違う世界にいたのよ。喜びとか痛みが、より質量を伴ってヴィヴィットに感じられる世界に、私は放り込まれてしまったの。

そのことに気づいた時、私、元の世界に戻ろうと思って泣き叫んだわ。でもダメ。もう手遅れだった。そしてその日から、何もかもがうまくいかなくなっちゃったの。

でも今日絨毯の上で気づいたわ。もし元の世界にい続けたら、きっとそれは、死と同じことなんだ、って。お姫様にキスされたカエルが元の王子様の姿に戻るのお話あるでしょう。あれみたいに、あの日のキスがなかったら、私、ずっとカエルだったのよ。

私、この何もかもうまくいかない状態を、きちんと受け入れないといけないんだわ。うまくいきっこないのよ、絶対に。カエル時代に食べたハエとかクモはまだ身体に残っていて、王子様になった後にどんなにたくさんステーキを食べてワインを飲んでも、それは消されないの。それでも世間には、「私は今までステーキとワインしか口にしたことございません」って顔しておかなきゃいけないんですものね。だからうまくいかなくて普通なの。


それに気づいたら、いてもたってもいられなくなって、魔法の絨毯でここまで来た、ってわけ。どうしても会いたかったの、あなたに。

あなたもきっと、この世界に来てからというもの、うまく歯車が合わなくて苦しんでいるのでしょう。できることならば、私の魔法の絨毯をあなたに貸してあげたいところ。本当よ。私、あなたのためならどんなことでもしたいと思う。

でもどうやら、魔法の絨毯は自分で見つけるしかないみたい。美味しいアイスクリームも、桃も、素敵な絵本も、虹も、雨上がりのアスファルトの匂いも、夕暮れ時のセミの声も、夏の大三角も、どれもこれも私には絨毯を見つける手掛かりにならなかったけど、蒸し暑い夜の雨と室外機のおかげで、私は今、こうして絨毯に乗れているの。

あなたも思いがけず、近いうちに絨毯が見つかるといいわね。大丈夫、きっとすぐよ。


それじゃ私、いくわね。次会うときは、お互い絨毯に乗りながら雲の上かもしれない…なんてね。

またね。


◆◆◆◆◆◆◆

時々こんなふうに、歳上の女性が現れて私に話しかける。そういう時はだいたい私は何かに悩まされていて、でもなぜそれに悩んでいるのかもわからない状態だ。

歳上のお姉さんの言葉は、それだけだと聞き取れなくて、このようにして文章にすることではじめて解読可能となる。それでも、それが本当はどういう意味なのか、私にもよくわからない。

私にもよく理解できないものを、このようにブログで公にすることに全く抵抗がないといえば嘘になるが、このnoteは楽しい気持ちで書かれたし、皆さんに読んでもらって、私の中にいる歳上の素敵な女性の存在を知ってもらえるのは、なんだか嬉しいことなのだ。

ここまで読んでくださった方、ありがとう。また彼女が出てきても、びっくりしないでください。それは私にとって必要なことであり、こうやって文章にすることで、私は救いの道を見出せるような気がしています。


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